イングリッシュ・ナショナル・バレエ・スクール「サマー・パフォーマンス2020」生徒たちが世界各地から参加したダンス映像作品
通常は劇場で行われるという、イギリスのイングリッシュ・ナショナル・バレエ・スクールの生徒たちによる学年の締めくくりの夏公演。
2020年はコロナ禍のため、生徒たちそれぞれが自宅などで撮影した動画を組み合わせる形で作品が発表、配信された。
作品動画は2020年8月11日まで視聴可能。
振付は、1年生の作品をアナベル・ロペス・オチョア、2年生の作品をディディ・ヴェルドマン、3年生の作品をアンドリュー・マクニコルが担当した。
英国ロイヤル・バレエ団のダンサーたちが踊った映画『ロミオとジュリエット』を手掛けたバレエ・ボーイズ(BalletBoyz)が映像編集を担当し、ダンス動画として質の高い作品になっている。
動画は29分程度。構成は、冒頭で校長らのあいさつ、次に3つの作品、それからバレエダンサーのアレッサンドラ・フェリからの生徒への激励、最後に校長と3人の振付家による(ビデオ会議での)トーク。
ダンス映像は、一人一人の踊りをじっくり見られる場面は少ないが、テンポよく現れる楽しい振付やしんみりする振付などを飽きずに楽しめる仕上がりになっている。
世界各地にいる生徒たちの背後に映る家や庭や近所の道路などから、世界旅行をしているような気分も味わえる。
『Memorias del Dorado』
振付:アナベル・ロペス・オチョア、 2分55秒
タイトルは「黄金郷の思い出」という意味のスペイン語で、「エルドラド/エル・ドラード」は、大航海時代に南米にあるとされた伝説の黄金郷を指すそうだ。
着物を着た日本出身の生徒が和室で重厚な写真集を開くと、南米の遺跡の彫刻らしい白黒の写真が見える。その写真集のページや部屋のあちこちに、ほかの生徒たちが踊る様子が映る。
曲が郷愁を誘う。和服の生徒は、思い出に圧倒されるかのように静かに踊る。
本を足で踏んで踊っているのは見ていてあまり気持ちのいいものではなかったが、それ以外は好印象で、流れるように抒情的で美しい作品。ロックダウンで「会いたいけど、会えない」気持ちがあふれ出てくるようだ。
ヨーロッパからすると日本はいまだに「極東」で「エキゾチック」なイメージがあり、それを利用して異国情緒を出しているのだろう。振付家のオチョアは南米のコロンビアとヨーロッパのベルギーにルーツがある。自身のエキゾチシズムと日本のそれとをうまく掛け合わせて、西洋のバレエに新味を加えている。
『Not So Strictly』
振付:ディディ・ヴェルドマン、 6分24秒
タイトルは「そんなに厳しくなく」というような意味か。前半と後半に分かれていて、音楽の調子が変わる。
同じ振り付けを踊る生徒たちをトランプの札のようにずらっと並べてみたり、画面を縦に2分割して同じ映像を並べ、同じ生徒が並んでシンメトリーで踊っているように見せたりと、映像ならではの手法を楽しむように見せる、コミカルな作品。
生徒が家族やペットとペアで踊る場面がほほ笑ましい。ラストシーンも工夫されている。
『Gradus』
振付:アンドリュー・マクニコル、13分39秒
タイトルは「練習曲集」といった意味がある言葉らしい。数人の生徒たちの手の平に書かれた「GRADUS」という文字が映し出されて始まる。
生徒のソロやデュオが展開され、冒頭ではダンスへの思いを語る生徒の声が入る。
いちばん良かったのは、男女の生徒(Hannah NashとGouta Seki)によるバーチャルデュオ。片方が伸ばした手をもう片方が受け取ったり、片方がもう片方の体に手を回したりというふうにみせる、映像におなじみのテクニックが使われているが、特に女性(Hannah Nash)には一瞬で目を奪われ、表情も含めて、一緒に踊りたいけど踊れないもどかしさ、求める気持ちの強さがよく表現されていて、切なくなった。
このシーンは作り手としても出来が良いとの判断だったらしく、トレイラーに使われているので、動画で見てみてほしい。
作品情報
English National Ballet School's Summer Performance 2020
Memorias del Dorado (02:55)
Choreographed by Annabelle Lopez Ochoa
Performed by the First Year Students of English National Ballet School
Not So Strictly (06:24)
Choreographed by Didy Veldman
Performed by the Second Year Students of English National Ballet School
Gradus (13:39)
Choreographed by Andrew McNicol
Performed by the Third Year Students of English National Ballet School
Post production by BalletBoyz and Manilla Productions Ltd.
For more information please see enbschool.org.uk
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