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【富士山お中道の生物図鑑】 イタドリ

  • 見られる場所・・・火山荒原

  • お中道での花の時期・・・7月〜8月

  • お中道での種子をつける時期・・・8月中旬〜下旬

イタドリ (別名 フジイタドリ、オノエイタドリ)

タデ科タデ属
学名: Polygonum cuspidatum var. compactum
〈虎杖〉
同定のポイント/ 雌雄異株。花序は円錐形。葉は卵形、長さ5〜8 cm、基部は切形。

出典:山と渓谷社「山渓ハンディ図鑑8 高山に咲く花」2002
注:タデ属について近年では諸説あり

イタドリは亜高山帯〜高山帯の砂礫地に生える多年草です。
低地の雑草として馴染みがありますが、富士山では火山荒原での代表的なパイオニア植物で、最もよく見られます。

パイオニア植物
遷移の過程で、初期のまだ植生が十分に発達していない段階で定着・成長できる植物種のこと。一般に、明るい場所を好み、乾燥や栄養不足に強い。富士山のように雪崩が頻発して地盤が不安定な場所では、傷害を受けても地下茎や萌芽ぼうがで再生できる植物がパイオニア植物となることが多い。

お中道のイタドリは、背丈が低く30~50cmくらいです。
葉は丸く小さく、茎は赤くなります。花は白~赤色とさまざまで、 花期は7~8月です。特に赤花をつける個体をメイゲツソウと呼びます。

白花のイタドリ
赤花のイタドリ

お中道で見られるのは高山に適応したイタドリ

お中道付近で見られるイタドリは、低地のイタドリが高山タイプに変異したものと言われています。

高山タイプのイタドリは、背丈が低いことに加え、茎・葉柄・葉の縁がアントシアン色素によって赤いことが特徴です。

実際、新葉が出始める時期(5〜6月)のイタドリの葉は、真っ赤な色をしています。これは、アントシアン色素を持つことで、高山の過剰な光エネルギーを吸収して細胞を守っていると考えられています。
(ちなみに、気温の上昇とともに葉の赤みは消えていき、夏には緑色の葉になります)。

赤い新葉(6月8日に撮影)。周りには前年の枯死した茎が残っている。

他にも、高山タイプのイタドリは、

  • 低地タイプより約1ヶ月早く花が咲く

  • 低地タイプより1.5倍重い種子を作り、素早く成長できる

  • 低温条件でも発芽しやすい

などの性質を持っています。

温帯低地性のイタドリが高山に分布を広げる際には、花芽を早い時期に形成する性質を獲得し、サイズが大きく低温でも速やかに発芽できる種子を生産することで新しい生態型を分化し、高山環境に適応していった。

出典: 共立出版 「高山植物学 第7章 高山草原・荒原の植物(富士山の高山草本)」
増沢武弘 編著 2009
翼を持つイタドリの種子。

樹木の定着を助けるイタドリ

イタドリのシュート(茎の集まり)の中に、しばしばカラマツやダケカンバが生えているのを目にします。

イタドリと一緒に生えるカラマツ

イタドリの根は、火山荒原のガラガラした動きやすい地面をガッチリと安定させます。またイタドリの落ち葉や枯れた茎は分解され土壌の養分になります。
その結果、イタドリのシュートの中ではカラマツやダケカンバは生き残りやすくなります。

カラマツやダケカンバを養育する働きをすることから、イタドリのような役目を担う植物を、生態学ではナース植物と呼びます。

同じタデ科のオンタデとの違い

お中道では、同じタデ科のオンタデがイタドリと似たような場所に生えます。

オンタデはイタドリとは異なり北方起源の種です。
富士山では、低地起源のイタドリと北方起源のオンタデの間に面白い標高分布の差が見られます。
両種の分布についてはこちら↓をお読みください。



富士山お中道を歩いて自然観察」の連載はこちら↓

「富士山お中道の生物図鑑」の連載はこちら↓


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