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#9 ランニング :(

 定禅寺から始める。そう決めてゆっくりと歩く。足を振り上げ、股関節を伸ばす。信号待ちの間にアキレス腱のストレッチをする。今からランニングをする。

 曇り、七時過ぎ、人通りは少ない。今日は土曜日。日差しはないけど明るい、少しじめっとしてる。 勾当台公園に到着。靴ひもを固く締める。

 走る。モハメド・アリみたいに走る。O・J・シンプソンみたいに走る。南部の奴隷州から逃げるみたいに走る。ハリエット・タブマンみたいに走る。

 北に向かって走る。北四番丁を走る。上杉を走る。堤通雨宮町を走る。北仙台を走る。県道二十二号を走る。台原を走る。奥州街道を走る。青葉神社に着く。

 階段を登り、鳥居をくぐり、財布の小銭をすべて賽銭箱に投げる。鐘を強く鳴らして祈る。どうか雨が降りませんように。

 通町公園から再開。西へ向かう。北山を登る。北山を越えても、中山がある。先はどうしようもなく長い。だからゴールは自分で決めなければならない。

 私は思い出し、私は笑う。気分が良くなって笑う。脚は車輪のように回り続け、おそらく二度と止まらないだろう。

 雨が降る。道は濡れ、火照った身体が冷やされていく。ゴールは未だ見えない。ちょうど中山の麓にいたのだ。

 雨の中走る。頂上に向かって走る。苦しくても走る。悲しくても走る。脚が痛んでも走る。絶望的でも走る。

 自分に鞭を打っている。苦しいように仕向けている。息が乱れる。罰のように走る。

 弱さのために走る。困難なことこそ価値があるという倒錯のために走る。忘却のために走る。想起のために走る。

 だが私は中山の頂上に辿り着き、仙台を一望する。私は誰よりも高いところにいる。私は誰よりも高い。

 私は見下ろし、そして笑う。雨は私のために止み、雲は東へ流れてゆく。私のゴールはここではない。

 


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