WRC 2023 Rd.6 Rally Italia Sardegna
20周年大会
サルディニアがイタリアにおけるWRCの舞台となって早20年が経過した。それまでは魔女の住む回廊とも揶揄されるサンレモが舞台で、これはターマックイベントだった。
筆者としては、幼少期の90年代にビデオに噛り付くように見ていた記憶からか、イタリアといえばサンレモという気分が未だに抜けない。
とっくにサルディニアへ移って20年も経つというのに、幼少期に触れたモノや感触というのは、中々拭えない。
ここ数年のWRCは、シーズン冒頭と終盤にターマックイベントが偏っているので、イタリア戦をサンレモに戻しても良いのではないだろうか……なんて思ったりもする。実情は、ヒト、モノ、カネの都合でサルディニアの方がプレゼンス力を持っているからこそ20年も続いているのだろうけど。
個人的には、サンレモを突っ走るRally1マシンを見てみたい気持ちは結構大きい。
ヌービル反撃の狼煙
このサルディニアは、ヌービルが昨年のラリージャパン以来の勝利を挙げた。今シーズンはポディウムに顔を出すことも多く、昨年よりもかなり安定して戦えている彼だが
ここサルディニアでは2日目以降、圧倒的なペースを見せ始めた。
首位争いをしていたオジェがSS14でコースオフ、その時点でそのオジェと競っていたラッピを抜く勢いがあったが、そのオジェのコースオフを見てラッピは大人の事情かペースを抑えたためヌービルが大きくリード。
そのまま危なげなく最後まで走り切り、半年ぶりの優勝を手にした。
この優勝でヌービルは選手権で2位にジャンプアップ、ロバンペラに25pt差でケニアへ乗り込むこととなった。
続くケニアは、過去2年あまり良い思い出の無いヌービル、そこからのエストニア、フィンランドも彼にとっては宿敵ロバンペラが得意とするラリーのため、サルディニアでの優勝は是が非でも欲しいものであった。
その絶対獲っておきたい勝ちを得たことで、次戦ケニアも上昇気流に乗れるのか、注目が集まる。
ウォータースプラッシュの魔
サルディニアは多くの選手がウォータースプラッシュに泣いた。特にトヨタ勢は勝田、エバンス、オジェの3名がウォータースプラッシュに泣き、フォードのタナックもウォータースプラッシュ後に電気系統トラブルを発症しデイリタイアを強いられた。
特に勝田は重症で、通過直後にマシンが損壊。冷却系に大きなダメージを受けたためデイリタイアとなった。
このウォータースプラッシュについては、雨により増水したことが原因の一つに挙がっており、GRヤリスRally1のハイレーキコンセプト(マシン自体が前傾姿勢になっているもの)との相性が悪く
深い水溜まりを底からすくい上げるように突っ込む形となり、エアロや冷却系に損傷を負いやすい状況が形成されてしまった。
優勝を争っていたオジェも、SS12で一瞬ヒヤリとする場面があり、SS12はなんとか首位を保ったまま走り抜けたものの、続くSS13でもウォータースプラッシュのダメージは追加され、その修繕のために車外であれこれした際、靴に泥濘となった泥が付着しSS14のミスコースへとつながってしまった。
この雨とウォータースプラッシュのサバイバルとなったサルディニアは、それらを切り抜けたヌービルが優勝、良いペースを見せ続けたが諸般の事情であろう事で最後まで争うことが無かったラッピが2位となり、ヒョンデは待望の今季初勝利を1-2で飾った。
ラリーポルトガル 2023 最終結果
1位:ティエリー・ヌービル/マーティン・ヴィーデガ(ヒョンデ)
2位:エサペッカ・ラッピ/ヤンネ・フェルム(ヒョンデ)
3位:カッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン(トヨタ)
4位:エルフィン・エバンス/スコット・マーティン(トヨタ)
5位:アンドレアス・ミケルセン/トルシュテイン・エリクセン(シュコダ) ※WRC2
6位:テーム・スニネン/ミッコ・マルクッラ(ヒョンデ) ※WRC2
7位:カエタン・カエタノヴィッチ/マチエク・シュチェパニアク(シュコダ) ※WRC2
8位:ヨアン・ロッセル/アルノー・デュナン(PHスポーツ) ※WRC2
9位:ミコ・マルチェク/シモン・ゴスポダルチェク(シュコダ) ※WRC2
10位:エリック・カイス/ペトル・チェシンスキー(シュコダ) ※WRC2
各チーム其々の週末
◆トヨタガズーレーシングWRT
毎シーズン、苦手意識の付きまとうサルディニア。21年こそ優勝したが、昨年は総崩れの様相に見舞われ、今年は・・・とドギマギしていたら案の定、増水したウォータースプラッシュとハイレーキコンセプトの相性が良くなくヒョンデの1-2フィニッシュを許す格好になってしまった。
が、失点数的には今季のスウェーデンよりも傷は浅く、3位と4位でラリーを終え、ロバンペラがパワーステージで5pt、オジェが2ptを持ち帰ったことで昨年に比べるとかなり善戦したラリーとなった。
実際、ヒョンデに許したポイント接近量を見ても、第2戦では10ptの失点でその差を詰められたが、今回は9ptで済んでいる。
たかだか1pt少なかっただけじゃないか、そう思う諸兄も居るだろうが、モータースポーツの世界ではその"たかだか1pt"に涙を呑んだエントラントは多い。傷は少しでも浅いに限るのだ。
苦難のラリーとはなったが、流石のロバンペラがキッチリパワーステージを制したことで5ptの加点、オジェも2ptを加えてダメージコントロールを完了した。
◆MスポーツフォードWRT
フォードはある種、この手の荒れる展開に結構強かったりする。その理由は、コンサバティブなマシン設計と長年参戦し続けているデータ量、更に元チャンプのタナックが走る。そうなれば、しぶとさはあるハズだった。
だが、案の定、改善が進まないプーマRally1の信頼性にルーベが消え、タナックもウォータースプラッシュ後の電気系トラブルでリタイア。
パワーステージこそ、なんとか4ptを手にしたが、ルーベが完全にラリーから消えていたこともあって微妙に見えていたヒョンデの背中は遠く霞んでしまった。
◆ヒョンデ シェル モービス WRT
待望の今季初勝利を得たヒョンデ、新プリンシパルのアビテブールに取っても初勝利となり、それを1-2というこれ以上ない形で奪取した。
事、金曜日のラッピのペースは良く、土曜日はそこにヌービルも加わり、2台でオジェを追う状況。結果的にはオジェがオジェらしくない自滅でタイムボードの遥か彼方へ落ちたため
ヌービルとラッピは無理なく1-2の維持に努める事となった。
ラリーに勝ったが、3台目のソルドを最終日にリタイアさせていたため、パワーステージでは無得点におわりトヨタに7ptの追加を許したことは、長い目で見ると失策とも取れるかもしれない。
シーズン後半には、スニネンの3rdドライバー昇格も噂されており、トヨタを捕らえるためにエストニアとフィンランドでのドライバー布陣の発表が待たれる。
ラリーサルディニアのおわりに
【1本50㎞の超ロングステージ】
今回の20周年記念大会を象徴するように、金曜日には1本で50㎞に迫るSS「モンテ・レルノ」が設定された。ステージタイムも30分を超えるような大ボリュームのステージで、ここの1本目走行のタイミングで思ったより乾燥しておりロバンペラはタイムを失った。
実はこのモンテ・レルノ、2014年には10回大会を記念して約60㎞のステージとして設定された過去があり、当時は土曜日に出番を控えていた。
因みにその2014年大会のモンテ・レルノ2走目となるSS14では、ラトバラが岩にヒットしマシンを壊して総合首位を手放す結果となった場所だ。
多分、日本の媒体だとあまりその辺の"思い出"について、ラトバラをイジるところは多くないだろうが、海外の媒体ではその辺の"思い出"についてラトバラに突撃インタビューしたところがあるかもしれない。
【勝田2本の1番時計】
ポルトガルを不本意な筋書きに終わった勝田としては、出走順も生かしてこのサルディニアでは良いパフォーマンスを見せるべく乗り込んだラリーだ。
結果的にはDAY2のSS3、DAY4のSS18で勝田はベストタイムを奪取。
特にDAY2のSS3でベストを奪取したことは、スピードは概ね引き上げられてきている証左だと思いたい。ただ、やはりまだ経験を積み上げている最中であり、その速さと安定感のバランスで勝田は更にもう一歩上へ行くところでもがいているのだと思う。
SS4では、岩にヒットしたが運よく事なきを得たがタイムロスを喫するなどという場面もあった。
SS18は、他の選手がパワーステージを控え抑え気味になった事が追い風にはなったであろうが、1番時計は1番時計だ。
SS19パワーステージでも3番時計を記録、WRC2のフルモーがコースオフしており、ラインが制約され少なからずロスを強いられたであろう中で、タナックに続く3番時計は価値あるものだと筆者は思う。
次戦はケニア、過去2年表彰台を得ているイベントだけに、勝田の活躍に期待が高まる。
【益々のパワーステージキング】
ステージの場所によっては雨が降ったり止んだり、またWRC2のフルモーのコースオフ撤去のため一時ステージ中断がある中
コンディションがグチャグチャで定まらない状況下、やはり飛び出したのはロバンペラだった。
フィニッシュした時のタイムは、タナックよりも4.7秒速く圧巻のパワーステージ勝利だ。ロバンペラは今季、パワーステージだけで24ptも加算している。
僚友のエバンスが9ptしか確保できていないところを加味すると、2.6倍もパワーステージで稼いでいる。タイトルを競うタナックが18ptと続き、オジェとヌービルが10ptとかなり開きがある。
ロバンペラはここまで毎戦平均4ptのパワーステージポイントを計上しており、残り7戦もその平均に則るとしたら28ptも加算することになる。
これは即ち1戦の優勝単発のポイントを上回っており、ヌービルが現状の平均1.6ptで推移した場合、11ptの加算に留まると単純計算できる。
そうなると、パワーステージだけで17ptもひっくり返す必要が出てくるため、シーズン後半のパワーステージ争奪戦もますます熱を帯びて来そうだ。
次戦は試される大地サファリ
次戦は6月21日~6月25日にかけて実施されるサファリラリー
昨年はトヨタが1-2-3-4で圧倒的な結果に終わったのも記憶に新しいラリーだ。
全19SS中、6本のSSがステージ距離30㎞に迫る設定がなされている他、今年も非常に細かい砂"フェシュフェシュ"が選手達を悩ませるだろう。
モンテカルロと並ぶ伝統のサファリラリー、今年のサバンナの王は誰になるのか、3週間後が待ち遠しい。
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