『ゴールドシャワー』コンテンポラリーダンスのフランソワ・シェニョーと舞踏の麿赤兒による禁断の日仏ダンス
バレエやほかのダンスを組み合わせ、ジェンダーもテーマとする振付家・ダンサーのフランソワ・シェニョー(1983年生まれ)と舞踏カンパニー「大駱駝艦」主宰の麿赤兒(1943年生まれ)が2013年に出会い、2019年に共同で創作を開始し、2020年にフランスで披露された作品が、2021年、世田谷パブリックシアターで上演された。上演時間約70分、休憩なし。世田谷アートタウン2021関連企画。
当日パンフレットで麿赤兒がタイトルの『ゴールドシャワー(Gold Shower)』について、ギリシャ神話の神ゼウスと人間ダナエが結ばれて英雄ペルセウスが生まれたことに言及しているように、エロスがあふれている。
※この神話は、父王によって幽閉されていた娘ダナエに引かれた全能の神ゼウスが、黄金の雨に変身してダナエに降り注ぎ、交わるというもの。エロティックな題材のため、よく絵画に描かれた。
ヤン・ホッサールト - The Yorck Project (2002年) 10.000 Meisterwerke der Malerei (DVD-ROM), distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH. ISBN: 3936122202., パブリック・ドメインhttps://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=151992による
グスタフ・クリムト - The Yorck Project (2002年) 10.000 Meisterwerke der Malerei (DVD-ROM), distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH. ISBN: 3936122202., パブリック・ドメインhttps://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=153424による
舞台のやや上手寄りの中央に、人が複数乗れる大きさで、傾斜もあって丘を思わせる大道具があり、上手に岩を模した物が置かれている。
冒頭では麿赤兒が継ぎはぎの長く引きずる布をまとい登場。ゆっくりと歩き回る。「舞踏っぽいな」と思いながら(「ぽい)ではなく本物だが)、少し眠気を誘われる。
一度上手へ退場し、すぐ上手から再登場したと思ったら、口にくわえた棒の先に能面が付いていて、能面は麿赤兒の顔の方に表を向けている。つまり、もう少しで麿赤兒と能面がキスしそうな様子。そのままゆっくり動き回る。
また退場し、今度は何か音が・・・。すると、中央の台の真ん中のくぼんだ所からシェニョーが顔を出した!徐々に上がってくる。金髪の短髪のかつら(?)に、化粧を施し、赤い唇。手の爪は金色に光っている。台の中央に水が張ってあって小さなプールのようになっており、水音がしていたのだ。
全身が出ると、ほぼティーバックの金色の下着(前はちゃんと隠れるように大きめの布だが、後ろはひもだけ)を着けている以外は全裸。筋肉質で締まっており、尻と足がすらりとしていて特に美しい。肌もつるつる。
麿赤兒が登場して、2人は出会い、「見ちゃいけません」的な交流を繰り広げていく。互いの信頼感や強烈な興味が見えるようなダンス。
麿赤兒の舞踏の動きは、シェニョーと同じ空間にいるからこそ改めて面白いというか、周りの空気が独特の雰囲気をまとう。身体と動きで別の時空間を作ってしまう踊り。
当日パンフレットによると、「1 恍惚の血筋」「2 揺籃」「3 石の崇拝」「4 パレード」「5 遁走」「6 可愛い者たち」「7 愛の歌」「8 死の戴冠」の8つの場面に分かれている。
日本の伝統舞踊を少しイメージさせるような音楽が流れたり、無音だったりする。2人が足でリズムを打って、フラメンコやタップを思わせる場面もあった。
シェニョーが片手を前から股間、尻へと回す動作を2回くらいしたり、麿赤兒が複数回シェニョーの乳首を触ったり、麿赤兒がシェニョーの腰に縄を付けて馬を乗り回すように動いたり、キスしそうなしぐさをしたり、2人で放尿して相手にかける演出(水が入った袋のようなものを手でつぶして水を放出させたと思われる)があったりと、性的なイメージが多く盛り込まれている。
「ゴールデン・シャワー(golden shower)」は英語で「特に人に向けてかける場合の放尿」を指すのだそうだ。
天井から降ろされたかつらや被り物や衣装や下駄(?)を2人で身に着けて、女性っぽい格好をして、客席に向かって競う合うように観客に色目を使う場面もあった。
渦巻文様で先端がとがっている装飾品を使って、麿赤兒が自身の首をかき切ったり、シェニョーを刺したりする動作をするなどして、「死」が表現される。
シェニョーがフランス語で、麿赤兒は日本語で歌う。麿赤兒が歌うのは子守歌の「ねんねんころりよ」。眠りが死となる理想の終わりの迎え方?性と生を謳歌して、疲れて眠りについたらあの世へ旅立っていて、愛する人の歌がかすかに聞こえる、みたいな。
怪しい(そして本人たちは楽しそうな?)エロスと死がテーマだが、ユーモアもある。「見てはいけないものを見てしまった」感覚と、「よくぞこんな訳のわからないながらも魅力にまみれた舞台を作ってくれた」という感情が交錯する。
カーテンコールで2人が抱き合っているのもよかった(←何が?笑)。あと何回か見たい。
シェニョーが女性のようでもあり、40歳年上の高齢男性と関係を結ぶという構図をどう考えたらいいのかというのは迷うが、女性ダンサーと麿赤兒とではこういう作品にならなかっただろうし、2人とも性別がどうのという次元を超えた存在のようにも思えるし、この2人同士だからこその結び付きと捉えるべきか。しかし、身体が男性である2人があからさまに女性性をまとう(装う?)場面もあったのだし、なんだろう、女性をばかにしているというよりは、「こういうのやってみたかったんだよね」というようなノリに見えたが。自分の中の女性的な性を解放するような意味合い?
宣伝デザインは祖父江慎+cozfish。
▼2020年の来日公演:フランソワ・シェニョー&ニノ・レネ 『不確かなロマンスーーもう一人のオーランドー』ジェンダーを超える音楽舞踊
作品情報
世田谷アートタウン2021関連企画
日仏国際共同制作ダンス公演 『ゴールドシャワー』
世田谷パブリックシアター(東京)
2021年10月15日(金)19:00、10月16日(土)15:00、10月17日(日)15:00
【構想・出演】フランソワ・シェニョー、麿赤兒
<ツアー情報>
日時:2021年10月23日(土)15:00
会場:滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 中ホール