見出し画像

「無国籍」に関する陳天璽先生の講義動画で引っかかったこと

東大の講義の資料や映像が無償公開されていると言うことで覗いてみました。

 当方、ここのところ、国籍問題に関連するテーマを多めに書いていたので、関連する内容があるかどうか・・。
 キーワード「国籍」で検索したらトップに出てきたのは、早稲田大学、陳天璽先生のこちらの講義でした。

境界線をめぐる旅(朝日講座「知の冒険—もっともっと考えたい、世界は謎に満ちている」2013年度講義)
第5回 国家のはざまに生きる―日本の無国籍者

 全編じっくり興味深く拝見しました。陳先生が、日本に帰化される前、数十年にわたり日本の「外国人登録証明書」の上で、「無国籍」と記載されていたこと(1972年の『日中国交正常化』を境にそう記載を変更したこと)は理解しました。

 ただ、同じ時期に、「在日の台湾籍者(『中華民国』籍者)」という似たような境遇を生きた私の立場(おそらくは日本国籍取得前の蓮舫氏も同じ立場)から、引っかかったことについて書き出しておきたいと思います。


台湾籍のまま「中国」と記載されていた人の立場が「見えなく」なってしまいかねない

動画での陳先生の話の流れ

・28分10秒 1972年「日中国交正常化」の話
・29分0秒 それまでの中華民国籍の人は 
 ・・・イデオロギー抵抗ない人中華人民共和国籍
 ・・・日本に帰化をした人
 ・・・陳先生の家族、帰化せず、中華人民共和国籍にもしたくない
・30分20秒
 ・・・「無国籍」という選択肢を選んだ
・32分40秒
 ・・・中華民国の華僑パスポート+日本の再入国許可証(無国籍扱い)で国境を出入り。

引っかかったこと1

 この話の流れだけで類型化されてしまうと、日本の外国人登録証明書に「中国」と記載され続けてきた私のような立場が日本社会の中で「見えなく」なってしまいかねない、と懸念しました。(注:「外国人登録証明書」は、2012年の「在留カード」に変わるまで)

「中華民国籍」者が一律に選択手続を迫られたわけではない

 1972年の「日中国交正常化」の際、私はまだ幼児でした。ですので、当時の手続きについては両親に確認しました。
 日本の役所で、「選択」やら「変更」やらの手続きを迫られるようなことは無かった、とのこと。もちろん、「中華人民共和国」の大使館へ行って何か手続きをした、なんてことは絶対にないとのこと。
 陳先生のお話の流れは、ご家族が「日中国交正常化」を契機に「中華人民共和国籍」にすることも「日本に帰化」することも選ばず、「無国籍」という選択肢を選んだというような話の流れになっています。
 ですが、私の家族の体験では、そのときそもそも、日本側から手続きを求められてはいないし「中華民国籍」のままで、日本の外国人登録証明書には「国籍:中国」との記載が、その後も続いた、ということです。

 仮に、陳先生の話を聞いた人が、「じゃあ君の場合は?」とこちらに話を振ってきたとして、「外国人登録証明書の国籍欄は、自分の場合中国と記載されていた」という風に説明したら、誤解されてしまいそう。ですから、ここは特に強調しておきたいと思いました。
 是非、誤解なきよう。

「無国籍ってこういうこと」・・・ではないのでは?

動画での陳先生の話の流れ

・35分0秒
 フィリピン帰りに台湾寄る話:入境ビザなしで台湾は入れず
・38分30秒 日本入国できず 再入国許可切れ
 どこの国にも入れない。・・・3000円(再入国許可手続き)
・43分0秒「無国籍ってこういうことなんだ」

引っかかったこと2

・海外華僑用の中華民国旅券の場合、入境ビザなしでは台湾地区に入れないのは、これは別に日本での外国人登録証明書の国籍記載が「無国籍」であることとは関係ないはず。
・私は日本での外国人登録証明書は「中国」と記載されていました。次の写真は1990年代のそんな私の中華民国パスポートの記載の一部ですが、当時は、身分証を取得していないので、IDはNILになっています。

・当時これで台湾に入境しようとしたら、あらかじめビザが必要だった。日本国籍者が日本のパスポートで台湾に入境する場合はノービザで行けますが、海外華僑用の中華民国旅券での台湾地区入境は、台湾地区の戸籍がなければビザが必要です。こう言っては失礼かもしれませんが、これは台湾関係者にとっては常識だったと思います。

引っかかったこと3

 日本の永住者だったけど、再入国許可が切れていて、日本入国で引っかかったエピソード。
 どこの国籍で登録されていようと、外国人が「再入国許可」が切れているまま出国してしまったら、簡単には再入国できなくなるのは当然でこれも「無国籍」であることとは関係ないはずです。

というわけで

 台湾籍で、日本の外国人登録証明書に「中国」と記載されていて、「中華民国パスポート」を持っていた私の場合も、台湾に入境しようとすればビザが必要だったし、再入国許可を切らしたまま出国してしまえば、再入国できなくなる、というのは当たり前のことだった。
 いずれのエピソードも、日本側での外国人登録証明書の国籍欄が「無国籍」と記載されていたこととは直接関係がないはずです。

でも日本に帰化すると原国籍は「無国籍」

 外国人登録証明書の国籍欄が「中国」と書かれていた台湾籍の在日外国人が、日本に帰化した場合、戸籍の帰化事項に「原国籍」は「中国」ではなく、「無国籍」と書かれるのだそうです。

 この事実を踏まえて考えると、「在日台湾人」の外国人登録証明書で国籍が「中国」と記載されていたのは、中国政府への忖度で、日本側での実質的な扱いはあくまで「無国籍」だった。
 そうと考えるとつじつまが合ってきます。
 なら蓮舫氏国籍騒動の説明をどうして法務当局が誤魔化すのか。
 「中国政府への忖度」で本来「無国籍」扱いになっている立場の人の国籍欄を「中国」と記載してきたことに気付かせたくないのかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?