彼はただのケン!〜ライアン・ゴズリング〜
ACTORS PROFILE Vol. 11
ライアン・ゴズリング
「バービー」
1980年カナダ生まれ。彼はただのケン!
彼はただのケンである。それ以上でもそれ以下でもない。以上。
▲ゴズリングは面白い俳優だ。面白い=興味深い、の意味も含まれるが、この作品ではシンプルに面白い俳優だ。初めてオスカー候補になった「ハーフネルソン」での薬物に溺れる先生、「きみに読む物語」でのロマンチックなムード、「ブルーバレンタイン」での愛の終焉の苦しみ、「ドライヴ」でのLAの街を走らせる無口なドライバー...等々、無口であればあるほどクールに決まるゴズリング。近年だと「ブレードランナー2049」や「ファースト・マン」あたりも寡黙なキャラクターだった。
その一方で、話始めると独特の面白さが出てしまうのもゴズリングの魅力だ。「ナイスガイズ!」の迷探偵ぶり、「ラブ・アゲイン」のマンガみたいなプレイボーイぶり、「ラ・ラ・ランド」でのジャズピアニスト...。言葉が増えるとともにコメディの優れたリズムが彼の身体の中で踊りだす。キャラクターに可愛らしい隙が生まれる。文字面は可愛くもなんともない「ラブ・アゲイン」のプレイボーイですら憎めない可愛らしさが滲んでいた。
▲だからケンというバービーなくしては存在しない人形に命を吹き込むことが出来た。ケンは不満だ。バービーの愛を勝ち取ろうとするが、そっぽを向かれる。粗雑な扱いを受ける。頑張りが報われない。極めつけに家もない。そんな彼が人間世界に迷い込むことで、男性がトップに立ち重要視される世界に触れて興奮するのだ。ここから先は憎たらしい振る舞いが続くのにコミカルで憎み切れない。しかし優位に立ったとて、彼はケンの縛りに苦しむ。そして歌いあげる。「ぼくはただのケン」と。全力だからこそ悲哀と笑いが同居している。
▲やっぱりゴズリングは面白い俳優だ。ケンの喜怒哀楽の旅路にケナジーをふりかけ、最後には現実社会の男たちすらも縛りから解放させる。ケンに新たな意味を見出したゴズリングの晴れやかな表情はまさしく"SUBLIME!"だった。彼の全力のケナジーをとくとご覧あれ。
ライアン・ゴズリングとアカデミー賞
・第79回アカデミー賞(2006)主演男優賞候補:ハーフネルソン
信頼のおける教師ながら薬物に溺れる主人公を演じて高評価を得たゴズリング。「きみに読む物語」でみせたロマンティックムードから一転のハードな演技に驚くばかり。26歳で初めてのノミネート。ハリウッド期待の若手に躍り出た。この年は「ラストキング・オブ・スコットランド」のフォレスト・ウィテカーが主演男優賞を総なめにしていたために受賞はノーチャンス。でも受賞アナウンスのときには、ウィテカーの受賞にガッツポーズで応えた。
・第89回アカデミー賞(2016)主演男優賞候補:ラ・ラ・ランド
現代ミュージカルとして大ヒット&高評価、アカデミー賞でも13部門14ノミネートの歴代記録に並ぶノミネート数を獲得した「ラ・ラ・ランド」。ゴズリングはジャズピアニストの夢を追うセブを演じて、10年ぶり2度目のノミネート。歌と踊り、ピアノ演奏の難しいパフォーマンスの数々でスクリーンに彩りを与えた。この年の受賞は「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のケイシー・アフレック。喪失と罪悪感を抱えた主人公の抑え込んだ感情を滲ませる絶妙な演技は心を震わせた。いつも派手な見せ場のある演技が受賞する傾向があるだけに、抑えに抑えたアフレックのような演技が受賞するのは珍しい。