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建築家は戦後アメリカでブルータリズムの夢を見る「ブルータリスト」第97回アカデミー賞期待の作品紹介Vol. 3
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AWARDS PROFILE Vol. 3
ブルータリスト
各映画サイト評価
Rotten Tomatoes: 94%
Metacritic: 91
IMDb: 8.1
Letterboxd: 4.1
あらすじ
ラースロー・トート。ハンガリー生まれのユダヤ人である彼は建築家だ。ホロコーストを生き延びた彼は戦後、アメリカに渡り、アメリカンドリームを追い求める。そんな彼は彼の人生を大きく変える顧客に出会う…。
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監督・キャスト・注目ポイント
独裁者の少年時代を描いた「シークレット・オブ・モンスター」、銃乱射事件をきっかけにポップスターとしての人生を歩んでいく少女を描いた「ポップスター」と作品数は少ないものの強力なストーリーを紡いできたブラディ・コーベット監督の最新作は、戦後アメリカに翻弄された建築家の移民夫婦の物語だ。脚本はコーベット監督自身と、彼の公私にわたるパートナーにしてフィルムメイカーのモナ・ファストヴォルドが共同で担当している。撮影はコーベット作品常連のロル・クロウリーで、こだわりのビスタヴィジョンの70mm撮影が、観る者を50年代へと没入させる。
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主人公ラースロー・トートを演じるのはエイドリアン・ブロディ。その妻エルジェーベトはフェリシティ・ジョーンズ、主人公の人生を一変させてしまう実業家ハリソン・リー・ヴァン・ブーレンにガイ・ピアースが扮していて、他にもジョー・アルウィン、ステイシー・マーティン、アレッサンドロ・ニヴォラ等が出演している。最も大胆で先見の明のあった人々、つまりは祖先たちの勝利を祝う映画だと監督は語っていて、監督自身のハートと家族史に最も近いプロジェクトであると明かしている。
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評判
ヴェネチア国際映画祭でお披露目されるや大絶賛を受けて、コーベットは監督賞に値する銀熊賞に選ばれた。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」や「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」とも共通する豊かなテーマを誇りながら、古典的なハリウッド劇映画の色使いや感覚に、インディーズ映画独特の自由なエネルギーが合わさることで本作を完全にユニークなものにしているとの評。近年では珍しいインターミッション付きの215分という広大なキャンバスに、アメリカン・ドリームの追求についての刺激的な考察がなされていて、スリリングな演出とストーリーテリングの力が、豊潤かつ、明快で、簡潔な作品の確固たる足取りとなる。そこに撮影や編集、音楽、美術、衣装といった技術が、親密さとスケールのバランスを保ちながら物語をサポートしていて、215分の一分一秒が昇華されていく。美しく忘れがたい70mm撮影は遠く忘れ去られた過去の記憶をのぞいてるかのよう。
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もちろんキャストの演技は皆強力にして強烈。フェリシティ・ジョーンズが印象的に物語を彩り、ガイ・ピアースはキャリアベストのパフォーマンスをみせて、主演エイドリアン・ブロディは30年もの月日が流れる物語の中で変わり行く重層的な表情を浮かべる。
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「Boston City Hall」
芸術と美、アメリカンドリーム、野心のテーマが濃厚に絡み合い、そこに一人の男の一生が浮かび上がってくる。長尺な部分に細かな欠点を指摘されつつも、映画という芸術様式の最高地点を思い出させてくれる稀な作品であり、記念碑的な風格さえある。まるでブルータリズムのように頑強で飾らないアメリカ映画の一作が誕生した。
2025年2月21日日本公開。
観たら感想書くスペース
コーベット監督が10年もかけた作品だけに、この記事も時間をかけて長々と書きましたが、ブルータリズムとは程遠い冗長な文章が出来上がりました。