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#4 黒澤世莉さんとの対話

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インプロ・ワークス&東大インプロ研究会が主催する演劇の即興性を考える”実践発表と対話の会”「実践と対話」。
この会は第一部に「実践」として俳優による即興演劇の発表を行い、第二部に「対話」として、会の構成を務める絹川友梨と演劇人が即興についてざっくばらんにお話をするという2部構成で開催しています。
この記事は、今までの「実戦と対話」の中の「対話」の内容をゲストごとに随時アップしていく連載です。
今回の対話のお相手となる演劇人は黒澤世莉さんです。

旅する演出家、黒澤世莉さん

絹川)ありがとうございます。今日のゲスト、演出家の黒澤世莉さんをご紹介いたします。黒澤世莉さんは演出家でありまして、TGR札幌劇場祭の作品賞とか、佐藤佐吉賞優秀作品賞、演出家賞受賞など、数々受賞されています。また、スタニスラフスキーとサンフォードマイズナーを学ばれて、劇団時間堂の主宰者として多くの活動をなされておりました。現在は旅する演出家こという肩書で活動していらっしゃいます。

[拍手]

絹川)ノーギャラで来ていただきました。

黒澤)シーッ。

絹川)二部はですね、即興に関してお話をさせていただきます。
一部どうだったですかね、本当に即興を長くやっている方々もいらっしゃるのですが、今回初めて参加されている役者さんもいらっしゃいます。マリさんは即興初めてですね。マキちゃんは結構やられてますけど、このグループでは初めて。そういうような取り合わせで今回はさせていただきました。

完成品を見せるというよりは、ワークインプログレスで、これからこういうような活動をどんどん役者さんと一緒にやっていきたいという気持ちがありまして、こういう試みをさせていただいたという感じになります。

即興にまつわるインターネット調査の結果

では、対談する前に、即興が良い悪い色々言われてるんですけど、実際日本の俳優さんたちがどういうふうに考えるのかというのを調査したので、ざっくり皆さんに紹介したいと思います。Facebook 上でアンケートをとって、俳優さん、芸歴が3年以上の方のインターネット調査を2016年くらいにやりました。

まず255人が回答してくださいました。実際は600人回答があったんですけれども、自由記述を必ず書いてくださいって言ったら、255人が自由記述を入れてくれたという感じで、すごく嬉しいなと。
質問した項目としましては、
稽古の時と本番の時に即興は「得意か不得意か」。
本番と、本番でやるのが「得意か不得意か」。
稽古場で即興やるのは「好きか、嫌いか、どちらともいえない」。
本番で即興やるのが「好きか、嫌いか、どちらともいえない」。

アンケートとしてはつっこみどころがあるんですが、4つの項目に関してアンケートを取りました。性別としては女性のほうが若干多いくらい、年齢は30代の役者さんが一番多く回答してくださいました。

黒澤)これ面白いですね、コアが30代の俳優っていうのは結構意外な感じ、その次は40代ですもんねえ。

絹川)ねえ。そうなんですよね。結構高齢の方から若い方からいらっしゃって、まあ統計だからこうなるんですね

黒澤)19歳で芸歴3年以上ってすごいですね。

絹川)高校演劇の人です。

黒澤)あぁ、なるほど。

絹川)舞台歴。一応3年以上、3回以上舞台に立つ、そしたら15年以上っていう人が半分くらいがそういう人たちが答えてくれて。

黒澤)若手には残酷なデータですねえ。

意外とみんな即興が好き?

絹川)ほんとですねぇ。稽古で「アドリブや即興やるのが好きですか?」という質問に対して、「好きです」64.3%、稽古場で即興やるの好き、みたいな人が結構多い。

黒澤)これ意外じゃないですか。僕自分の稽古場で即興やろうぜって言ったら、みんなすごい嫌な顔しますよ。半分以上が前向きな姿勢で捉えてくれることなんてないと思ったのですごく意外でした。

絹川)もしかしたら私のfacebookのアンケートなので割と、

黒澤) ゆりさん人脈のバイアスがかかって、

絹川)即興好きな人たちがいらっしゃるので、かもしれないなって思います。

黒澤)好きっていうか、即興に取り組まれている、取り入れている方たちが多い。

絹川)かもしれないですね。はい。で、次お願いします。「即興やるの得意ですか?」っていう質問になるとちょっと変わってきまして、「得意ではない」と半々くらいになりますね。やるのは好きだけど、得意かって言われると、それはちょっと言えないなぁみたいな、そういうニュアンスが嗅ぎ取れるっていうか。では、本番でどうかというと、「本番でアドリブや即興をやるのは好きですか?」どちらとも言えないなぁみたいな、だんだんNoが増えていく感じになります。では、「得意か不得意か?」No!得意か不得意かって言われると、得意じゃないって感じが圧倒的に増えていく。おそらく、俳優さんだとそれぞれみなさんが経験値としていろいろ感覚があるんじゃないかなぁと思います。
で、わかったことなんですが、稽古で嫌いな人は本番でもやっぱり嫌いという、得意でもなければ稽古場でもダメ、嫌だなぁと思うということは本番も全然ダメ。だけど、稽古で好きだって言った人の半分が本番では嫌いってなるっていう。で、合計すると本番で嫌いな人は74.1%っていう、逆転するわけですよね。稽古では結構みんな好きでやるんだけど、実際の本番になっちゃうと嫌いっていうふうになっちゃう。

世莉さん3

即興が嫌いな理由、ベスト3

絹川)自由記述の嫌いな理由ベスト3。1位「台本が好き」

黒澤)まあそりゃあそうですよね。

絹川)台本でやりたいっていう。

黒澤)安心しますからね、台本は。

絹川)ただしですね、わかるんですけど、これから話をしていく中で伺いたかったんですけれど、私としてはもちろん即興的に今日観たものは、即興演劇なんですが、台本があっても、その中で即興性っていうのがあるんじゃないかと思っていて、セリフは決まってるけど、そのやりとりっていうのは即興性があるんじゃないかなと思って、そういう意味ではまあ即興というのを捉えたときには、台本が好きでも即興が好きっていうのがあってもいいんじゃないかなぁって。

黒澤)もちろん、はい、両立すると思います。台本が好きな人は即興が嫌いってわけではないですから。

絹川)そこが感じたというか。では同点でもう一個ありました。ほとんど同じ数で、即興をやったことがないっていう人がすごく多かったという感じですね。それも意外だったんですけど、まあ稽古場で即興やったことない人、割と新劇系は…。

黒澤)この前たまたまイベントで、俳優さんたちを集めて即興劇を劇団でやるか聞いてみました。小劇場系で「鹿殺し」と「虚構の劇団」と「アマヤドリ」と「カムカムミニキーナ」、から出演していただいて即興バトルするイベントをやったんですけど、みんなやってるだろうと思って呼んだら「うちの劇団では即興やらないんですよ」って、4劇団とも言われて。

絹川)ああ、ほんと?

黒澤)やらないんですね、皆さん。みたいな感じで、やらせたら超上手みたいな。

絹川)やったことないけど、やるとうまいって感じ。

黒澤)そうですね、まあ多分そのエチュードとか、インプロっていう形でやってないけど、そのシーンの中で、シーンを作るからちょっとやってくれみたいなオーダーはあるみたいなんで、全く即興をやってないって訳じゃないんだろうなとは思います。だから、これに答えた人も「即興だと思ってないけど実はやっていた」みたいなことはあるんじゃないかなっていう気もします。

絹川)なるほどなるほど、面白いですね。そのイベントもちょっと面白そうですね。

黒澤)じゃあ後で話しますかね。

絹川)ではベスト3の2位、即興は怖いっていうのが結構高いポイントでありました。失敗するのが怖いとか、どうなるかわからないから怖いみたいな精神的なこう、感情的に怖いっていう方もいらっしゃいます。そして3位、頭が悪いから無理っていう。なんか即興やってるって言うと頭いいんですねってすぐ言われるんです。頭良くないとできないんじゃないですかっていう風に言われることがよくあって、それって大きな誤解だなって思うんです。決して頭がいいっていうわけではないんだけど、頭が良く見えるのかな?

黒澤)おそらく即興とかインプロっていうものに対する多くの方の印象自体が、すごい頑張って頭を回転させて、考えて、考えずくでやっているっていうものなんじゃないですかね。詳しくないところっていうのが、頭が私はよくないから無理よっていうことにつながってるんじゃないのかなっていう気はします。
もちろん広い意味でいったらね、頭良くないとできないとは思うんですけど、コミュニケーションするとか、人を観察するみたいなことも結局頭の良し悪しにつながってくると思うんでね、ロジカルではないけど。まぁでもそういう論理的な思考力が低いから即興はできないっていうのは全く関係ないんじゃないかなっていう気はします。

突然、客席アンケート!

絹川)ねえ、そうなんですけどね。(客席に)その辺いかがですか?結構頭使うもんですかね。

お客様1)頭使ってますよ。

絹川)どれくらい先のこと考えてますか?

お客様1)割と先まで考えて、その道は行かないとか

絹川)考えて……

お客様1)そこには行かないから、結局その都度その都度ですね。

絹川)なるほど。そちらの人たちは。

お客様2)エチュードよりは考えない。

絹川)考えない。

お客様2)シーンづくりとなると、ある程度オーダーがあって、それに沿って面白いものを取り入れて、舞台にあるものをちょっとだけ足していったり引いていくイメージなのでそんなには、まあ頭は使いますけど、エチュードよりは使わないと思います。
絹川)ちなみに即興とエチュードってどう違う感じですか。

お客様2)オーダーがあるじゃないですか。両親がいて、父と子がいて、そこでこういう事件があって、っていうシチュエーションがある程度あって、そこの中で面白いことをっていう枠組みがある。まあインプロも枠組みがあることがありますけどね。もうちょっと広義的というか。

絹川)エチュードは?

お客様2)エチュード。エチュードは、演出家の欲しいシーンをもっと面白くやっていくっていう感じです。

お客様3)ネタ提供みたいな。

絹川)ネタ提供みたいな。おお。

お客様2)場合によってエンディングまで決まってるような感じで、セリフも決まってますよね、狭まっている感じが僕は印象としてはあるんですけど。

絹川)エチュードですか?

お客様2)はい、エチュードが。

絹川)その中で面白もの、ネタ探しするみたいな感じなんですかね。

黒澤)言葉の意味の解釈もあると思うんですよね。頭が良いっていうのも、何をもって頭っていうのかっていうこともあると思うし。語義としてエチュードと即興とインプロビゼーションって、本来は同じものを意味していたはずですよね。それが、それぞれの文化の中でエチュードってこういう風なものを要求されることが多いとか、インプロだったらこういうのが要求されるのが多いみたいな風に、印象の中で分かれていって、で、その言葉を聞いたらこういうことをやるんだなっていう風に準備されるっていうのはあるのかなって、今わかりました。

絹川)なんかね、独特な文化の演劇文化の中で、エチュードってこんな感じだよね、とかインプロビゼーションってこうだよねっていうのが、なんとなく枠組みがある感じなんですよね。

黒澤)うん。

絹川)私としてはエチュードっていうのも即興だろう、みたいな、そのジャンルが違うのか、カテゴリーが違うのかって思ってたんですけど、結構役者さんはみんななんか、エチュードはこうで、インプロはこうですみたいな割と自分の中での明確な枠組みがあるように感じで仰る方もいて。

黒澤)なるほど。僕も単純に言葉の意味で全部同じものだと捉えていたので、すごく新鮮でした。

絹川)せっかくですから、特に新劇、劇団朋友さん。新劇はどのへんのその、即興で稽古したりするんですか。

お客様4)即興をやったりはしない。

絹川)しない。稽古は、

お客様4)でも毎回、キャッチボールは新鮮ですから、セリフは決まっててもライブですからね。それを稽古する。だからある意味即興はやってるだろうと思うんですけど、何も決めてないところから何かを作っていくっていうことはありません。設定ありき。シチュエーションありき。でもそこの中にライブがある感覚。

絹川)稽古は台本を読むところから始まるんですか。

お客様4)はいそうです。読み合わせをして、本を解読して、演出家の意図を読み取って。

絹川)即興をそのまま稽古にするっていうことは、

お客様4)ないです、ないです、まずは。例えばちょっと時間があって、若い子を養成したりするみたいな時には、そういう要素を取り入れて練習したりしますけど、そんな時間ないですからね。

絹川)ミュージカルはどうなんですか?
お客様5)ミュージカルは、同じように歌と踊りがあってその中で遊べる部分を自由にどうぞという感じですよね。外国と同じように、楽譜があるし楽曲もあるし振付もある。作っている人が、提供する人がいるので、そこを受け取って間あいだでうまいこと、もしかしたら自分の色を出してみたりっていうのはあるかもしれない。

絹川)なるほど。ありがとうございます。いろんな創作の過程が。

黒澤)日本だと、どっちかというと台本があって、それを稽古していくっていうほうが多いんじゃないかなという気はしますね。あまり即興から作る人たちももちろん、いるとは思いますけど少ない。

絹川)そうですね。これを終わらせてしまいましょう。世莉さんのお話聞きたい。不得意な理由、なんで不得意なんですか。「即興は好きだが〔得意〕だなんて口が裂けても言えない」

黒澤)奥ゆかしい。

絹川)奥ゆかしい。自分は得意だなんて言えませんって日本人のこう、そう恐れ多くてスミマセン、得意だなんて言えませんみたいなニュアンスが結構高いっていう、得意なら得意って言えばいいのになって思ったんですけど、とんでもないみたいな、自分はその修行の身ですからみたいな割と役者さんすごくこうなんていうかな、奥ゆかしいというか謙虚な感じがでてました。あと「いい思い出がない」っていう。即興やっていい思い出が全くない、うまくいってない、ツライことがあったのか。
得意な理由。「なぜか得意」「得意なものは得意」みたいな。全然理由がなくて、出来ちゃうんだもんみたいなことが結構多かったんですね。

黒澤)うらやましいですね、こういう方は。そんな出来るんだ、すげぇなぁ。

絹川)自分でなんでできるかはあんまり、ちょっと言えない、上手く行ってるからっていう感じ。出来ちゃうい人はすごい出来ちゃうから、その出来てる理由がわかんない、出来てない人をどうやって導いていいかちょっとわかんないみたいな、なんかそんな感じなのかなぁ。好きな人の理由、なんで好きなんですか?「自由だから」「楽しいから」

黒澤)だよね。

絹川)っていう感じです。なのでやっぱり即興好きな人はとにかく即興大好きだし、自由だし、楽しいしっていうような圧倒的な感想があるのですが、その一方、じゃあ本番になったら、得意って言えますか?っていうと、いや、言えません、みたいな感じの微妙な日本人の感想になっていました。私からの報告はまあこんな感じです。

[拍手]

絹川)あんまりうまい進行、司会じゃないんだな。

黒澤)えー、何反省しちゃってるんですか!

絹川さん

絹川)大丈夫です、大丈夫です。っていうような調査が出たんですけど、まあでもね、これは一般的な調査なので、また世莉さんの思ってる、即興感みたいなものってあるんじゃないかなって思います。

黒澤)はい。あの、このゆりさんの作ったチラシに即興性という言葉と、こっちの見開きには主体性という言葉があって、この辺から話していけたら面白いかなって思います。

その前にちょっとみなさんにご質問したいんですよ。恐らくこの場にいる人達ってあんまり即興とかインプロが、テキストとか物語の演劇を作る時に役に立たないって思ってる人が少ないんじゃないかなって思うんですよね。そもそもここに即興なんかお前物語作るのにいらねえだろって思って来ている人いますか?そういうカウンター的な気持ちでいてる人がいたらむしろ議論になると思うんですね。まぁ僕らが話しても、いやいるよねー、大事、大事みたいな反響を期待しちゃうから、もしあ、ちょっと私はそうじゃありませんみたいな方がいらっしゃればお伺いしたくて。

そもそも即興やアドリブの定義って何?

お客様6)あ、スミマセン。さきほどのアンケートの前提として、即興やアドリブって言ったときに、皆さんがイメージするものってなんなのかなぁって、僕は実はわからなくて。ここで聞いた時はその、即興とかアドリブってなにか注釈みたいなものはあったんでしょうか。それとも、

絹川)ないです。

お客様6)じゃあ答えている人も、それぞれイメージすることは皆違うというか。

絹川)そうです、そうです。ありがとうございます。わざと即興という言葉とアドリブっていう言葉をミックスしたんですね。絶対曖昧だから。人によってあの即興とかアドリブ、まあ同じって考える人もいれば、違うって考える人もいらっしゃるだろうなぁと思って、わざと両方を入れてみたんです。そうするとやっぱり、確かにそのそれに対する認識みたいなものが違っていて、まあ厳密にっていうか、即興っていうのはまあ、あの柔軟にその場で対応していく力みたいな、心からわき上がったものをすぐ出すみたいな、考えと行動が同時みたいな感じなんですけど、アドリブってなると何か間違えたり、何かあったときにちょこっと入れるみたいな、なんかそういうような定義的なみたいなものは一応調べるとあるんですけど。でもそれ多分ミックス、グジャグジャになってるだろうなぁと思って、わざとそれをこう入れてみて自由記述でどういう風に出るかなと思っていたんですね。

お客様6)ありがとうございます。

お客様7)即興って日常的にもやるじゃないですか、私たち。仕事の場面でも「あ、この人なんかちょっと話がわかってなかったから、じゃあこういう話をしょう」とか、例え話したりとか、いろいろとその場で機転を利かしてなんとか目的を達成するためのいろんなことをやるじゃないですか。で、ここで演劇での即興っていうのは前提として、主宰者の方たち、絹川さんはどういう風に捉えてらっしゃるんですか?

絹川)すばらしい、もう話し始めちゃうと長くなっちゃうんですけど、簡単に言うと、観客がいるかいないかっていうのは大きな違いだと思っています。なのでおっしゃる日常生活の中の即興というのはいろんなところにあるんですけど、それに対して例えばオーディエンスがいて、それを観る、客観的にこう評価するっていうものというのはまあそんなにないんじゃないかなぁと思っています。舞台、パフォーミングアーツの場合は即興だろうが、台本だろうが観客がいて、その人たちのために表現するっていう大前提があって、そこの違いかなというふうに思っています。たぶん、オーディエンスがいないとみんな結構自由にリラックスしてできるのだけれども、やはり観客がいる、オーディエンスがいると、途端に意識が変わる、見られてるって言うか、意識が変わるっていうところはあるかなっていう。そういう風に切り分けるとしたらそういう風に分けています。

黒澤)即興ってすごく難しいところは、さっきのエチュードとかの話もそうですけど、人によって言葉の定義が違ってくるところもあると思います。僕は本当に若い頃にスタニスラフスキーを勉強してそこで即興って言ったら、その状況を信じて、しっかり過不足なく、普段の体の動きで、普段の箸持つ形で手を作ってみたりっていうことから、いかにその状況に自分がいること信じられるかっていう、ちょっとざっくりしてますけど、みたいな事をまず即興でやってたんです。だから僕にとっては、例えばドアのノックをするときに、口で音を出すみたいなことをやるのはあんまり筋がよくないかなっていうふうに最初は思っていたっていうのはあります。あと、インプロって言うと、これも結局人によって感覚が違うと思うんですけどで、もうちょっとショーアップされたものとして観客に対して伝えるものという風にとらえられていることが日本では多いかなっていう風に思っています。だから即興という言葉が意味することも、人によっても来歴によっても全然違うんじゃなかろうか、そこを厳密にしていくと、厳密にしていくことで時間がなくなってしまう気がするから、今日はちょっとバラバラな即興というものをむりやり束ねてお話していけるといいのかなと思っています。文句があったら後で怒ってください。

主体性と即興性

黒澤)主体性と即興性って結構似た感じで使ってます?チラシで。

絹川)これわざと、そうすばらしい。最初即興性って書いて主体性に変えたんです。

黒澤)僕、基本的にはゆりさんの言ってること賛成だよ、そうだそうだもっとやれ!みたいな立場なんですよ。4人いたら4人主体性のある俳優がここにいて、それぞれが自分で考えてやらなきゃいけないだろ、みたいな、10人いたら10人が主体性持って当たり前だ、みたいなことで今日の話し終わっちゃうので、どうしましょう。

絹川)じゃあ世莉さんの劇団時間堂はもともとその結構即興をやってて、そこからまあ作風が変わったとか。

黒澤)そうですね。

絹川)私が観た頃はすでに世莉さんが書いてたから。

黒澤)そうですよね。僕もともと19年くらい劇団やってて、一昨年解散したんですけど、僕がスタニスラフスキーの後にサンフォードマイズナーっていうアメリカのやつ、ざっくりいうと、人の関係性っていうものに焦点絞った演技方法論で、いかに目の前の人とコミュニケーションできるかみたいなことをしっかり練習するやつなんですけど、即興にも近いところもあるけど、同じではないんです。人の関係がちゃんと毎回新鮮にできるみたいなことが重要だと思って。目の前にいるこの人は生きてる人じゃないですか、絶対に。ロボット演劇じゃなければ。他のものは全部作り物の演劇のなかで、目の前の人間は信じやすいなって思ってたんです。で、即興でいけるぞみたいな、生きていられるだけでいいんだ、オー!みたいな感じで三本くらいやって、全然つまんない日があって、公演中に。

絹川)どういう作品だったんですか?

黒澤)さっきそれこそ、どなたかががおっしゃったエチュードみたいな、頭と真ん中とチェックポイントがあって、お尻があって、で、毎回起こることはライブだよみたいな感じでやったんですけど、これはダメだって思ったんですね、公演を3回やって。で、なんでダメかって言うと、もちろんその時その時できちんとあるものでやるんですけど、劇作家すげえなって思ったのは、セリフがすごくいいなって、やっぱり。セリフ決まってる方がこれ筋道ちゃんと辿るぞみたいな。ドラマがあるほうがちゃんと盛り上がるぞみたいなことを思って「あ、台本ってすばらしいですね」って反省しました。反省っていうか、その当時20歳そこそこでは即興だけでなんかすごいドラマを毎回毎ステージやるって事が出来なかったので、台本というものと組み合わせて、でもその台本の中で一つ一つの台詞は新鮮に即興性がある、きちんとその場で生きてる人間として毎ステージ違うものを起こす、っていうっていうようなことを重視してやるようになりました。

絹川)台本作品になっていったときにも、即興性っていうか行き来する状態というのは大事だということがあったんですよね。

黒澤)というよりは、僕にとってはそこが一番重要です。
演出家って3つ要素があるんです。「演技演出」俳優は何をするかということに興味がある人と、「空間構成」空間をどういう風に組み立てるかっていうことと、音楽とかも共鳴したり、「戯曲読解」台本をどういう風に表現するか、定義するか、構成するかに力点があるみたいな。3つ要素が分かれていると最近思ってて、僕は基本的には俳優演出にしか興味がないと断言してもいいぐらい、俳優に興味があるんですよ。その人は何やってんだ、あなたは今どうしたい、どんな葛藤があるの?を見たくて劇場に行くので、僕にとっては即興性がない俳優たちがどんだけオシャレな空間でどんだけ斬新な読解でやられても、はぁそうっすか……みたいな、じゃあ読みますわ自分で、みたいな気持ちになってしまうんです。

世莉さん6

ロボット俳優と信仰

絹川)じゃあ例えば、すごいロボットのような俳優さんがもしいて、演出しなきゃならないとしたら、どういう風に指導していきますか?

黒澤)いろんなロボットがいるので、いろんな固まっちゃってる人がいるんですけど、なんかこう信仰してる神様がホントに違う場合はすごいどうにも出来ない場合ってある。

絹川)なんですか、信仰してる神様って。

黒澤)「信じてる演劇が違う」みたいな場合ってあると思うんですよね。演劇は素晴らしいってことでは仲良くなれるので、この素晴らしい演劇の中でお互い違う神様を信じてるからどういう風に手をつなげるかっていうのをまず考える。だって、ねえ、否定することって演劇的じゃないじゃないですか。

絹川)そうですね。

黒澤)それは即興的でもないと思うし。本当に凝り固まっちゃってる人って正直お手上げかなって思う時もあるんですけど、でもだいたいはなんとか頑張れます。で何を頑張れるのかっていうと、これはいろんなケースがあるんですけど、多分ゆりさんとか、みなこさんとか皆そうだと思うんですけど、日本の演劇を作る場で「場の安全」が確保されてない場所というのはすごく多いと感じてるんです。で、安全じゃないところでチャレンジしろって言ってもそれは「お前崖の上に立って飛べ」みたいなことを言ってるようなもんで、死んじゃうみたいな、怖いじゃないですか。だからなるだけ安全な場所を作って、ここは安全ですと、だからチャレンジしましょう。ここは安全です、だからチャレンジして失敗してもイエーイって言いましょうみたいな、そういう風にしつこく言ってくと、まあなんか、こっちの方がいいぞみたいに思ってくれる人もいるので、そういうような場所づくりはします。ただまあ、そこで信仰を認めてくれるかどうかはもう、ほんとその人次第なので。

絹川)私は絶対こっちの芝居、こっちの神様の方が大事っていう人もいるということですね。

黒澤)怖いんだと思うんですよね。自分が今まで信じてきたものから別の所に行くのは。もちろんそれが得意でチャレンジ大好き!みたいな、ころぶの大好きみたいな人は全然何でもやってくれるし、素朴にうまいってやっていきますけど。今日即興に出てくださった皆さんはすごく、そこで握っていくコンテクストっていうのは早いと思うんですよね。毎回同じことやって同じセリフしゃべってくれなかったら怒りますけど、セリフをきちんとね、守ってケガしないようにやってくれれば、あとは自由にやってくれれば良くて。ああでも、段取りあんまり外されると怒るな(笑)。人によって許容するラインは違うと思うけど、ここは自由にやっていいよって範囲はある。サッカーと一緒ですね。ここは自由にやっていいよって言ったところと、ここはセットプレーが決まってるってところ。セットプレーみたいなところで自由にやられちゃうと、すげえ怒るっていうか。スミマセン、サッカーの話しちゃってごめんなさい。

絹川)わかります、わかります。サッカーは知らないけど分ります。やっぱりその全体で一つのものを作っていくから、位置というか、ここはこうだよねっていうのがちゃんとわかってないと、即興だからなんでもやっていいってわけではなくって、よりそこの精度っていうか、大事なところの精度は高くないといけないなっていう感じはするんですよね。

黒澤)主体性ということを話すときにたまにリスクがあるのは、主体性ってわがままではないから「好きなことやっていいよ」じゃないじゃないですか。だから最近思うのは、やっぱ演劇を作る人全員、これはスタッフさんそうですけど「空間に貢献する」ためにいるんだなっていうことがあって。皆が主体性を持ってるけど、その主体性がなんのために発揮されるかというと、この空間をいかに素敵にするかっていう、それはお客さんもそうで、お客さんも「なんぼのもんじゃい」ってふんぞり返った姿勢してたら、舞台も素敵にならないから。舞台の上の人たちも素敵にしようとしてくれてて、客席の人たちも素敵にしようとしてくれてて、みんな素敵にしようとしてくれてると、素敵なお芝居になるのかなぁって思ってはいて。これは簡単なことなんだけど、意外と少ないんですよね、そういう現場は。

稽古場今昔

絹川)さっきちょこっと出ましたけど、稽古場は怖いっていう感じは私、小劇場ずいぶんやってたんですけど、そういう感じでした。なんで、そう海外に行くと全然違うし、今の若い演出家の方とかずいぶん違うと思うんですよ。私、小川絵梨子さんの演出一回受けたんですけど、全然違う稽古場。すごいみんなで安全な場を作ろうっていう稽古場だったんだけど、昔の演出家っていうか、そんなこと言っちゃいけないけど、すごく怖いムードっていうか、稽古場が怖いっていうムード、昔はあったのかもしれないなって。

黒澤)今ならモラハラだろってみたいなことがいっぱいある、ね。これね、実名出すといろいろあれなんですけどね、ちょっと。

絹川)そこで萎縮しながらこう俳優がこうひねり出しているみたいな稽古場、もしかしたらあったのかな。

黒澤)その殻を破らせたいみたいな、演出家としては善意だと思うんですが、萎縮させちゃうような強権的な人でも、おそらくその俳優が持ってる課題とか殻を破らせたいみたいな思いがあって、グーって締め付けていく形でそれを達成しようとするんですよね。日本はそういうのがOKされるっていうか、師匠が弟子を厳しく指導するみたいなことを、面倒見てくれてるんだいいよねねみたいな意識がいまだにある。
ただまあ難しいところはありますね。ほんとにそれでOKな関係とかっていうのもあるだろうし、でもまあ、やっぱモラハラと結構密接だと思うし、少なくとも僕は好きじゃないので。

絹川)その稽古場の環境っていうのは興味があるところで、あの若い人たちの役者がどんどん育って、育つ時にその劇団もどんどんなくなっているし、劇団という集団ってやっぱり素晴らしい教育の環境だなと思うんですけど、だんだん劇団がなくなっていったりとかして、若い役者さんたちが、どうやってその成長していくんだろうと思って。そんな時にプロデュース公演ばっかりが増えて、その演出家さんに駒のように言われたことをやりますからみたいなことになっていっちゃうんじゃないかなと思って、それもあって即興みたいな俳優さんが自主的にこう動くような力というのは俳優には必要なんじゃないかなって思ったりします。

黒澤)最低何年やったら獲得できるんですかね。いきなり主体的に動けますみたいな人は生まれないから、必ず何年かのトレーニングって必要だろうなって思って、そういうことがもっと広まるといいですよね。たぶんここにいる人たちは共感してくださる方が多いかもしれないけど、シャラクサイと思ってる人は思ってください、結構共有できると思うので。その皆さんで少しでもいい俳優や演劇を作るためには、主体性のある俳優を育てなきゃいけなくて、そのためにはすごく長い時間が必要で、そういう人たちに安全でチャレンジできる環境をできるだけ提供してあげられるといいよみたいな、ことをみんなでやっていきましょう。
でも良くなってるんじゃないかな、どうですかね、10年前と比べて良くなっているんじゃないですか。若い演出家は違うって仰ってるし。自分が始めた頃よりはちょっとやりやすいのかなと思って。

世莉さん5

絹川)思いますよ。まあそのいろいろですね、何かちょっとパンフにも書きましたけど、別に俳優はスキルはいらないって豪語してる方がいらっしゃって。

黒澤)死ねばいいんじゃないですかね、そういう人は。

絹川)口か避けても誰とは言えないですけど。

お客様8)え、誰なんですか?

絹川)シンポジウムで名のある演出家の方々が何人もいたけど、そうだよねってみんな言ってました。全体が、俳優別にスキルがなくてもまあ、声もマイクがあるし、身体も現代の身体でできるし、別にいいんじゃない、別にテレビとか映画とかに出ていくんだから別に要らないよねみたいな。学会だったんですけど、全体がそういう感じで、ええっ?みたいな、違うだろって思ったけど、そういう傾向もあるのかなぁって。

お客様8)誰ですか?(笑)

絹川)じゃあ後でちょっと……。

お客様からの質問コーナー

お客様9)さっきアンケートで気になったんですけど、好きだっていう人たちが、自由だし楽しいって。私、ちょっとね、そこに引っ掛かったんだけど、即興で楽しくなきゃいけないっていうのはすごいプレッシャーを他の人にプレッシャーを与えてるんじゃないかというのがあるのね。楽しまなきゃいけないっていうプレッシャー?ものすごい尻込みしちゃうし、私は苦手だって言ってる人たちの中にいろんな可能性を感じるわけね。だから全体的にすごく盛り上げようだとか、楽しむことが大事だとかっていうところにね、罠があるように思うわけですよ。もっとそうじゃないものが、すごく可能性としてさっきの数は人数から言って苦手な人たちのほうが多いわけですよね。私はそっちの人たちの中にこそいろんな可能性を感じる。だからそういう人たちとどうやって、何をどうやって即興を進めていかれるかっていうのは課題としてあるかなぁと。なんか全体的にとにかく楽しいっていうことがものすごい価値観になってるような気がして、私はすごい抵抗がある。

絹川)たぶんここに書いてる人はそれが価値観ではないかと思うんですね。アンケートで楽しいって書いた人は多分、それが大事っていうのはあったかもしれないですね。まあ確かにおっしゃる通り、怖いのは楽しまなくてはいけないみたいな、それは義務になってしまうともうすごく本人も多分苦しいだろうし、観てる人たちも当然ながら苦しいっていうところはありますよね。

黒澤)勝手でいいはずじゃないですが、舞台の上でもなんでも。だから勝手でいいから例えば態度が悪く、すげぇつまんねえんだけど、みたいの風体は出して良くて、このつまんないがOKされる場所っていうのが、演劇の場の安全だし、つまんない、ホントむかつくみたいなことがちゃんとやれる楽しさ、みたいなものが出せるようになる。だからその楽しいって、楽しいという感情にならなきゃいけないって思っちゃう、勘違いされちゃう場合がままあるんだけど、そういうことは多分求めてないっていうことを、しっかりみんなに共有していけるといいなと思う。

世莉さん4

お客様9)あと結果的にやってみたら楽しかったってことでミステリーがたくさんあるんじゃないかなと、即興だと。わからないことがたくさんあるから、その隙間を入っていく、でも即興がない稽古場って、本読みをずっとずっとやってて、それでもうこれがこうなってるんですからこうしてくださいってみんなに言われて、これやんなくちゃいけないんだ、っていうことが多いから、即興があると、まあ質のいい即興だったらですけど、私たちはそれを目指したいんだと思うんだけれども、ミステリーがたくさんあってどうなるかわかんないんだけども、やってみた結果、ああちょっと演劇の喜びっていうか、ちょっとおもしろいなっていうことで最終的には楽しかったっていうことなのかなぁって。

黒澤)そうですね。

お客様2)しゃべるとキリがないです。

絹川)悲しいのが楽しいとかね。いろいろ。

黒澤)あとはこっちもチャレンジしたほうがいいじゃないですか。トレーナーもいっつも同じやり方でやってたら、自分たちが飽きるっていうのは別にどうでもいいですけど、自分たちがもっといい方法があるんじゃないか、これやってみようとかいうのって、結構リスクじゃないですか、やったことないのをやるのって。でもそのリスクをとることで俳優もお互いがリスクをとっていくんだぞみたいなことがシンパシーになったりするから、さっき質のいい即興っておっしゃいましたけど、質が良くならなくてもしょうがないよね、みたいな。「今日の稽古ぜんぜん意味なかったね」みたいなことも僕は楽しいことなのかなぁって思ったり。それぐらい余裕がある稽古ができるといいですよね。どうしても1カ月しかやらせてもらえなかったりするんで、長い稽古期間は欲しいなって演出家としてはよく思います。

絹川)そうですね。トレーニング期間も含めて、創作の時間とか必要ですよね。こうやってしゃべる時間とか、すごい大事だなと思っていて、ロンドンだと結構そう、オープンスペースっていうテクノロジーの話し合いの方法があるんですけど、それを使って演劇人がいろんな演劇の問題をみんなで話そうみたいな会を作っていたりするんですね。稽古もそうだけど、こういうなんかみんながしゃべったり考えたりするような時間っていうのもあってもいいかなという風に思ったりもしています。

黒澤)いや、本当に。作ってるじゃないですか、ゆりさん。

絹川)ねえ、皆さん来てくださってありがとうございます。

黒澤)ほかにも何か、聞いててしゃべれなかった人、ぜひ。違うぞ黒澤みたいなのあったら。

絹川)ではすごい拙い司会なのであれでしたが、本日は黒澤世莉さんに来ていただきました。

さいごに宣伝

黒澤さん2

黒澤)あ、宣伝していいですか?

絹川)はい、もちろんです。

黒澤)ありがとうございます。僕のワークショップや公演の情報など、黒澤世莉でTwitter、Facebook

https://twitter.com/serikurosawa
https://www.facebook.com/seri.kurosawa

で発信していますので、よかったら検索してのぞいてみてください。ありがとうございました。

絹川)ありがとうございました。本日のゲスト、黒澤世莉さんでした。

[拍手]

インタビュー集:演出家が考える即興性とは?
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