映画『コンプリシティ/優しい共犯』:中国人技能実習生の苦境を温かく描いた佳作
技能実習生として来日した中国人青年チェン・リャンは、劣悪な職場から逃げ出し、不法滞在者になってしまう。他人になりすまして、蕎麦屋に就職し、温かく迎えられるがーー。
移民排斥の動きが進むヨーロッパで近年、移民との交流を描く映画が幾つか日本でも公開されたが、日本でもついにこういう映画が登場した。
日本の制度や現状を真っ向から批判するのではなく、「心温まる」側面が強調されてはいるが、居場所を失ってしまった青年の苦しみが描かれ、静かな怒りが作品の根底にあると思う。
演技も、映像も、音楽も、せりふも、青年が仲良くなるアーティストの女性の絵として登場するアートも、全てが調和が取れていて、好ましい。
青年の日本での状況と、来日前の中国での回想の場面が交互に出てくる構成で、せりふの半分以上は中国語ではないかと思う。
監督・脚本の近浦啓氏の長編デビュー作で、東京フィルメックスで観客賞を受賞したという。この映画の前日譚である短編映画『SIGNATURE』は、DVDとして、今回の映画に併せて限定販売している本に付属している。
映画に登場する絵画制作は伊吹拓氏。
主題歌はテレサ・テンの「時の流れに身をまかせ」の中国語版。映画には歌の日本語版も出てきて、エンディングで中国語版が流れるのだが、泣いてしまう。
共同プロデューサーのナイ・アン氏は、中国のロウ・イエ監督のこれまでの全作品をプロデュースしているらしい。ロウ・イエ監督の映画が好きなので、それでこの映画も私の趣味に合ったのかもしれない。
「外国人」は、一人一人、たとえ言葉が通じなくても、人間同士、交流できる人のはずなのに、日本では、そのことを置き去りにした「政策」と、そして個人レベルの「差別」が行われているのではないか、と考えさせられる。
主演のルー・ユーライ(呂玉來)氏の演技は、つらそうな顔、悲しそうな顔、そして笑顔が、目にこびり付いて忘れられない、魅力的な俳優さん。他の出演映画も見てみたい。
藤竜也氏、赤坂沙世氏、松本紀保氏の俳優陣も、しぶくて良かった。