1999 椎名林檎と金田一(プログレッシヴ・エッセイ 第24回)
椎名林檎に嫉妬している。
かれこれ25年か。
1999年、アルバム『無罪モラトリアム』の衝撃がいまだに尾を引いているのだ。旧字体や漢文の接続詞の使用、縦書きの歌詞カード、ノイジーな音作り。
やられた。
私の主宰するバンド「金属恵比須」は当時高校3年生から浪人の頃。若気の至りでとにかくメジャーシーンの音楽を意味もなく憎んでいた。
メジャーでは絶対やらないでろう奇をてらったことばかりやっていた。
考え抜いて取り入れたのが、旧字体や漢文の接続詞の使用、縦書きの歌詞カード、ノイジーな音作りだったのだ。
すべてメジャーでやられてしまったのである。
しかも年齢が私の二つ上。
椎名林檎ショックは絶大。もしかしたら金属恵比須は椎名林檎に影響されていると思われかねない。
そこで方向転換を始めた。「文芸路線」である。「病院坂の首縊りの家」という曲を作った頃(CD未収録)で、横溝正史の音楽化に努めるようになり、文芸路線は今でも続いている。
浪人中、通っていた予備校の近くに大きな本屋があった。授業をサボって、ケチったお昼代を貯めて本を買っていた。『金田一耕助の冒険』(春陽文庫)を買ったのもその頃。「〜の中の女」というタイトルの短編が10作品収められている。当時のベーシスト小島剛広くんにこの本を見せたら、
「“中の女”シリーズで曲を作ると面白いかもね!」
と提案された記憶があるが、結局実現することはなかった。
それから25年。新曲を書くにあたりこの本を引っ張り出すこととなった。金田一耕助が謎解きで活躍するのが、阿佐ヶ谷、西荻窪、吉祥寺、三鷹、久我山など私に馴染みのある土地が多い。そこらへんを舞台とした曲を作りたかった。
なぜか。
椎名林檎への嫉妬心からだ。25年の時を経て『無罪モラトリアム』に対抗したくなった。このアルバムには、新宿、丸ノ内、御茶の水、後楽園、池袋などたくさんの地名が出てくる。しかしすべて山の手エリア。カウンターとして武蔵野台地をターゲットにして差別化を図りたい。
ということで仕上がった曲は「鏡の中の女」。三鷹駅が舞台だ。25年前のさまざまな事象が結びついてできるなんて、まるで金田一耕助の解く因縁深い殺人事件のようではないか。
なお、テーマには紆余曲折あり、「井ノ頭マゾヒスティック」という案もあった。
グヤトーンの匂いで飛んじゃって、メタルゾーン1つを商売道具にして、グレコで殴(ぶ)つ話。すべてお世話になっている国産の楽器メーカーに統一して。
こっちの方が真っ当に戦えたかも?
嗚呼しくじった、しくじった、まただわ。
※
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