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「分身ロボットとダンス」利他学会議:さえさん(OriHime)、砂連尾理、伊藤亜紗:ここにいない人に振り付ける【内容メモ】

東京工業大学の科学技術創成研究院に、2020年2月に創設された「未来の人類研究センター」が主催するオンラインカンファレンス(ウェビナー)。土日の2日間にわたって無料で開催された。

センター長は伊藤亜紗さんが務める。(あまり女性が男性がと言うのはよくないが、女性で准教授の伊藤さんがセンター長で、メンバーに3人の男性教授がいるというのもなんかよいのではと思う)

その中のセッション「分身ロボットとダンス」では、伊藤さんが、分身ロボット「OriHime」のパイロット(遠隔でロボットのOriHimeの「中の人」になる人)を2年半ほどしている「さえさん」と、振付家・ダンサーの砂連尾理(じゃれお おさむ)さんと半年ほど前から行っている共同研究を紹介。「実験」の記録動画を見せながら、語り合った。

視聴メモ

離れている人、亡くなった人を考えるプロジェクト。

それを考えるのに、なぜ「分身ロボットとダンス」か。

分身ロボット:
(遠くにいながらロボットの中にいる)さえさんの視線、存在を感じる。

ダンス:
ライブパフォーマンスというより、他者に振り付ける、「遠隔」が本質。

伊藤さん、さえさん、砂連尾さんで共同研究を始めて半年。

さえさんがOriHimeでしていること:
作業中の人の話し相手になって孤独を癒やす。
タピオカ店で働く。5Gを利用したら回線速度が速い。沈黙の気まずさがわかるほど。

砂連尾さん:
高齢者施設にコロナで行けなくなり、Zoomでワークショップを行っている。
全員、いつでも自分が注目されていると思うようになった。
施設職員の方が、砂連尾さんがその場に行けないので、砂連尾さんになり代わるようにして動いてくれるようになった。
何か表したいものがあってダンスになる、ということを改めて実感。

伊藤さん:
通常の研究は一般化を目指すが、この研究でテーマとする「身体」は個別的。

実験の動画:
「遠隔の触覚」がテーマ。
・伊藤さんと砂連尾さんが公園にある湧き水の周囲を散策したり、湧き水を飲んだりした感触をさえさんに伝える。
・爬虫類カフェに行って爬虫類の感触をさえさんに伝える。(さえさんは爬虫類好き)

さえさんが、湧き水を飲んだ砂連尾さんの喉を見せて、と言った。
伊藤さんたちは言葉で表現しなきゃ、と思っていたが、さえさんは水を飲む触感を自分の「喉に落とし込む」ようにしようとした。

砂連尾さん:
ダンスで振付家から振りをもらうときも、目の前でやってもらったものを自分の体に「落とし込んで」いく。
これまでの自分を総動員して、どう踊ったらいいのか、を模索してダンスにしていく。
湧き水のところで砂連尾さんが踊ったときに、伊藤さんたちは見るよりも喉で感じた。

砂連尾さん:
「視覚を喉で味わう」こともできるのかもしれない。

伊藤さん:
やろうと思って出たのではないジェスチャー、身振りに実は何かが現れている。

遠隔で感じやすい、伝わりやすいのはどんな場合か?
さえさん:伊藤さんと砂連尾さんは私の身体感覚を最初から信頼してくれていたから、それが安心感につながっている。

さえさん:
最近、ガラス工房へ、よく知っている人にOriHimeとして連れて行ってもらった。そこでガラス吹き体験をしたとき、砂連尾さんがいてくれたらよかったのにと思って、砂連尾さんの触覚を信頼しているのだなあとわかった。

さえさん:
2人は私の中にある身体感覚を探ろうとしてくれている。

伊藤さん:
さえさんと砂連尾さんは互いに探り合っている。砂連尾さんはさえさんのすべて言うとおりに動くわけではない。

砂連尾さん:
高齢者施設で、ケアの観点からはやってはいけないことをやってしまう。
例えば、認知症の人の背後から近寄って後ろから目をふさぐとか。(認知症の人に対して、予測し得ないことをするのはよくない、と一般的には言われている)
さえさんにも、予測できないことをしたらどうなるか、を試してみたくなる。さえさんを、揺らす。

さえさん:
最初は、砂連尾さんはなぜ私の言うとおりに動いてくれないんだろうと思っていた。
しかし実験を重ねるうちに、砂連尾さんの自由度が増し、自分が求めていないこと、心地いいことではない刺激も入ってきて、それが触覚なのかなと思った。
爬虫類カフェで、蛇が、最初は伊藤さんの手の器に収まっていたのに、伊藤さんの体を這い始めて、伊藤さんが蛇に翻弄されているた。自分もそれを感じて、少し気持ち悪くなるみたいな感覚があった。

砂連尾さん:
伝えようとしたことではないことの方が、さえさんにいろいろな感覚を与えている。
蛇に踊らされる伊藤さん。

さえさん:
爬虫類が全部恐竜に見えた。分身ロボットだと体が小さくなるので。
分身ロボットだと、嫌になったら単に接続を切ってしまえば逃れられるはずだが、それはできない。
分身ロボットでいる間は、むしろ生身の方がおろそかになる。

実験の動画:
テーマは「体を借りる(仮)」。
・タコをさばいて、たこ焼きを作る。全盲の難波さんが参加。さえさんが声でリードしながら難波さんがたこ焼きをひっくり返した。
・さえさんがいつもしている化粧を、さえさんに指示されながら砂連尾さんがしてみる。

たこ焼きをひっくり返す。
細かく「あと何センチ」と言うのでは伝わらないことがわかってきて、最後は「あーっ、そこ」みたいな声になっていった。それが面白かった。

砂連尾さんがOriHimeを抱えて、難波さんの手元をさえさんが見えるように調整しようと動く。さえさんと難波さんに振り回される砂連尾さん。OriHimeのさえさんといろいろしているときよりさらに広がって、難波さんも含めたダンス、コンタクト(インプロヴィゼーション)みたいな。

さえさん:
たこ焼きをひっくり返すのと難波さんとするときに、OriHimeとしての感覚がちょっとずれていたことに気付いた。難波さんや砂連尾さんと感覚を共有してスポーツをしているみたいで楽しかった。
でも、ずれなどの制限があるからこそ、砂連尾さんの顔に接近して、アイラインの引き方を細かく指示することもできる。

砂連尾さん:
制限があるからこそ、遊べるということはある。
大学のオンラインの授業で、1年生のダンス未経験者も、こちらの動きをちゃんと見てくれるし、むしろその場にいないから学生たちも踊れる。恥ずかしいからとビデオをオフにして、かえって思いっきり踊れた学生もいる。
メイクをして、自分が見たことのない表情をしていた。さえさんによって変身させられた。

伊藤さん:
さえさんが砂連尾さんに化粧を「振り付け」ていた。
砂連尾さんを見ていて、その代わりぶりが怖いくらいだった。声色まで変わっていた。

砂連尾さん:
(化粧はいわば)踊り慣れていない振付だけど、さえさんがいるから信じてやってみることができた。責任はさえさんが持ってくれて、お任せの状態。

さえさん:
砂連尾さんが、化粧を終えたときにした表情が、いつも自分がメイクし終えたときに鏡に向かってする表情と同じだった。砂連尾さんに「移植できた」。

砂連尾さんがずっと持っていたテーマ=「ここにいない人を踊る」。
コロナの前から考えていた。

砂連尾さんがダンスを始めたのは19歳。身体感覚を取り戻したくて始めた。
最初は誰かと踊る、と言うことを行い、16年間デュオで踊った。
その後、障害のある方、高齢の方と踊る機会があった。
一緒に踊った高齢者が亡くなって、もう踊れなくなってしまった。でもその人と踊った記憶を持って踊ってみて、ソロは一人で踊っているとは限らないとわかった。

2019年に(砂連尾さんの)父と母が亡くなって、喪失感。
両親などの亡くなった人に触れる、触れ合う、その練習を、さえさんとしているのではないか。

その過程で、両親の前で踊る動画を作った。5、6分の動画。
・Zoomで一人の女性と通信して、2人で踊る。影同士を映したり、実体と影とで踊ったりして、その場にいない相手と触れているような感覚になる。
・家で、両親の写真の前で踊る。

砂連尾さん:
いなくなってからの方が存在感を強く感じる。
天国の視線ってこうなのかな、と想像したり。

※このあたりで、通信の不具合のため、終了まであと10分弱のところでウェビナーが切れてしまった・・・。

感想

「死んだら終わり」ではないと思えれば、少しは楽になるかもしれない。ここにいないからといって、「もう会えない」わけではない。その存在を感じることはきっとできる。

3.11から10年目を迎えたここ数日、喪失にどう向き合うか、という話がメディアで取り上げられている。無理に「いない」と自分を納得させようとしたり忘れようとしたりするのではなく、話し掛けたっていい、ここにいると想像することも、どこかにいると思うことも、いつか会えると信じることもできる。

一緒に踊ることもきっとできる。そうすれば一緒にいられる。それでも寂しいことはあるだろうけども。

ビデオ電話で顔を見合わせ、話していても、動画の中の相手に手を伸ばしてしまうことがある。画面越しにでも手を合わせられたら、少しでも「触れた」と感じられるかもしれない。

開催情報

分身ロボットとダンス
3/13(sat) 20:00-21:30
分身ロボットOriHimeのパイロットさえさん、ダンサー・振り付け家の砂連尾理さん、そして未来の人類研究センターの伊藤亜紗が、コロナ禍に入ってからスタートした、離れたところにある身体同士の関わりをめぐる研究。研究はまだ途上ですが、さまざまな実験の様子をおさめた映像を交えて3人で振り返ります。(協力=鹿島理佳子)

■3月13日(土)10:00-14:30
10:00-11:30 分科会1「利他的な科学技術」(ゲスト:三宅美博、三宅陽一郎)
13:00-14:30 分科会2「自然と利他」(ゲスト:井田茂、塚谷裕一)

■3月13日(土)20:00-21:30
20:00-21:30 分身ロボットとダンス

■3月14日(日)10:00-14:30
10:00-11:30 分科会3「社会の中の利他」(ゲスト:塚本由晴、小林武史)
13:00-14:30 全体会「理工系大学のなかの人文社会系研究」(センターメンバーによる2日間の振り返り)


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