勅使川原三郎版「羅生門」:笙演奏で勅使河原、佐東利穂子、アレクサンドル・リアブコが善悪と生死を踊るダンス
勅使川原三郎の新作ダンスは、芥川龍之介の短編小説『羅生門』を原作とし、ハンブルク・バレエ団からアレクサンドル・リアブコ、笙演奏の宮田まゆみを迎え、自身も佐東利穂子とともにダンサーとして参加した。約80分。
勅使河原が手掛ける照明が素晴らしく、一瞬の光と闇で空間を切り取り、こちらとあちらの世界を現出させる。笙の生演奏で佐東が踊る場面は幻想的で、すべてが浄化されるようだ。
冒頭で勅使河原が下人、佐東が老婆となり、佐東の朗読音声によって、短編の粗筋が演じられる。その後、3人がソロやデュオとなり、ダンスシーンが繰り広げられる。
佐東とリアブコのデュオは、リアブコの明確で大きな動きと佐東の細やかで流れる動きが対照的だ。
勅使河原の下人を演じるときの下卑た動きと、その後の踊りを思いっきり見せるソロと、どちらも大変魅力的で、あの自在さはどこからくるのだろうと思う。少なくとも100歳まで踊り続けてほしいし、今ほど体が動かなくなっても、わずかな動き、いや存在だけで、舞台で魅せてくれるのではないか。
最後の音楽の旋律と透き通るようなダンサーたちのたたずまいは、意地汚く見えながらも生きようとする人間への祝福とまではいかなくとも、寄り添うように許そうとする、善悪や生死を超えた昇華を思わせた。
東京芸術劇場での公演は空席も結構あったが、今もっと多くの人に見てほしい舞台だった。
作品情報
2021年8月6日(金)~8月8日(日)
東京芸術劇場 プレイハウス
原作:芥川龍之介『羅生門』より
演出・構成・振付・照明・美術・音楽構成:勅使川原三郎
アーティスティックコラボレーター:佐東利穂子
出演:勅使川原三郎、佐東利穂子、アレクサンドル・リアブコ(ハンブルク・バレエ団)、宮田まゆみ(笙演奏)
※8月11日(水)に愛知県芸術劇場で上演
▼鑑賞後の自分の感想と大きくずれてはいないが、鑑賞前に読まなくてよかった記事(笑)。事前にこういう内容を読んでしまうと、鑑賞体験がその内容に縛られて限定されてしまうから。