第96回アカデミー賞ノミネート紹介第5弾!(最後)
第96回アカデミー賞ノミネート紹介第5弾(最後)
第96回アカデミー賞のノミネートを紹介します。第5弾は作品賞、監督賞、国際長編作品賞、長編ドキュメンタリー賞です。
作品賞
・アメリカン・フィクション
- ベン・ルクレール、ニコス・カラミジオス、コード・ジェファーソン、ジャーメイン・ジョンソン
【一人の怒れる作家が皮肉で出した本が大ヒット。ステレオタイプに当てはめようとする昨今の風潮を笑いながら、根底に敷かれた家族の物語が心を温める。新人離れした監督の手腕と魅力的なキャストの爆発力ある掛け合いがたまらない。】
・落下の解剖学
- マリー=アンジュ・ルシアーニ、デヴィッド・ティオン
【夫殺害の容疑をかけられた作家の妻の唯一の証人は盲目の息子だった。裁判劇を含むこのミステリーは事件の真相に近づけば近づくほど、鍵となる女のミステリーが深まっていく。熟練の映画術と主演の演技が光るパルムドール受賞作。】
・バービー
- デヴィッド・ハイマン、マーゴット・ロビー、トム・アカーリー、ロビー・ブレナー
【単なる人形の映画だと思ってナメちゃいけない。玩具箱をひっくり返したかのような笑いとピンク色と共に、女性の生きた喜怒哀楽が語られる。ガーウィグ監督の卓越したバランス感覚とキャストたちの楽しそうなケミストリーを力に、バービーが新時代の扉をぶち開ける!】
・ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ
- マーク・ジョンソン
【誰もがノスタルジーを覚える70年代。喜びも憂いもあったあの時代の冬、学校に残ることになった立場や性別、年齢も違う三人の交流。彼らの過去と現在が交わり、将来への希望を見出す道筋をペイン監督とキャストが美しく導き出す。】
・キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
- ダン・フリードキン、ブラッドリー・トーマス、マーティン・スコセッシ、ダニエル・ルピ
【巨匠スコセッシは熟練のテンポで白人による先住民虐殺の様を明らかにしていく。でも一番大事にされるのは先住民の沈黙させられた声だ。アメリカと先住民の憎しみに満ちた関係性を提示し、白人の罪を打ち明ける圧巻の一作。】
・マエストロ:その音楽と愛と
- ブラッドリー・クーパー、スティーヴン・スピルバーグ、フレッド・ベルナー、エイミー・ダーニング、クリスティ・マコスコ・クリーガー
【音楽映画というよりもバーンスタイン夫妻の50年にわたる肖像の一瞬を切り取るロマンス映画の趣きが強い。作品の中央にいるクーパーとマリガンが、良い時も悪い時も寄り添った夫婦の姿に命を宿らせる。このロマンスなしでは20世紀最大のマエストロは存在し得なかったのだ。】
・オッペンハイマー
- エマ・トーマス、チャールズ・ローヴェン、クリストファー・ノーラン
【ノーランが初めて実在の人物の伝記映画を撮る。原爆の父オッペンハイマーがそのひとだ。世界の行方を変えてしまう脅威を発明した男は、あの渦のような時代をどのように生きたのか。監督の盟友マーフィーを主演に迎えた3時間の緊張感溢れるオデッセイを見逃すな。】
・パスト ライブス/再会
- デヴィッド・イノホサ、クリスティーン・ヴェイコン、パメラ・コフラー
【アメリカと韓国。二十余年の歳月。場所と時間によって切り離された運命の男女が再会する。まるで過去世のように遠い記憶が蘇りながらも、その溢れんばかりの感情が二人の失われし時を埋めていく。今年一番ロマンチックにして、涙を誘う珠玉の作品が誕生した。】
・哀れなるものたち
- エド・ギニー、アンドリュー・ロウ、ヨルゴス・ランティモス、エマ・ストーン
【胎児の脳を入れ替えられた成人女性が、体は大人のまま新たに人生を経験していく。そんな奇妙なプロットにランティモス監督と主演ストーンは果敢に挑む。その世界はカラフルで、奇抜で、不条理で、理不尽。激烈ジャンプと無限の好奇心を大胆に爆発させて、その奇怪な生に祝杯をあげる。】
・関心領域
- ジェームズ・ウィルソン
【寡作の名匠ジョナサン・グレイザーは今作で、アウシュヴィッツ強制収容所を今までとは異なる角度から切り込んでいく。収容所を管理する司令官一家の優雅な毎日を明らかにしながら、画面の外で起こっている身の毛のよだつ行為を示唆する。人間がどれほど残酷になれるのか、身をもって体感することだろう。】
監督賞
・ジュスティーヌ・トリエ
「落下の解剖学」
近年フランス映画界でその存在感を大きくしてきた気鋭の監督ジュスティーヌ・トリエがオスカー初ノミネート。単なる裁判劇、スリラーに収まらないスリリングなミステリー演出に誰もが舌を巻いた。パルムドール受賞の熱気。
・マーティン・スコセッシ
「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」
とうとう巨匠が監督賞の記録を塗り替えた。81歳でのノミネートはこの部門、歴代最年長となる。年齢を重ねてもなお、その手腕は鋭さと重みが増すばかり。長尺なんてなんのその。私についてきなさい。
・クリストファー・ノーラン
「オッペンハイマー」
映画ファンに愛されながらも、オスカーからは愛を受けてこなかったノーラン。自身初の伝記映画で驚愕の映画術を連発する。時制を操りながらオッペンハイマーの知られざる内面を掘り下げていく。初の受賞は近い。
・ヨルゴス・ランティモス
「哀れなるものたち」
人の生理的部分をざわつかせるギリシャが産んだ鬼才が挑む、奇抜な設定の奇想天外な物語。なのに核となる成長は現代的にして芯がある。彼らしい意地の悪いユーモアはそのままに、生に対するセレブレーションの花火を打ち上げる様子に監督の新境地を見る。
・ジョナサン・グレイザー
「関心領域」
21世紀に入って手掛けた長編監督作はわずか4作。寡作の巨匠にとって初の候補入りだが、彼がオスカーに追いついたのではなく、オスカーが彼に追いついたのだ。ユダヤ人強制収容所を管理する所長一家の平穏な毎日を中心に人間の恐ろしさを炙り出す。その作家性に比類する者はいない。
国際長編作品賞
・Io capitano(イタリア)
・PERFECT DAYS(日本)
・雪山の絆(スペイン)
・ありふれた教室(ドイツ)
・関心領域(英国)
【ひとこと】枯れ葉は綺麗に掃かれました...。
長編ドキュメンタリー賞
・ボビ・ワイン:ザ・ゲットー・プレジデント
- モージズ・ブワヨ、クリストファー・シャープ、ジョン・バツェック
・THE ETERNAL MEMORY
- マイテ・アルベルディ
・FOUR DAUGHTERS
- カウテール・ベン・ハニア、ナディム・チェイクルーハ
・虎を仕留めるために
- ニシャ・パフージャ、コーネリア・プリンシペ、デヴィッド・オッペンハイム
・実録 マリウポリの20日間
- ムスチスラフ・チェルノフ、ミッチェル・マイズナー、ラニー・アロンソン=ラス
【ひとこと】いつになくシリアスなドキュメンタリーが揃ったこの部門。「ボビ・ワイン:ザ・ゲットー・プレジデント」は英語版が、ナショナル・ジオグラフィック公式YouTubeにあがっています。