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彼女たちは光を求めてムンバイの街を彷徨う「ALL WE IMAGINE AS LIGHT」第97回アカデミー賞期待の作品紹介Vol. 25

AWARDS PROFILE Vol. 25

ALL WE IMAGINE AS LIGHT

各映画サイト評価

Rotten Tomatoes: 100%(現時点)
Metacritic: 94(現時点)
IMDb: 7.4(現時点)
Letterboxd: 3.9(現時点)

あらすじ

 プラバは音信不通になっていた夫からの突然の贈り物に心を乱される。一方で、プラバの同居人アヌは、愛する彼と一緒にいられる場所を探していた。ここはムンバイ。彼女たちは、雲からわずかに差し込む一筋の光を求めていた…。

一年音沙汰のなかった夫から贈り物が届く

監督・キャスト・注目ポイント

 ドキュメンタリー作品「A Night of Knowing Nothing」が高く評価されたパヤル・カパーリヤー監督の初の長編フィクション作品となる今作は、インド・ムンバイに生きる女性たちの日常を静かに切り取っている。

ムンバイ

「A Night of Knowing Nothing」は、インドの映画学校で学ぶ”L.”の手紙をモチーフに、カースト制による身分の違いが原因で、彼と別れることになってしまった”L.”の現実を記憶とフィクション、幻想とともに語る異色のドキュメンタリーで、お披露目されたカンヌ国際映画祭でも絶賛された。

カパーリヤー監督は今作でもその幻想的な映像美を用いて、ムンバイに生きる女性たちの心の奥深くへと入り込んでいく。今回はフィクションではあるが、そのスタイルにはドキュメンタリーの精神が息づいている。ロケーション撮影では、なるべくそのまま撮影できるような場所を選択し、加えてその土地に住む人々、女性たちにも取材して、物語に取り込み、作品にリアリティを与えている。脚本も担当したカパディア監督曰く、キャラクターや彼女たちの関係性が作品の動力となっているそうだ。

舞台となるムンバイがキャラクターのように表情を見せる中で、そこに横たわる問題にも目を向ける。ムンバイは他の街よりも女性が暮らし、働くのに安全な都市ではあるものの、家賃の高さや快適な暮らしをするには難しい場所でもあると監督は語っている。そんな環境の中で自立した女性たちの友情と絆が描かれているそうで、プレミア上映されたカンヌ国際映画祭で絶賛を獲得し、グランプリにも選ばれた。ちなみにインド映画がメインのコンペティション部門に選ばれるのも30年ぶり。まさに記録尽くしだ。

評価

 インドの日常を切り取りながら、その生活の詩情を汲み取る至福の時間。大きな街に住むことで感じる孤独と、すぐ隣にいる人たちとの絆が心にしっとりと染みるそうだ。パヤル・カパーリヤーによる演出はキャラクターたちの心情に寄り添い、人生の悲哀と喜びをつぶさに掬い取る。女性にあらゆるベクトルでプレッシャーをかけるインドに生きる彼女たちの心情を繊細にスクリーンに刻み込む。その物語にインドの民話伝承、女性の物語を基にした監督独特の幻想的なアイデアが加わって、映画をスペシャルなものにしているそうだ。

雨が降るモンスーンの季節。青みがかった色彩の撮影がムンバイの街を従来とは異なる視点から照らし出す。フィクションの中に存在するノンフィクションを見つけ出し、フィクションに真実味を与えるカパディアのスタイルが、ナチュラルな手触りの現代の寓話へと人々を優しく誘う。

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