外出自粛と事業展開の自粛
コロナの影響を受け、自粛生活を続けて早くも5週目に突入した。このSocial Distanceはすでに観光業界や個人向けサービス事業に大打撃を与えているが、経済全体に更なる影響を与えるのはもっと先の話である。私は電力インフラ事業に関わっており、どちらかというとそのインフラという性質上、なくてはならない・(経済発展のためには)整備されるべき事業であるため、比較的需要の落ち込みという影響を受けにくいかもしれない。しかし、近年そのインフラ事業も政府向けから商業・産業需要家向けへとシフトしつつあることから、景気悪化の影響を想定せざるを得ない状況となっている。
今後の経済の流れを踏まえてどこに商機を見出すべきかを考える中で、旧来型のビジネス、新規ビジネスの両輪をどう進めていくべきか(どちらかに重きを置くべきか?)、というのが一つのポイントだ。電力インフラは、これまで中央管理型であった。しかし、ここ数年は新聞で見ない日は無いというくらい、「分散型」の電力インフラ整備が世界中で進められてきており、我々も徐々にそのような潮流に対応しようと各地で動いている。一方、総合商社がこれまで手掛けてきたインフラ輸出に関して、経済産業省の掲げる「インフラシステム輸出戦略」は、いわゆる中央管理型の「発電所」の技術を輸出するものである。いまだに一部の国(特にアジア)では、旧来型の大型発電所の輸出を進めているが、果たしてこのインフラ輸出は正解なのだろうか。いずれは「分散(型)電源」の輸出、あるいは「分散電源を活用した社会モデル」の輸出がインフラシステム輸出戦略に含まれればよいなと(時間がかかるので諦め半分で)期待するが、いわゆる”Leap-flog”(途上国で公衆電話が広まる前に、最初から携帯電話が普及するようなもの)の通り、大型発電所を経ずに最初から分散電源で電力インフラを整備するようなやり方があってもいいのではないか?そんなことも頭を巡らしたりする。もしかすると、日本政府のインフラシステム輸出戦略を変えるべく働きかけることも、一つの総合商社の果たすべき役割なのかもしれない。
また、分散電源の普及には、電力事業に直接関わらない一般の方々の理解が不可欠だ。水と同じように、スイッチを押せば流れてくるのが電気というのが常識となっている。普通の人が電力について考えるのは、支払の請求書を見るときだけであるため、「自分の生活がよりよくなる将来」、日本のみならず「世界の誰もが」不自由なく電力を使える将来像を一緒に考えるということも、今後我々電力事業者に課された宿命ではなかろうか。「恵まれた環境で多くの恩恵を受けている私たちだからこそ、できること…そのひとつは、ブロックチェーンを活用して、エネルギービジネスをより洗練させ、新しい社会モデルとしてこれから成長するアジア・アフリカに提供していくことです。」という一文が頭をよぎった(『ブロックチェーン×エネルギー』2018、江田健二著、エネルギーフォーラム)。途上国の経済成長に欠かせない電力インフラの整備に対して、先を行く日本で構築した新しい社会モデルを輸出する、そんな新しい貢献の仕方があるのか、とこれを読んだ当時の私は胸を震わせた。
確かに、to B(Business)向け、to C(Consumer)向けのビジネスは、そのBとCが自粛ムードにある状況下、慎重に方針を考えなくてはいけないのは事実だ。しかし、危機の状況にこそ、レジリエンスのある分散電源というのが求められるのではないか。世の中は自粛ムードであるが、インフラはどんな時にでも世の中を支えなくてはならず、インフラ事業まで自粛してはいけない。一人一人がエネルギーの安全を守られ、不足している人には融通されるような世の中を創るのが電力事業者が今果たすべき役割だ。昨年起きた台風の影響で停電が頻発した千葉でも、分散電源のおかげで助かったという話を耳にした。コロナの影響で先行きの見えない状況なのは確かではあるが、分散電源がいずれ必要になるし、そして今この危機の状況にこそ、必要ではないかと私は考えている。このような非常事態だからこそ、必要な電力のあり姿をイメージして「どこに舵を切るのか」を明確にし、仕事をする仲間が共通の理念を胸にした上で、上述の著書で江田氏が言うような「世界の誰もが」どこでも好きな時に電力を使えるような世界にするべく、今後も事業を展開していきたい。同じように、このような時期だからこそリモートワークでも貢献できる仕事は沢山あるはずなので、日本・世界中の皆さんと心のどこかで繋がっていると信じて、力を合わせて頑張っていきたい。