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「浜辺のアインシュタイン」2022年、神奈川県民ホール:1970年代の"前衛オペラ"を新演出で上演

1976年初演の作品を新演出で上演。約4時間(休憩1回25分含む)。一部の繰り返しを省略したらしいので、オリジナルはもっと長いらしい。

歌詞原語(英語)・せりふ日本語上演。歌詞は数字などをずっと言っているので、字幕はなし。せりふが翻訳されているのはいいのだが、原語の英語字幕がなかったのは非常に残念。

一貫したストーリーはなく、場面ごとに意味がありそうななさそうな芝居のようなものが繰り広げられたり、ダンスが踊られたりする。

オーケストラピットは観客席から視界に入りやすいように高い位置に設定され、その両脇に、舞台からつながる小さなスペースがある。そこで演技のようなことや演奏、歌唱が行われる。オーケストラといっても、楽器は通常とは異なり、電子オルガン、フルート、バスクラリネット、サクソフォン、ヴァイオリンらしい。

ダンサーたちの身体が歌っているような感じに見える。音楽は、電子的な楽器も使われ、歌詞は数字などが主というと機械的なイメージがあるかもしれないが、むしろ海や宇宙から奏でられる天上の音楽といった趣がある。

冒頭はとてもよかった。掃除人たちが掃除をしながら、身体と言葉をシンクロさせて動きせりふを言う。「どうかなヨットに風あつめるかな。それであつめるかもそこに(Would it get some wind for the sailboat. And it could get for it is.)」という不思議な言葉(この英語をこういう日本語に訳せるのもすごい)が、これから何が始まるのだろうという期待感を高める。音楽も波のように心地いい。

裁判の場面の演劇的なシーンは、1970年代初演という時代を反映して、女性の人権の話。あまりに直接的な言葉で表現しているので、現代の感覚では古いと感じてしまう。(1970年代の運動にもかかわらず、いまだに解決されていない問題ではあるのだが、現代では違う表現方法になるだろう)

後半に真っ白なドレスで踊っていたのが「ブライド(花嫁)」か?「純白・純潔の女性」みたいな雰囲気できれいに踊り、男性ダンサーに持ち上げられたりして、最後には囲い(きれいな檻みたい・・・)に入っていた。なんだかあまり楽しめない演出だった(オリジナルがそうなっている?)。

終盤で、階段状になっている舞台に大きなビニールを広げ、薄い青色の照明が当たって、海を表現していた。ビニールは、ほかでも、人にかぶせるなど、多用されていた。海の(マイクロ)プラスチックの環境問題が頭に浮かんでしまい、皮肉なのか?と思ったが、どうなのか・・・。単に予算を考慮して安価にできる方法としての演出だったとか??

後半は、音楽的にも視覚的にも何度も「これで終わりか?」と思う場面があったが、またおなじみのいずれかの曲(のバリエーション?)が流れ、永遠に終わらないのではという錯覚にとらわれた。

最後のシーンは、男女のカップルによる陳腐な愛の会話で締めくくられる。たぶん、あえてそうしたのだろう。「私を愛している?」「私をどのくらい愛している?」といったたぐいの会話だ。男性の答えは、無限の愛、海の広がりを感じさせるものではあった。男性役を女性が演じていたのは少し興味深かった。

ダンスは、記号的な感じの動きもあれば、ゆっくりと柔らかい動きもあった。手押し車(のようなもの)がよく登場し、ダンサーたちがそれを操作していた。バレエのアラベスクのように身体の側面を見せることが多かったように思う。オリジナル作品の振付がどうだったのかはわからないが、踊りがもっと面白ければ、作品全体ももっと面白かったかもしれない。

音楽、演奏、歌はよかったのだが、ダンスと演出はもっと何かやりようがあったのではないかとも思ってしまう。しかし、おそらくすごくいろいろなことを考えて練られた演出なのだろうな・・・。私の知識や感性が足りないせいで受け取れない部分が多かったのだろうとは思う。音楽も、きっといろいろな仕掛けがしてあったのだろう。

今回の舞台はわりと絶賛されていたようだが、通好みの作品なのか、それとも私のように音楽やオペラに疎くても感激した、という人も多かったのか?

上演時間が4時間で、これといった粗筋もないとなると、多少うとうとはするのだろうと予測していたが、ところどころ一瞬意識が飛ぶくらいで、予想よりも起きていられた。

もっとぐわーっと持っていかれるような感覚を味わうことができる舞台であれば、すごい作品なのかもしれないと思う。音楽に脳が侵食されていく快感みたいなものはあった。

作品情報

「浜辺のアインシュタイン」Einstein On The Beach

音楽:フィリップ・グラス
台詞:クリストファー・ノウルズ、サミュエル・ジョンソンルシンダ・チャイルズ
翻訳:鴻巣友季子
作曲:1975-1976年
初演:1976年7月25日、アヴィニョン演劇祭(フランス)
日本初演:1992年10月18日、アートスフィア

演出・振付:平原慎太郎
指揮:キハラ良尚

出演:
松雪泰子
田中要次
中村祥子
辻󠄀彩奈(ヴァイオリン)
Rion Watley
青柳潤
池上たっくん
市場俊生
大西彩瑛
大森弥子
倉元奎哉
小松睦
佐藤琢哉
東海林靖志
杉森仁胡
鈴木夢生
シュミッツ茂仁香
城俊彦
高岡沙綾
高橋真帆
田中真夏
鳥羽絢美
浜田純平
林田海里
町田妙子
村井玲美
山本悠貴
渡辺はるか

電子オルガン:中野翔太、高橋ドレミ
フルート(マグナムトリオ):多久潤一朗、神田勇哉、梶原一紘
バスクラリネット:亀居優斗
サクソフォン:本堂誠、西村魁

合唱:東京混声合唱団

演出補:桐山知也
空間デザイン:木津潤平
衣裳:ミラ・エック(Mylla Ek)
照明:櫛田晃代
音響デザイナー:佐藤日出夫
映像:栗山聡之
ヘアスタイリスト:芝田貴之
メイク:谷口ユリエ
プロダクション・マネージャー:横沢紅太郎
舞台監督:藤田有紀彦、山口英峰
音響アソシエート・デザイナー:西田祐子
衣装補助:柿野彩
電子オルガンアドバイザー:有馬純寿
演出助手:日置浩輔
振付助手:田﨑真菜
コレペティトゥア:石野真穂、矢田信子
副指揮:森田真喜
ステージマネージャー:根本孝史
ライブラリアン:塚本由香
神奈川芸術文化財団 芸術総監督:一柳慧
県民ホール・音楽堂 芸術参与:沼野雄司

イラスト:大友克洋


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