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泣いても、いいんだよ。
ちょっと前から、心の奥がカタッと音を立てている。何度か重なったことで、自分のなかで言語化ができた話。
息子のリクエストによって、二人でお風呂に入ることが多い我が家。
そんな二人のお風呂タイムに、たまに耳にする言葉が心に残っていた。
「今日も膝がチリっとするよー」
「ありゃ、学校で転んだの?」
「階段のところでジャンプしてたら、どーんて落ちたの」
「え!そんなことがあったの?」
「でもね、泣かなかったよ。強いからね」
カタッ。
「見て、ひじをケガしたの」
「あら、今日はすりむいてるね」
「お庭で走ってたら転んだんだ」
「ありゃ」
「でもね、泣かなかったの」
コトッ。
「今日はお風呂入りたくないなー」
「なんで?」
「おひざが痛いから」
「また、転んだんだね。もはや毎日だね」
「今日はね〇〇がどーんてプッシュしたの」
「え?それは意地悪だね。やめてって言った?」
「言わなかったよ。泣かなかったんだ。」
カタッ。
心の音が続いてくる。ちょっと一呼吸してから、声を出す。
「もしも嫌だったら、やめてって言うんだよ」
「痛い時はさ、泣いてもいいんだよ」
「泣くのを我慢しなくていいんだよ」
熱血スポーツマン&男三兄弟の環境で育った夫が、以前息子にかけていた言葉を知っている。
「泣かなかったの!すごいね!強いね!」
「男の子だもんね、強いんだ!」
なにげなく、すごくポジティブに、大きな笑顔と共に発せられた言葉を横目に、私の心の中ではカタッと音がなっていたのを覚えている。
こうやって言われたのを覚えているから、お風呂の中でチリっとしみる傷口を見せながら、胸を張って「泣かなかった」ことを紹介してくれる。
あのね、お父さんとお母さんでは考え方が違うんだ。
男の子だろうと女の子だろうと関係ないと思うの。
痛い時や嫌な時は泣いても良いと思うの。
誰だって、痛いものは痛いもん。
「日本人って、痛い時も我慢するから損してるよなー」
そんなことを幼い心に思ったのは2000年代のワールドカップの頃。
ちょうどイギリス生活を終えて、日本に戻って、日本人になろうと頑張っていた頃に、テレビの中の選手たちを見ておぼえた違和感。
赤や黄色のユニフォームの海外選手たちは、痛いシーンに遭遇するとアクションが激しい。
「いたーーーーーーい!!あぁー、もうダメだ。立ち上がれない。ちょっとレフリー、見てたでしょ。ねぇ、もう足折れたかもしれないよ。こりゃ絶対ペナルティーだわ。あーー、痛い!!」と言ってるのが、遠くから見ていてもわかるほど。
一方で、ブルーのユニフォームに日本人は、同じくらい痛いんだろうけど「痛がる姿はカッコ悪い」とでも言わんばかりに、サッと立ち上がる。ぼーっと見ている人は、彼が痛いシーンに出くわしたことなんて気づかないくらい。
誇張に感じる人もいるかもしれないけど、でも‘’海外帰りの中学生”という繊細な心を持っていた当時、この違いは鮮明に映った。
海外暮らしから人生が始まった息子。どれくらい海外が長くなるのかは分からないけど、日本人らしさは大切にしてほしいという思いで、とりわけ渋い名前を付けた。
でも「自分を表現すること」「ネガティブなこともちゃんと伝えること」に関しては、日本人を真似なくていいと思う。
だって、周りの人たちは500倍くらいのアピール力を持って「痛いことは痛い」「嫌なことは嫌」「好きなものは好き」と表現しているんだもん。
そんな中で「歯を食いしばって耐える」なんてやってたら、自分がつぶれちゃうでしょ。
だからね、お友達に押されて嫌だったら「やめて」って言おう。
だからね、ケガをして痛かったら、ちゃんと泣こう。我慢しないで。
そんな、お母ちゃんの、思い。お風呂で何度も繰り返したら、伝わるかな。
▼すりむいた場所が「チリッ」とするお話。
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