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元祖イマーシブ・オーディオ「AURO-3D」を徹底解説!

Live Extremeは2021年から最大192kHz/24bit/7.1chのサラウンド音声のライブ配信に対応していますが、最近は空間オーディオについてのお問い合わせもいただくようになりました。実はビット・パーフェクトでサラウンド音声が配信できるようになると、「AURO-3D」という技術を使って、ハイト・スピーカーを含む空間オーディオにも高音質で対応することが可能です。今回はそのAURO-3D技術について解説したいと思います。


空間オーディオとは

2019年にAmazon Music HDが、2021年にApple Musicが対応したことで、「空間オーディオ」(「3Dオーディオ」「立体音響」「イマーシブ・オーディオ」とも呼ばれます) という言葉がぐっと身近になりました。一般に、前後左右だけでなく、上下方向の音場も再現できる方式のことを空間オーディオと呼び、

  • ハイト・スピーカーを含むマルチ・スピーカー

  • 空間オーディオ対応スマート・スピーカー(Amazon Echo Studioなど)

  • サウンドバー

  • ヘッドホン

等での再生が想定されています。

ハイト・スピーカー設置イメージ

代表的な空間オーディオ・フォーマット

現在、空間オーディオとしていくつかのフォーマットが提唱されており、市場で競合しています。普及率の点ではDolby Atmosが大きくリードしていますが、それぞれのフォーマットにはそれぞれの良さがあり、用途によって使い分けたいところです。

家庭用の空間オーディオ・フォーマットとして代表的なものをまとめると、以下のようになります。

主な空間オーディオ・フォーマット(家庭用)

AURO-3Dの特長

今回取り上げるAURO-3Dは、ベルギーのNew Auro社が提供する空間オーディオ・フォーマットです。New Auro社によると、

アーティストがスタジオで聴いた音や、音楽や映画がリスナーに体験させるために意図した音に忠実な音を提供できるように、制作者の「創造意図」を最も尊重する

ことをコンセプトに開発されており、Blu-ray Discやデジタルファイル・ダウンロードなど、10年以上にわたって提供されてきました。

かつては上位モデルのAVアンプにしか対応デコーダーが搭載されていませんでしたが、最近は以下のような20万円を切る廉価な機材でもサポートされるようになってきました。

ちなみに、AURO-3Dは

  • 家庭用に開発されたチャンネル・ベースの「Auro-Codec」

  • デジタルシネマ用に開発された「Auro-Max」

  • ストリーミング用に開発された次世代コーデック「Auro-Cx」

を含む技術の総称ですが、以下、特に断りがない限り、Auro-Codecを使った家庭用AURO-3Dについて解説しています。

独自のAuro-Codecによるデータ圧縮

AURO-3Dの技術的な核である「Auro-Codec」は、2つ(あるいは3つ)のPCM信号を1つのPCM信号にミックスすることによってデータ量を削減しています。デコーダー段ではそれを元の信号に分離する必要があるわけですが、実は分離する際の手がかりとなる情報(メタデータ)もエンコード時に生成し、ミックス信号の下位ビット(最大4bit)に隠蔽しています。

Auro-Codecのチャンネル数削減方法

AURO-3Dでは、ハイト・チャンネルの音声が、対応する下層レイヤー(通常のサラウンド・チャンネル)の音声に足し込まれています。ここで、信号を受信したAVアンプにAURO-3Dデコーダーが搭載されていれば3Dオーディオとして再生されますし、無ければ通常のサラウンド音声として再生されます。後者の場合も、ハイト・チャンネルに含まれていた音声が消えてしまうわけではないのがポイントです。

この方式が巧みなのは、メタデータが音声データそのものに収録されている点です。これにより本来AURO-3Dを想定していないBlu-ray DiscやHDMI、更にはウェブ・ブラウザでも取り扱うことができるようになりました。仮に、受け手であるAVアンプやサウンドバーがAURO-3D非対応であっても、メタデータは-117dBFS以下のホワイトノイズでしかないので、聴感上問題が生じることはありません。

"ニア・ロスレス"圧縮という考え方

音声の圧縮方式はロスレスとロッシーの2つに大別されますが、AURO-3Dはその中間的な存在と言えます。エンコード信号のうち上位20bitは、2つの信号がミックスされているとはいえリニアPCMそのものです。一方で、デコードされた信号がエンコード前の信号と完全に一致するかといえばそうわけでもなく、その点ではロッシーな圧縮とも言えます。

このような圧縮方式を"ニア・ロスレス"という人もいますが、少なくとも現在インターネットでストリーミング配信できる空間オーディオ・フォーマットとしては最高音質と言えそうです。

ハイレゾ対応

AURO-3Dは96kHzのハイレゾ信号の入力にも対応しています。エンコード後は24bitのうち下位4bitはメタデータに使われるので、96kHz/20bitのハイレゾと見なすことができます。

チャンネル・ベース

他の空間オーディオ技術がオブジェクト・ベース(個々の音源の波形と座標を記録し、再生環境に応じてレンダリングする方式)を売りにしているのに対し、Auro-Codecは純粋なチャンネル・ベースです。オブジェクト・ベースは、一見理想的な考え方に思えますが、以下の点を踏まえると必ずしもそうとは言い切れません。

  • 音楽の場合、マスタリング(コンプレッサやイコライザ)という工程で最終的な音に仕上げるのが一般的だが、オブジェクト・ベースの場合は、再生時までスピーカー・レイアウトが未定のため、マスタリングという概念が存在しない。

  • 家庭用のオブジェクト・ベース・オーディオは、処理負荷やネットワーク速度の制限により、オブジェクト数が10~20個程度に制限される。このため、制作時に複数のオブジェクトを1つにまとめる工程が必要となるが、これは結局のところチャンネル・ベースの考え方に近い。

ゲームやアクション映画などではオブジェクト・ベースの考え方は有用だと思いますが、通常の音楽においてはチャンネル・ベースでの制作の方が良い結果が得られるという意見にも頷けます。

代表的なスピーカー・レイアウト

以下に、AURO-3Dが対応している代表的なスピーカー・レイアウトを示します。5.1chサラウンド信号をベースとしたものとして、ハイト・レイヤーに4chを追加したAuro 9.1、加えて頭上にトップ・スピーカーを追加したAuro 10.1、さらにハイト・レイヤーにセンター・スピーカーを追加したAuro 11.1が存在します。

5.1chベースのAURO-3Dスピーカー・レイアウト

7.1chサラウンド信号をベースしたものには、ハイト・レイヤーに4chを追加したAuro 11.1、さらにハイト・センターとトップを追加したAuro 13.1が規定されています。

7.1chベースのAURO-3Dスピーカー・レイアウト

いずれも5.1ch、7.1chの24bit PCMの中に信号が収められていますので、Live Extremeでも問題なく配信することが可能です。

Live Extremeを使ったAURO-3D配信

AURO-3Dコンテンツの制作

5.1.4ch, 7.1.4chなどで制作・ミックスされた音源をAURO-3DとしてLive Extreme配信するには、Auro-Codecを用いて、5.1chや7.1chにエンコードする必要があります。そのための最適なツールとして、つい先日New Auro社よりリリースされた「AURO-3D Encoder Service」をご紹介します。

これはWindows (10以降) またはmacOS (11.6以降) で動作するスタンドアロンのアプリケーションで、マルチチャンネルのWAVまたはADMファイルをインポートし、Auro-Codecによってエンコードされた5.1ch/7.1ch WAVファイルを簡単に出力することが可能です。

AURO-3D Encoder Service v1.0

これを入力ソースとして、Live Extremeでストリーミング形式に変換すると、最終的にAURO-3DでエンコードされたFLACとApple Losslessストリームが生成されます。

AURO-3Dをライブ配信で利用しようとすると、大規模で複雑な配線が必要となり一筋縄にはいきません(*)が、オンデマンドについては、比較的容易に配信ができるようになりました。

(*) 本記事初公開時、AURO-3Dのライブ配信のハードルは高かったのは事実ですが、Live Extreme v1.12にAURO-3Dのライブ・エンコーダーが搭載されたことにより、どなたでも簡単にAURO-3Dライブ配信をご利用いただけるようになりました。詳しくは以下の記事をご参照ください。

PCでの再生方法

前述のようにAURO-3Dのメタデータは、オーディオ信号の下位ビットに収録されています。このため、3Dオーディオとして適切にデコードするには、このメタデータをビット・パーフェクトでAVアンプやサウンドバーまで届ける必要があります

Live Extremeの公式サイトに、AURO-3D再生時の設定方法が示されています。PCとAVアンプ(あるいはサウンドバー)をHDMI接続し、5.1ch/7.1chサラウンド再生時と同じように設定した上で、メタデータを壊さないために以下を遵守する必要があります。

  • AVアンプ/サウンドバーなど外部機器を「AURO-3Dモード」に設定する

  • PCのカーネル・ミキサーのサンプルレートをコンテンツと一致させ、ボリュームを1.0にする

  • ウェブ・ブラウザ内のプレイヤーのボリュームも「最大」にする

尚、現時点で、Live ExtremeのAURO-3D再生はWindows PCまたはMacのHDMI出力時のみに限られますが、それはスマートホンのウェブ・ブラウザがステレオ出力にしか対応していないことが主な理由です。

まとめ

先日、東京藝術大学が「藝大ミュージックアーカイブ」のコンサート配信から選りすぐりの公演を高音質化し、「東京藝大デジタルツイン」というサイトで公開していくことが発表されました。そこで使われている配信技術がLive Extremeなのですが、空間オーディオはAuro 9.1 (Auro-Codec 96kHz) で配信されています。

もともと劇場やBlu-ray Disc用のイメージが強いAURO-3Dですが、今後ウェブ・ブラウザでも再生可能な空間オーディオ・フォーマットとして、広く活用できるポテンシャルを有しています。

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