『饗宴/SYMPOSION』演出・振付:橋本ロマンス、音楽:篠田ミル
橋本ロマンスさんの作品は、自身の作品としては初という『イヴ』を2019年にスパイラルホールで見ていて、印象に残っていた。プロフィールからは「駆け出し」と見えたが、作品に独自性と力があった。
▼以前のブログで稚拙な感想を綴っていた…
その翌年に、横浜ダンスコレクション2020「コンペティションII」最優秀新人賞を受賞したと知り、やっぱり、などと思っていた。
そして今回の世田谷パブリックシアターの主催公演。簡単に再演できる作品ではないと思われ、見ることができてよかった。
座席はF列が最前列となり、その目の前の床までがパフォーマンスの場となる。奥は、普段は見せないことが多い舞台の裏側的な場所を剥き出しにしている状態?エレベーターなども見えていた?F列と同じ高さの床の奥にかなり高い台があり、その台を正面から見たところが壁のようになっていて、街中のグラフィティ、落書きのように、社会的なメッセージや罵り言葉が書いてある。台の上は舞台になっているわけだが、前方の席からは台の上にいる人の全身は見えない(それくらい高い位置にある)。床と台とで、両方セットで「場」をつくっている。台の上にはテーブル、椅子、ピアノ、扉、エレベーター(?)などがある。台の中央には、つり下げられたスクリーンがあり、舞台に設置されている何台かのビデオカメラの映像がそこに映し出される(1台のビデオカメラは床の「舞台」にあり、可動式)。
上演前、舞台セットを見た時点で、これはいい作品かも、と思った。始まると、音楽はかっこいいし、パフォーマーたちは個性的で、動きも振付もかっこよくて、期待が高まった。
せりふのあるシーンは、私なら入れないだろうと思う。せっかく明示的な言葉無しに表現できる力量があるのに、明快過ぎる言葉を入れるのはもったいないとも思う。しかし、パンフレットに橋本さんは、作品をつくることは手段であり、目的ではない、とはっきり書いており、伝えたいこと(の一部)を言葉にする必要があったのだろうし、インタビューを読むと、そのシーンは出演者にとっても意味のあるものだったと示唆されている。それでも私は、あのシーンがない方がよりよい作品になったと思っているが。
本作品がどんな意味内容を持っていたのかは考え中だが、「作品は手段」と言い切る橋本さんの作品はそれでも、それ自体を見る喜びを与えてくれる。音楽(すごくよい)、美術、照明、音響、映像、舞台監督、そして出演者たちの力が結集して出来ている作品だが、全体を作品としてまとめ上げる力量と、完成度への手抜かりのなさ、センスの良さに、橋本さんの才能と努力を感じる。
インタビューで白井晃さんが橋本さんにミスジェンダリングの発言を指摘されているが、これまで築いたキャリアがあり保守性も持っていると思われる白井さんがあえて橋本さんに依頼したことも功を奏したと言えるだろう。
プラトンの『饗宴』への批判を出発点としているということだが、言われなければそうとはわからないと思う(私は本書を読んではいないものの、内容について多少聞いたことはある。しかしその程度なので、気づかなかっただけかもしれない)。
パンフレットにある橋本さんのあいさつ文はとてもよく書かれていて、作品もよく考え抜かれていると思う。コンセプトを持って作品づくりをし、言葉でも説明できる人だと思っていたら、最初は現代美術を自分(=橋本さん)はやると思っていた、とインタビューに書いてあったので、美大の学生時代にコンセプトを磨いて作品で表現するという訓練を積んだのかなと思った。生真面目(よい意味で)で理知的な人という印象も受ける。
私は「美術や芸術に政治を持ち込むな」という意見は甚だナンセンスだと考えているが、本作品について、せりふのある場面はない方がいいと思ってしまった。せりふがなくても言いたいことは十分伝わるし、言葉は逆効果だと思ったからだが、もしかしたら、「政治的になり過ぎる」ことに拒否感があるのだろうか?いやむしろ政治的なことにとどまることをもったいないと思うのか?しかし、政治的なことに終始したとしても、それの何がいけないのだろう?それに、本作品は社会的・政治的なメッセージやプロテストに終始しているわけではない。芸術としての力を持っている。こういうふうにわざわざ思う・言うこと自体が、芸術の中の政治性を一定程度までにしておきたいという願望の現れなのだろうか。
なんてことをつらつら考えつつ、橋本さんが今後どのような作品をつくり、どのような活動を展開していくのか、とても楽しみだ。
出演者について。湯浅永麻さんはさすがのダンスで、池貝峻さんの動きがよいと思っていたらミュージシャンで驚いた。唐沢絵美里さんがとても気になる存在だった。ご自身の活動も見てみたい。唐沢さんは最後は痛そう(?)だった(ご本人は痛そうにはしていなかったが)(このシーンも作品のテーマにとってかなり重要な点になっているのだろう)。
作品情報
『饗宴/SYMPOSION』
2024年7月3日(水)~ 7月7日(日)
世田谷パブリックシアター
演出・振付:橋本ロマンス
音楽:篠田ミル
美術:牧野紗也子
照明:鳥海 咲
音響:遠藤瑶子
映像:山田晋平
舞台監督:川上大二郎、湯山千景
プロダクションマネージャー:木村光晴
出演:
池貝峻 今村春陽 唐沢絵美里 Chikako Takemoto 田中真夏 野坂弘 湯浅永麻
稽古場アンダースタディ:神田初音ファレル
約1時間20分(休憩なし)
料金(一般):6,500円
唐沢絵美里さんについてのメモ
▼唐沢さんの作品《"Our"Stories.2》の音声(アミナさんとレイヤさんの会話)の内容が結構ずっしりくる。