ノーコードで開発したスカウト求人サイトが5ヶ月で会員1000名超えて黒字化してる話
この記事の要点
・開発素人がスカウト機能付きの会員登録求人サイトをノーコードでつくった
・つかったツールは「Softr」と「Airtable」の2つ
・「社会的企業」に特化した求人サイトに企業も個人も集まっている
お前は誰なのか?
環境問題や社会問題に特化したWEBマガジンの代表です。WEBサービスは大好きだけどコードは何も書けない。Wordpressサイトの立ち上げは一人でできるくらいのITリテラシーです。
1ミリもコード書けないやつがWEBサービスつくれる時代
今年5月に「働く」で社会を変える求人サイト「WORK for GOOD」をリリースした。ソーシャルビジネスに取り組む「社会的企業」に特化した求人サイトだ。登録企業が自分たちで求人掲載ができることに加えて、登録ユーザーに直接スカウトを送ることもできる。
テーマ以外は今どきの求人サイトと特段変わらないサービスだけど、エンジニアの手を1度も借りることなく開発素人だけで完成したということはユニークだと思う。
僕自身、本当にコードは1ミリも書けない。JavaとかPythonとかいう言語が存在していることは知っている。「言語を習得して思いのままにサービスがつくれるエンジニア」にずっと憧れがあった。WEBサービスは好きだが、自分ではつくれない単なるユーザーだ。
もともと2017年くらいからWEBマガジン上で「採用広報記事」を制作する求人事業はやっていた。しかし求人サイトに特化しているわけではないので、会員登録機能はなく積み上がっていかない上に、1本ずつ丁寧にインタビュー記事をにつくるのでそんなに多くの求人を掲載することはできない。
既存の求人事業に限界を感じていたので、いよいよ「求人サイト」開発に取り組むべく昨年秋に「事業再構築補助金」を申請した・・・が、あえなく不採択。おそらく既存事業の延長線として映ってしまったのだろう。
開発するにはエンジニアにお願いするためのまとまった予算が必要だ。融資を受けて開発投資するのもありだが、スモールチームにとってはそれはイチかバチかのリスクが高すぎる。
開発を諦めなきゃいけないかと思いながら、一縷の望みをかけて「ノーコード開発」について調べていたら出会ったのです。「Softr」という神サービスに・・・。
この数年でノーコードツールは確実に市民権を得てきている。Notionは言わずもがな、サイト制作のSTUDIOやStrikinglyも当たり前に使われている。
しかし、これらのサービスは「WEBサービス」までは開発ができない。会員登録機能やメッセージ機能もつくれない。ユーザーごとに属性を分けて機能制限もできない。
「Softr」は、WEBサービスで必要なことはだいたい何でもできる。WEBサイトはもちろん、宿泊予約サイトも、ECサイトも、社内業務システムだってできる。用意された「ブロック」を組み合わせたらだいたいできちゃう。
「Softr」と「Airtable」至高の組み合わせ
「Softr」はベルリン拠点のスタートアップ。2022年にはシリーズAで17億円ほど資金調達している「ノーコード革命」を象徴するような企業に成長している。「No-Code App Builder 」と説明しており「サイト制作」ではなく「アプリ開発」を実現してくれるサービスだ。
現在、英語表記だが、それなりに英語が読めれば苦労することはないだろう。
「Softr」の他に、サービスに必要な「情報」を保存しておくために「Airtable」という別なノーコードのデータベースサービスを接続する。
この2つを使いこなしてつくっていく。どんな感じなのか、実際の画面でご紹介しよう。
使い方の詳細を説明し始めるときりがないので、興味がある人はぜひ無料版でいじってみてほしい。「おお、こんな感じか」とすぐに理解できると思う。
気になる利用料金だが、「Softr」を商用利用したいなら「Business」プランになるだろう。2500ユーザーまでは月269ドル(約4万円)で使用できる。年間48万円くらいだ。
※以前のプランでは「Professional」で5000ユーザー、「Business」で10000ユーザーまで利用できたのだが2024年8月に改定されてだいぶ制限が厳しくなってしまったようだ。
「Airtable」は「Team」プランなら「1シートあたり月20ドル」。シンプルなサービスなら5シートくらいで足りるだろう。月100ドル、年間1200ドルくらいだ。
「Softr」と「Airtable」ともに無料プランがあるのでまずは試しに使ってみるのがいいだろう。
ノーコード開発を自分たちでやることの意義
「Softr」でサービスを作り始めたのが2024年1月。実際にリリースしたのが5月なので、だいたい4ヶ月くらいノーコードの開発期間に要した。しかし、僕が朝5時くらいに起きて「朝活」で平日毎日1〜1.5時間くらいの時間しか主にはつかっていない。部分的にチームメンバーにも手伝ってもらったので「人月」で言えば「1.5ヶ月」くらいだと思う。
大事なポイントは、この「人月」はエンジニアではなく「素人」の稼働だということだ。
スカウト機能付きの求人サイトをプロのエンジニアに開発をお願いしていたら、数百万の予算にはなるだろう。それが経営者である僕の「朝活」という余剰の時間で賄えたのだから、スモールチームにとってはこれ以上ないコスト削減になった。
また、WEBサービスを運営するとなると保守管理や改善のために部分的にでもエンジニアを雇う必要が出てくる。エンジニア不足の昨今、それも相当な人件費になってくるがそのランニングコストも発生しない。とにかく開発〜保守メンテのコストが大きく発生しないというのは大変ありがたい。(内製コストはあるけどね)
そして、これが一番大事だとおもっているだが、自分たちでサービスを開発したことでサービス改修も自分たちでクイックにできる。
「ここ、直したいよね」というアイデアをすぐに修正できる。WEBサービスの運営のためにはユーザーからフィードバックを得て、すぐに反映するスピード感が大事だが、これを自分たちの手でコントロールできるというのはとても大きな意味を持っていると思う。
家をDIYすると自分で直せるように、WEBサービスもDIYすると自分で直せるのだ。
ちなみにクリエイティブやデザインは自分たちではできないのでいつもお世話になってるデザイナー mem 前田健治さんにお願いしています。
ノーコード開発を始める前に確認しておくべきこと
・WEBサービスに関する基本的な理解があるか?
いくら「コードがいらない」とは言え、つくるものはWEBサービスなので「フロントエンドとバックエンドがあって始めて成り立つ」といった理解や「使いやすいUIのデザインとは?」といった感覚が大切になってくる。
もちろん素人レベルでいいのだが、普段から接するWEBサービスをそういった視点で見ているかどうかが大事だと思う。
技術的には「Wordpressでブログをつくる」「STUDIOでサイトをつくる」といったことに抵抗がないくらいのITリテラシーは必須だ。
・誰がノーコード開発のスキルを習得するのか?
「Softr」や「Airtable」は使うほどに理解が進み、できることが増えてくる。それがノーコード開発のスキル習得なのだが、これを「誰かにお願いしたい」という発想ならやめた方がいいと思う。経営者か事業責任者レベルが自ら習得することで「ノーコード」を武器に変えることができる。もしもスタッフや外注先にお願いしてその人が後日抜けてしまったら、そこでサービス運営はストップしなくてはいけないリスクもあるから。
僕自身はノーコード開発できることにめちゃくちゃ喜びを感じていた。思った機能を追加できた時にはしっかり脳汁が出ていたと思う。「開発者って、こういう喜びがあるのか」と理解できた気がする。自分でつくることにワクワクできるならノーコード開発を始めたらいいと思う。
・ノーコードの限界はある
「Softr」は「だいたいつくれる」けど「何でもつくれる」わけではない。用意されてる機能の範囲内でしかつくることができない。
たとえば、現時点では「ブログ管理機能(CMS)」がない。そのため「記事」をつくるためには、個別のページをつくる必要がある。
それ以外にも、デザインや細かい仕様にこだわりたい時に「それはできんな・・・」となるケースが多々ある。
習熟が進むとやり方をひらめくことも増えてくるのだが、それでも「できないこと」は明確に存在する。Softrで開発したサービスを商用利用することはできるのだが、事業拡大しても使い続けることはあまり現実的できはないと思う。
MVP(Minimum Viable Product)よりは踏み込んだ「β版プロダクト」と位置づけつつ、仮説検証を繰り返し、本開発のための仕様を精査していくというのが、ノーコード開発の最も有効な使い方なのではないかと思う。
・サービスをつくる前に仮説検証はしたか?
「誰でもつくれちゃう」のがノーコードの良さだが、使われもしないプロダクトをつくっても意味がないし、リソースがもったいない。ノーコードでいきなり開発着手する前にやれることはたくさんある。
僕たちの場合で言えば、6年くらいWEBマガジン上で求人事業をやってきたのが下地になっているが、プロダクトの構想段階で仮説検証のためのオンラインイベントを実施したりしていた。社会的企業を4社招いての合同説明会。申込者には「スカウトを希望するかどうか」などの設問を用意してニーズを検証した。結果150名ほどの申し込みがあり、コンセプトに手応えを得ていた。
ユーザーヒアリング、競合サービスの調査、モックアップの作成、MVPの作成などなど、開発前にやれることはたくさんあることを忘れないようにしたい。
リリースから5ヶ月経って、どうなったか?
2024年5月14日にリリースして以降「爆増」というわけではないが着実に会員数登録数は増え、リリース5ヶ月目で1000名を超えた。世の中的にも「社会的企業で働きたい」というニーズが顕在化していると感じる。
登録企業も40社となり、現時点で40求人がアクティブに掲載されている。
企業は申し込めばどこでも使えるわけではなく、2ヶ月に1回募集しながら「人間性・社会性・経済性」の3点から審査させてもらっている。「GOOD」な企業だけを掲載できるようにするためにそうしている。
すでに採用実績も生まれている。正社員、業務委託、パートともに「採用できました!」と報告が届いており「サービス始めてよかった⋯」と運営一同、とても喜んでいる。
売上についても着実に積み上がっており、開発コストと運営コスト(販管費含む)を差し引いてもすでに黒字化している。エンジニアにフルスクラッチで開発を依頼していたら黒字化はもっと先になっていたと思われるので、これもまたノーコードの良さだろう。
「働く」で社会を変える人を増やしたい
いま、国内の年間転職人数は328万人いるらしい。もしもそのうちの1%が社会的企業に転職して働いたら、世の中の多くの課題は解決するんじゃないかと妄想している。
そのためには社会的企業がもっと世の中に増えて、事業も成長し、働き先としてスタンダードになる必要がある。僕らの「WORK for GOOD」という求人サイトが、そうしたうねりをつくれることに少しでも貢献できたらと思っている。
もし興味を持ってもらえたのなら、ぜひサイトを見てもらえれば嬉しい。
長々とノーコード開発の顛末を書いてしまったのだが、なにかの参考になれば!
注1:求人サイト運営は厚生労働省に届け出が必要です
https://www.ieyasu.co/media/employment-security-law-amendment/
注2:メッセージ機能を作る場合は総務省に届け出が必要です
https://zenn.dev/saikou_kunisaki/articles/3c39a2f83006d4
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