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『Chotto Desh』アクラム・カーン・カンパニー:移民としてのルーツや家族を踊るダンス
タイトルの『Chotto Desh』は、「小さな故郷」(small homeland)という意味だそう。
アクラム・カーン振付のダンス作品『DESH』(2011年初演)を基に、Theatre-Ritesの演出家、Sue Buckmasterが子ども向けにした作品が、2015年初演の本作。
私が映像で見たバージョンでは、主にフランス語のせりふ(音声)に英語字幕が付いていた。予告編を見ると、せりふが英語のバージョンもあるようだ。
父親がバングラデシュ人、母親がフィリピン人(?)で、フランス・パリ生まれの少年・青年が主人公。彼のソロ作品。
アクラム・カーンの自伝的な作品だそうで、彼はイギリスの人なので、英語バージョンではイギリス生まれ・育ちという設定なのかな?
電話をかける場面から始まって、子どものころに父親にバングラデシュに連れて行かれた思い出、祖母が語ってくれた少年が冒険する昔話、父親のように料理人ではなくダンスがやりたいこと――などが、ファンタジックな舞台美術と、簡素な舞台セットによって、展開していく。
決して言ってはいけない、「そんなに故郷がいいなら、帰ればいいじゃないか!」という言葉。息子にそう言われたときの父親の気持ち。
父親が求めるのとは別の道を目指したい息子。それをなかなか理解してもらえない気持ち。
私は「移民」ではないのに、見ている間じゅう、「あれは私だ」という気分にとらわれていた。そして、なぜだか泣けてしまう。
マイムのようなユーモラスな動きや、子どもらしい動作や、カンフー(?)のような動き、バレエの動き、コンテンポラリーダンスの踊りなど、ダンサーの自在さも際立つ。
主人公と「会話」する、ナレーションの声たちもよい。
アクラム・カーンは、イングリッシュ・ナショナル・バレエの『新版ジゼル』が素晴らしいが、本作もとてもよかった。
物語、感情的な感動と、ダンスとしての技巧や構成、舞台全体の演出のバランスがよく、幅広い人を満足させるカーンのダンスは、鑑賞者にとって、見て聞いて感じる喜びにあふれている。
シビウ国際演劇祭オンライン2020での配信情報
2020年6月16日(火)
■1:00(再配信:同日13:00)
『CHOTTO DESH』56分
Akram Khan Company
振付:Akram Khan/演出:Sue Buckmaster (Theatre-Rites)