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第96回アカデミー賞期待の作品紹介No. 6「オッペンハイマー」

AWARDS PROFILE Vol. 6

オッペンハイマー

RT: 93%
MC: 88
IMDb: 8.4

 時は第二次大戦、L・グローヴス中将は極秘任務のマンハッタン計画を進めるために、物理学者J・ロバート・オッペンハイマーを作戦に任命する。彼とそのチームは数年をかけて原爆の開発を行い、1945年7月16日のトリニティ実験をむかえる。その実験は今後の世界の行方を、オッペンハイマー自身の運命を、完全に変えてしまうことになる...。

 「原爆の父」として知られる物理学者J・ロバート・オッペンハイマーを描く伝記映画。カイ・バードとマーティン・J・シャーウィン著の「オッペンハイマー「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇」を基に、クリストファー・ノーランが監督と脚本を務める。過去にも実話を基にした作品「ダンケルク」があるが、今作のような題材を一人に絞った伝記映画は、監督にとって初めての挑戦となる。オッペンハイマーを演じるのは、ノーラン作品では常連のキリアン・マーフィー。妻キティにエミリー・ブラント、レズリー・グローヴス中将にはマット・デイモン、アメリカ原子力委員会のルイス・ストローズにロバート・ダウニー・ジュニア、他にもフローレンス・ピュー、ベニー・サフディ、ジョシュ・ハートネット、ケネス・ブラナーなど実力あるキャストが集結している。3時間にも及ぶ長尺の伝記映画だが、批評的にも興行的にも大成功を収めている。ノーランの見事な映画術は、観る者を単に映像に引き込むだけではなく、歴史が大きく動いた瞬間へと立ち会わせる。またオッペンハイマーが生み出し、また終わらせようとした現在も続く重要な議論に息吹を吹き込んでいる。野心、妥協、夢、政治、嫉妬、インスピレーションが丁寧に張り巡らされ、人間のもつ傲慢さを浮かび上がらせる。素晴らしい掛け合いを魅せるキャスト、目を釘付けにする豊かな撮影、緊張感を高め続ける編集、目に見えない何かが蠢くような不安を誘うスコアなど、全てが連鎖反応を起こし、文字通り恐ろしい爆発へ結実する。監督が最も大事にしたのはオッペンハイマーの視点とのこと。マーフィーは実験の前後で様変わりするオッペンハイマーの心の渦を体現した。自らが生み出したものの破壊力に打ちひしがれ、次第にやつれて、目から光を失っていく。一方でダウニー・ジュニアは、戦後オッペンハイマーと敵対する原子力委員会のストローズに扮して人の持つ冷酷さをスクリーンに滲ませる。ブラントにも重要な見せ場が用意されているとか。一人の男が体験した第二次大戦から冷戦、赤狩りの嵐を叙事詩のようにとらえた今作は、古風にして最先端な、監督にとって新たなステップとなる作品だという。2024年日本公開。

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