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女になった麻薬カルテルボスの情熱的な犯罪ミュージカル「EMILIA PÉREZ」第97回アカデミー賞期待の作品紹介Vol. 6

AWARDS PROFILE Vol. 6

EMILIA PÉREZ

各映画サイト評価

Rotten Tomatoes: 86%(現時点)
Metacritic: 71(現時点)
IMDb: 7.4(現時点)
Letterboxd: 3.6(現時点)

あらすじ

 麻薬カルテルのボスは弁護士の力を借りて、ビジネスから足を洗い、妻や子供たちの前から姿を消した。すべてのしがらみから自由になった彼は長年の夢だった女性として生きることを叶える…。

監督・キャスト・注目ポイント

 「預言者」や「ディーパンの闘い」といった濃厚なドラマで世界を熱狂させてきたフランスの名匠ジャック・オーディアール監督。硬派なドラマ作品を手掛けることが多い彼だが、今作は一転してミュージカルだという(とはいえ音楽が題材の作品もあるにはあるが)。しかも舞台はメキシコで、スペイン語、英語が入り混じる意欲作だ。主人公の元麻薬カルテルのボスでトランスジェンダーのエミリア・ぺレスを演じたのはカルラ・ソフィア・ガスコン。トランスジェンダーの彼女がトランスジェンダーの主人公を演じる意義は大きい。彼女を手助けする弁護士リタにはゾーイ・サルダナ、主人公の妻だったジェシーにはセレーナ・ゴメス、キーパーソンのエピファニアにはアドリアーナ・パスが出演している。彼女たち四人の演技が評価されて、カンヌ国際映画祭女優賞にも選ばれた。あとエドガー・ラミレスも出てるよ。

カーラ・ソフィア・ガスコン(左)、アドリアーナ・パス(右)

今作は、ボリス・レイゾンの2018年刊行の小説「Écoute」を下敷きにした、オーディアール監督のリブレットを基にしている。フランスの歌手カミーユによる楽曲とクレマン・デュコルによる音楽が作品を彩る。実生活でも夫婦である二人の情熱的なサントラはカンヌ国際映画祭でも最優秀サウンドトラック賞に選ばれた。作品自体も審査員賞を受賞している今作は、オーディアール監督史上最もぶっ飛んでいて自由な感性の爆発がみられるという。

セレーナ・ゴメス

評価

 ミュージカル、犯罪スリラー、メロドラマにまたがる、ジャンルを飛び越えた、気まぐれな振り子のような作品でありながら実直さを持ち合わせていて心をガッチリ掴まれるそう。不完全さがまた本作の魅力になっていて、大胆さとバカらしさの間を巧みに渡り歩く。男臭い世界を描いてきた監督による花火のようなド派手な発想の爆発力がキャラクターたちの感情の爆発に直結する。新たな人生を謳歌し始めるガスコンの情熱、複雑な情を滲ませたサルダナの胸踊る存在感、夫を失ったゴメスの渦巻く感情、心に触れるパスの輝きといったキャストたちの献身的なパフォーマンスの数々が、作品を別次元のテンションへと導いていく。キャラクターたちの万華鏡のような関係性も見応えがある。複雑に絡み合う彼女たちの人生を立ち上がらせる素晴らしくも独創的な音楽と楽曲。ダイナミックなダンス。刺激的な色彩感覚の撮影や美術、衣装。華麗な編集技。ここに集まった優れた才能たちが、作品のパワフルな鼓動となる。

ゾーイ・サルダナ

それらをまとめ上げたオーディアールの過剰な観点と装飾を削ぎ落した丸裸のハートが彼女たちの物語を真剣に語りあげることで、爆発的感情の中にある恐れを知らない心を見出す。トランスジェンダーの主人公が体現している人間が変化することで変わることと、また不変なことを炙り出す様子に見ごたえがあるそう。時にやりすぎるほどに派手でカオスだとか、中途半端な実験映画だとする否定的な評もあるが、多文化が交差するクィアネスと性の境をぶち破る贖罪と祝祭のミュージカルに観る者は恋することだろう。

長後の都知事の装飾を削ぎ落したマニフェストに長後の民は恋に落ちています。

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