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日本は「二重国籍」を認めないと言う議論の前提にひっかかる

Jackさんの

を読んで、大いに同感でした。
 ただ、私はこの議論、Jackさんの意見にではなく、別のところ:議論の前提には違和感を覚えるのです。
 前提になる「日本は二重国籍を認めていない」という話は、戦後、新憲法下になって、法務省の国会答弁などでそう主張されるようになってきた。実際、そういう発言が戦後の国会会議録には残っている。それは確かにそうです。しかし、なにか奇妙だと思いませんか?

>日本は「二重国籍」を認めない
 それ、いつからなのか?と聞くと、明治時代にできた旧国籍法からだといいます。旧国籍法20条では、「自ら望んで外国の国籍を取得した人は日本国籍を喪失する」という趣旨の規定があった。これが「二重国籍」を認めない考え方の根源だそうです。(そして今の国籍法11条の規定に引き継がれています。)

 しかし、戦後の日本国憲法22条にはなんとありますか?「国籍離脱の自由」ですよね。この条文は、何のためにあるのですか? もともと明治国籍法でも、外国の国籍を志望して取得した人は日本国籍を失う。なら、新憲法でわざわざ「国籍離脱の自由」を保証する必要なんてあったのでしょうか?
 調べてみても、旧国籍法時代には、当時の政府が「二重国籍を認めない」などと特に強調している様子は見当たらない。それよりむしろ「日本国籍離脱を認めない」というのが大原則だったようです。「国籍離脱を認めない」のに「二重国籍を認めない」なんて言えるわけがないのです。
 「二重国籍を認めない」のではない。そうではなくて、「すでに二重国籍の人に日本国籍の離脱を認めない」のでした。それが実態。二重国籍の人は二重国籍のままでいなさい、外国の国籍を持っていても、自分から日本国籍を離脱するなんて認めません、というのが日本側の基本的な立場だった。
 そのため海外に移民した日本人の親から生地主義国でうまれるなどして、二重国籍になった人が、「日本国籍離脱したい」と思ってもどうにもならなかった。
 当時の「海外移民の子などの二重国籍者」の中には、日本国籍を離脱したいがために、次のような主張をする人がいました。「国際的には国籍唯一の原則と言うのがあってですね、二重国籍と言うのは解消していくべきものなんです。日本政府は二重国籍者の国籍離脱を認めるべきです」
でも、当時の日本政府は聞いてくれなかった。まあ、部分的な緩和はあったのですが、二重国籍者に「日本国籍離脱の自由」が「完全」に認められるには、戦後の新憲法22条による保証まで待たなければなりませんでした。

 こういうことを言うと、「なんだかんだいっても、旧国籍法20条では自ら望んで外国籍を取得したら日本国籍を喪失してしまう規定になっていたのだから、結局は「二重国籍を認めない」という考え方だったんじゃないか?とおっしゃるかたもいらっしゃるでしょう。
 実は旧国籍法には、一旦外国国籍を取得して日本国籍を喪失した人が、その外国籍を残したまま簡単に日本国籍を回復できる規定がありました。
 旧国籍法26条では、外国籍の志望取得によって、日本国籍を失った人が日本に住所があれば内務大臣の許可を得て日本国籍を回復できると規定されていた。この手続きに、(その人のもともとの日本国籍喪失につながった)取得した外国籍の放棄は要求されていません。
 だから、生来の二重国籍者でなくても、相手国の制度次第では(つまり、日本国籍を回復することで取得したその国の国籍を喪失するような制度になっていなければ)日本国籍を回復して、二重国籍になることは可能だったわけです。旧国籍法では決して「二重国籍を認めていない」なんてことはなかった。もし本当に認めていないのだったら26条の国籍回復制度には、「日本の住所」「内務大臣の許可」の条件に加えて「外国国籍の放棄」が要件に加えられていたはずです。

 そうした事実に照らしてみると、「外国籍の志望取得による日本国籍の喪失」の本来の目的が見えてくるのではないでしょうか?
 日本人が海外に移民して現地の国籍を取得しようと言うとき、国によっては元の国籍の放棄を求める場合があります。「日本国籍離脱を認めない」ことを旨とする日本側が、外国へ帰化する人に国籍離脱を認めなかったら日本国民は海外に移民して現地国に帰化することができなくなってしまう。
 海外移民の、現地への帰化手続きをスムーズに進めてもらうためにも、「日本は、自国民が外国籍を志望取得したら日本国籍を一律に自動的に喪失させています」と国際的に宣言しておく必要があった。
 でも、日本国籍を再取得しても相手側の国が構わないのであれば、日本国籍の回復(二重国籍になること)も認めますよ、と言う制度だった。

 明治の国籍法制度は、よくできていたと私は思います。そして、現在の重国籍を認める認めないの議論は、本末転倒なことになっていると感じます。

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