横浜Love Story 第12話 "恋愛小説で学ぶ中国語"
第11話以降は、少しビジネス中国語会話に焦点を絞って物語を進めています。台湾からのサプライヤーとの交渉に通訳として同席した加藤は、ビジネス日本語をうまく訳すことができずに落ち込んでしまいました。
第4話 はじまりはマグニチュード5.0
第5話 過福はあざなえる縄のごとし
第8話 コスモクロックで空中散歩
第10話 ビールフェスティバル
◇ ◇ ◇
第12話 ビジネス用語が苦手です
そうして彼らは、新製品のサンプルを並べ、ひとつずつ説明を始めた。
「這個大概要多少錢啊?」 ※これは、いくらくらいですか?
「那要視購買量而定」 ※発注量によります。
「請問最低購買數量是多少呢?」 ※最低何台から発注可能ですか?
「至少1000台起跳,之後每200台為一個單位」
※最低1000台からで、その後は200台単位で発注いただけます。
加藤が、会話と同時進行で通訳をしてくれるので、俺たちの会話はまるで母国語で話をしているようにスムーズだ。
「それでは、当社としても、御社の部品をベースに設計した場合のトータルコストを割り出して、損益分岐点(そんえきぶんきてん)がどのくらいになるか計算し、営業とも相談して企画台数を割り出してみます」
柴田がそう言うと、一瞬加藤の通訳が止まった。
「ん?どうした?加藤?」
加藤は、少し困ったような顔をしてすがるように俺を見て言った。
「あ、あの・・・草間さん・・・そんえき・・・ぶんきてんって、何ですか・・・?」
◇ ◇ ◇
会議室を出て事務所に戻る途中、歩きながら加藤が少しため息をついた。
「どうした?」
「わたし、実を言うとビジネスの日本語がすごく苦手なんです・・・」
加藤はそう言って、もう一度深くため息をついた。
「損益分岐点(そんえきぶんきてん)とか秘密保持契約(ひみつほじけいやく)とか・・・難しすぎます・・・」
「あははは、そんなことか・・・」
「そんなことって、草間さん、社会人なんだし、わたし、恥ずかしいですよ・・・」
俺は、加藤のそういう真面目なところがとてもいいと思った。
「新人都是這樣的」 ※新入社員はな、みんなそんなもんだよ
「是嗎?」 ※そうですかぁ~?
加藤は、少し疑うような目をして俺を見た。
「ああ、俺だって新入社員の時にはわからなかった」
「でも、きっと新入社員でもわかる人はいるはずですよ」
「そりゃあそうかもしれないけどな」
「けど?」
「知道那些小知識也沒什麼了不起」
※そんなのわかったって、たいした問題じゃないさ
「是這樣嗎?」 ※そうなんですか?
「ああ、学ぼうとする気持ちがあれば、いくらでも吸収することができる」
「そうなのかな・・・」
加藤は、まだ少し落ち込んでいるようだった。
「加藤」
「はい?」
「はじめから何でも知っている奴なんてな、この世の中にひとりもいないんだ」
「はい・・・」
「自分で調べたり、人に教えてもらったり、そうやって人は成長していくものなんだよ」
俺がそう言うと、加藤は一瞬何かを考えるように顎に手をあてて、それから「そうかもしれないですね」と、にっこり笑って俺を見た。
事務棟に戻る途中、貨物用の踏切を横切ると、西日がビルの隙間から射し込み、麦の穂みたいな雑草をキラキラと照らしていた。
「あっ、きれい・・・」
加藤がそれを指さして子供みたいに笑った。
「加藤・・・」
「はい」
「如果你有任何不懂的地方・・・」
※わからないことがあればな・・・
「はい・・・」
「我來・・・教你吧・・・」
※俺が・・・何でも教えてやるんだからな・・・
「えっ?」
「恥ずかしがることなんてないんだぞ」
「あっ、はい!!」
俺が少し照れながら途切れ途切れに思い切ってそう言うと、加藤は満面の笑顔を浮かべて俺を見た。
「草間さん?」
「ん?」
「わたし・・・草間さんの部下で本当に良かったです!」
(加藤・・・)
何か胸の奥が締め付けられるような、不思議な感覚がした。
もしかしたら、社会人になって初めてそんな言葉を言われたかもしれないと思うと、加藤のことがますます愛しく思えるようになってきた。
◇ ◇ ◇
恋愛小説で学ぶ中国語【繁体字】『横浜Love Story』総集編(第1章~3章)
恋愛小説で学ぶ中国語【簡体字】『横浜Love Story』総集編(第1章~3章)
中国語の歌を聴いて発音に馴染むことは、とっても有効な学習手段のひとつだと思います。とっても切ないこの曲をぜひ聴いてみてください。