【官能小説】堕ち逝く女装子会社員 第1話
プロローグ
「すいません。田村博紀(たむらひろき)さんですよね?」
マンションの玄関前で見知らぬ男に声をかけられて田村はギョッとしながら答えを返す。
「は、はあ。あの、確かにボクが田村ですけど。どちらさまですか?」
残業終わりの帰り道。時間はもう二十三時を過ぎていて人影は無い。
どう考えても怪しい。無視して行っちゃおうかなとも考えたが、名前を知っている事がひっかかった為無視できない。
「ああ、すみません。えっと……どこから説明して良いかな。実は私、田村博紀(たむらひろのり)というんです。貴方と同じ漢字で読みが違うんですがね。そして、このマンションの305号室。貴方の部屋の丁度真上にすんでいるんですよ。貴方は知らなかったみたいですけど、私は同じ漢字の人がいるんだなと気にしてたんで顔も覚えていたんです」
「はあ……」
「で、ですね。貴方、最近、インターネットの通販サイトで何か買いませんでしたか。」
「え? ああ……っと、どうでしょう」
言われた田村は途端に動揺してしまう。確かに彼には思い当たる事があるにはあった。男はその反応に満足したように続ける。
「貴方が購入した物は女性ものの服に下着一式。それからウィッグに化粧品。それから……」
「ど、どうして。それを……」
「間違いありませんね?」
「だ、だから何だというんです? ボクが何を買おうと自由ですよね? 寧ろ何で貴方はそれを知ってるんですか? 何か不正をしたんじゃないですか? 何が目的です? 強迫ですか?」
田村は言っている内に段々興奮して矢継ぎ早に質問を投げかけてしまう。
「違います違います。まあ、聞いてください。例の荷物が私の部屋に届けられたんですよ」
「あ……ああ、そういう、ことですか」
それで得心がいった。つまり届け先を間違えて送り届けられてしまったということなんだろう。
「申し訳ありませんね。私も通販は利用しているので、まさか違う人宛ての物が届いているとは思わずに開けてしまいましてね」
「いえ……それは、仕方ないことです。でも、その……。全部、見ましたか?」
「ええ、見ましたよ」
中身は先ほど言った通りのもの。女性用の衣料一式に化粧品。更にはバイブやアナルパール、アナルビーズといった所謂大人のおもちゃという奴だ。
「そ、その……あれは、ちょっとした好奇心で買ったものなんです。別に僕が実際使用してどうこうっていうものでもなくて」
勿論、嘘だった。彼には女装癖があり、その為の衣装を取り寄せていたのだ。でも、それは外聞が悪いので言いたくない。必死に言い訳にならない言い訳をしてみる。でも、男には見透かされたようだった。
「別に言い訳しなくても大丈夫ですよ。私は詮索するつもりはありません。ただ、間違って届いた物をお届けしたいだけですから」
男は人の好さそうな顔でそういう。しかし田村は冷静さを失いながら答えた。
「あ、そ、そうですか。すみません。ありがとうございます。そ、そうだ。何か、お礼させてください」
宅配の間違いもってきたくらいで普通ならお礼の品など送る事もないが、田村には負い目があった。所謂口止め料も込みで何か渡して黙ってもらおうと想ったのだ。
「お礼ですか? いや、それほどのことはしてませんし」
「いえ、わざわざお声かけ頂きましたし、物も保管しておいてくださいました。何か、何かないですか? そうだ、なにかごちそうしますよ」
「いえ、本当にそんなつもりはないんですが。あ、では、一つお願いできますか」
「はい。私に出来る事ならなんでもします」
「では、貴方があの衣装を着ている姿を見せて貰えないでしょうか?」