マイナス16度の日曜、殺される前に外に出た。
日曜の午後、一人。下腹部に鈍痛。やることは確かにあるけど、今それはやりたくない。かといって何をしたいというわけではなく、でもまたベッドに戻って寝るのはもったいない。とりあえずコンシーラーでニキビ跡をボカして、ジーンズを履いてメガネのまま外に出た。日の光を浴びなければ。
綺麗に晴れた空と辺り一面の雪。日光が雪に反射して思わず目を細めた。あまりにも寒く、小走りで最寄駅の一つ隣の駅を目指す。指先が痛い。手袋はネコ達に遊ばれて涎でベトベトなので、家に置いてきてしまった。フカフカに見える雪の下は凍っており、信じられないほどよく滑る。油断していると転ぶので、手をポケットに入れることはできない。失敗した。
まだ特にやりたいことは浮かばない。どこを目指せばいいのか、何を目的に出てきたんだっけ、なにも分からないけれど、駅に辿り着けば自ずとゴールが見つかる気がした。
今日の札幌の最低気温はマイナス16度だそう。東京の母がLINEで教えてくれた。日ごろからテレビをほとんど見ないと、天気についての情報は他人頼みになる。雨の予報も見逃すので、折り畳み傘を毎日カバンに入れている。そうか、やけに寒いと思った。
金曜の午後、当たり前のように生理が来た。そうかそうか、わかっていたよと見えない誰かに語りかける。それは、期待していた自分と、期待できなかった自分。だんだん私が子供を宿して産み育てるイメージすらできなくなってきた。会社の帰り道、腹痛をこらえながらゲオにDVDを返しに行った。借りる体力はなかった。
このがっかりイベントにも慣れてきたけれど、すべての努力が無になる数日、とにかく何をするにも腰が重い。ベッドに仰向けになってみたら、うっかり「死にたいな〜」なんて呟いてしまった。夫は職場に出かけた。車で出かけることはできないし、わざわざ地下鉄に乗って中心部へ出るほどでもない。しかし、このまま倦怠感と虚無感の海を漂い続けていたら、私は"生理"に殺されてしまう。
駅に着いて、入り口近くのミスドに入った。カフェインを摂ると生理痛が激化するため、カフェインレスコーヒーとフレンチクルーラー。子どもの頃からドーナツはこの一択。私は、もちもちのライオンには踊らされない。あっという間に炭水化物の砂糖がけをお腹に収めて、本格的にこの外出の計画を立て始めた。今日の晩ご飯とこの先1週間分のお弁当のネタ。ドラッグストアとスーパーに寄って、あれとあれとあれを買う。今日はチヂミパーティーにしよう。考え始めたら一瞬だった。
本当に寒い。鼻も痛いし耳も痛い。雪は降ってはいないけど、上着のフードを首元で絞る。足先の感覚を失いながら、それでも、外に出てきて良かったと思った。日の光が生きる力をくれるようだ。自分の吐息を聞きながら、「さむい、さむい」と繰り返しながら、だんだん身体の中から熱を発していることに気づく。そういえば、もう暦の上では春なんだった。まだまだ札幌は寒いけれど、朝6時半に起きると、朝日がすでに昇っていて、ベランダから向こうの山が見える。それが毎日たまらなく嬉しい。ちゃんと季節は巡っている。
車もない、活力もない私が、自分の脚を頼りに太陽の下に繰り出していくことは、何かを諦めようとしている自分自身への小さな抵抗だ。たまに、外的要因やホルモンのせいで、自分が分からなくなるし、信じられなくなる。しかし、一歩外に出てみると、確かなものは案外近くに転がっているし、思っていたより自分が自分を信頼していることに気付けたりする。29年の付き合いで、私という人間に根性がないのは分かっているから、「負けるな」とは言わない。でもこの長く辛い冬、雪の中で「腐るな」と思いながら春を待ちたい。
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