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そこでしか味わえない物を食べてみる その2 ひとくちだけの別世界

ハッピバースデー♪
そこはネパールのカトマンズ。
路地裏にある民宿のような小さな宿でのこと。
その日は、旅の仲間の精神科のドクターの誕生日だった。
テーブルの上にはショートケーキサイズの飾りも、ロウソクもないごくごくシンプルなケーキが1個置かれていた。

さてこの話、書こうかどうか、書いてよいものかどうか私は迷っている。
日本ならば完全にアウトな危ない話なのだ。
かれこれ何十年も前の話だからもう時効であろう。
私の記憶を体験をやはり残しておきたくて、この話を続けようと思う。

このケーキ、実はハッシッシケーキだった。
Hashish (ハッシッシ  ハシッシュ )とは大麻草から作られるいわゆる大麻のこと。
とは言え見た目はごく普通のシンプルなケーキだ。
メンバーは8人くらいだったと思う。
そんな大したことは無いだろうと誰もが思い、皆で少しずつ食べたのだった。
とりあえず珍しい物は口に入れてみるという私だ。
私も一口食べてみるものの、匂いも味もそれと言って変わった感じもなく、特別美味しかったという記憶もない。
当然の如くプレゼントされたドクターが、喜んで多くを食べたのはいうまでもない。

しばらくして、いつも聡明なドクターが鼻水を垂らしてニタニタ笑いながら、ふらふらと立っていた。
私はといえば、空間の認識ができなくなり、白い壁が近くにあるのか遠くにあるのかがわからなくなっていた。
自分が前を向いているのか後ろを向いているのかさえも曖昧だ。
やがて引きずり込まれるように下に落ちる感覚があり、落ちたと思ったらさらに奥深く引きずり込まれ、さらにまた奥深くに引きずり込まれて行った。
そうやって3回引きずり込まれ、もはや自分がどこにいるのかわからず別世界に連れて行かれてしまった。
周りの音はなく、景色も見えない無の世界。
これを恐怖というのか、はたまたこれを快楽というのだろうか。

症状は人それぞれ違っていた。
素晴らしい音を聴いた人、綺麗な何色もの色を見た人、皆が時を飛び越え違った体験をしていた。
そしてなんと言っても一番の体験をしたのは、あの日誕生日だったドクターだったのはいうまでもない。

様々な芸術は幻覚によりこんな所から生まれてくるのだろうか?
痛みや苦しみはこうして取り去ることができるのだろうか?

それから何十年と経ち、ドクターは自分のこの貴重な体験を研究論文に書き発表をした。
私はその論文を読んではいないが、あの体験があったからこそ患者さんのことを理解できたと言う。
その後ドクターはメンタルクリニックを開業し、患者さんに寄り添った今では人気のお医者さまとなり研究を続けられている。

* 昨年12月 大麻取締法が75年ぶりに改正され、医療用大麻の使用が解禁されました。
2024年8月現在、医療用大麻の処方はまだ行われていないものの、今は医薬品の治験が進められ、今後の更なる研究に注目のようです。

辛い病と闘っている方々が、どうか少しでも救われますように。


お茶にしましょう
レアチーズケーキです
ひとくちと言わず どうぞ
今日はブラックコーヒーにしましょうか

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