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ワールド・バレエ・スクール・デー2020/世界バレエ学校デー:コロナ禍の若いダンサーたちが発信するオンラインイベント

2020年7月7日(火)、日本時間で20時から約2時間40分、「World Ballet School Day」のイベントがライブ配信(ストリーミング)された。配信後、1カ月間、アーカイブ映像で視聴できる。

発案者は、イングリッシュ・ナショナル・バレエ・スクールのダンスのディレクターを務めるヴィヴィアナ・デュランテ(Viviana Durante)。

12の学校・団体が参加した。

The Australian Ballet School
Boston Ballet School
Dutch National Ballet Academy
English National Ballet School
Canada’s National Ballet School
Palucca University of Dance Dresden
Paris Opera Ballet School
Prix de Lausanne
Royal Ballet School
Royal Danish Ballet School
San Francisco Ballet School
New Zealand School of Dance

世界各地のバレエ学校に所属する6人の生徒がウェブ会議システムでつながり、用意した動画を見せながら、新型コロナウイルス感染症対策のためのロックダウン中のオンラインレッスンや生活について語った。

また、ダンサーとしての訓練やコンクール、プロを目指すための選考・オーディションなどについても話し合った。

言語は英語で字幕はないようだが、日本で普通に生活していては見聞きする機会のない海外のバレエ学校の様子やその生徒たちの生の声を知ることができて、とても面白かった。

プロのダンサーを目指す生徒たちが世界に伝えたいこと

・バレエとバレエダンサーへの3つの誤解:ストイックにバレエばかりしている、非人間的で無機質な感じ、簡単そうにやっている。しかし本当は、豊かな表現のためには人格的に成長することが大切だし、高い身体能力が必要。

・社会のジェンダー意識の変化に伴い、バレエでもコンテンポラリーの作品では男性同士のデュオなど多様な表現がなされている。

・卒業制作では自分たちで振り付けた作品を踊る。

・ローザンヌ国際バレエコンクールの舞台裏。コンクールが開催される10日間、現地でのレッスンはずっと世界に生中継され、常に審査員たちに見られている環境はプレッシャーになるが、その分、いつでも見る人の目を引くよう踊ることなどを意識できるようになる。コンクールは、公演機会の少ない生徒にとって舞台で踊る体験ができる点でも重要。

バレエ学校で行われているレッスンや公演の映像、ロックダウン中のオンラインレッスンの映像なども流れた。生徒が自宅に帰るなどして世界中に散らばっているので、異なるタイムゾーンに対応するために1日2回、同じレッスンを行う学校もあるという。

振付の授業や課題もあるのはよい。それらを通して、振付家としての才能を見いだす、見いだされる人がいるかもしれないから。

カナダ国立バレエ学校の生徒による舞台『Arise』Jera Wolfe振付

コンクールの映像もほかのクラシックなバレエの映像もどれも素晴らしかったが、最も気になったのが、Canada’s National Ballet School(カナダ国立バレエ学校)の舞台映像の抜粋だ。Jera Wolfe振付の『Arise』という作品。このバレエ学校の生徒たちのために制作されたそうだ。

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▼Canada’s National Ballet SchoolによるJera Wolfe振付『Arise』のダンスのフルバージョン動画がオンラインで公開されている(約30分)。

https://www.nbs-enb.ca/en/sharing-dance/bring-dance-into-your-home/fall-in-love-with-ballet

『Arise』は2019年初演で、子どもから大人まで誰もが踊れる「Sharing Dance」の振付としてアダプテーションもあるようだ。このバレエ学校ではコミュニティーダンスの取り組みもしているそうだから、その一環か。視聴して、練習して、踊れるようになってみたい。

▼「Sharing Dance」の『Arise』

https://www.nbs-enb.ca/en/sharing-dance/bring-dance-into-your-home/all-ages

上記の「Sharing Dance」のページで、振付家のJera Wolfeがこの作品について語っている。「Arise」は「立ち上がる」という意味だが、困難なときにも周りの人たちに支えられて立ち上がれる、という経験を基に創作したそうだ。100人以上の生徒たちが参加した作品。

大人数で踊るダンスというとマスゲームのようなイメージになるかもしれないが、まったく違う。抒情的で感傷的だが、優しいヒューマニズムに包まれているような作品で、思わず泣いてしまった。照明も見事だ。

暗闇の中から人々がそっと現れ、孤独な人を包み込む。人々に支えられながら空中を歩む。人々の中に身を投げ出す。信頼関係がなければできない行為だ。音楽に乗って柔らかく動く身体は、水族館のクラゲを眺めているようでもあり、癒やされる。心が浄化されていくよう。

コンテンポラリーダンスのワークショップで、みんなの中に身を投げ出すというワークをしたことがあるが、身を任せきる方も、その体をがっちりとつないだ腕で受け止める方も、緊張する人が多いだろう。私の場合、これは10代のときにはできなかったかもしれない。しかし、このバレエ学校の生徒たちは互いへの信頼性を構築している。

デジャヴ感があると思ったら、ジブリのアニメ映画『風の谷のナウシカ』(原作・監督:宮崎駿)の最後の方のシーン、ナウシカが大勢の王蟲の触手に包まれるところだった。どことなく雰囲気が似ている・・・。

心身ともに強くしなやかでいることがプロへのカギ

・バレエを続けるには、身体的にタフなだけでなく、マインドも強くしていなければならない。学校を卒業するときにはカンパニーのオーディション(入団試験)を受けるが、履歴書の写真だけ見て落とされることだってある。心を強く持っていないと、持たない。でも中には、20のカンパニーを受けて1つしか受からなかったけれど、その後、移籍して、最終的にプリンシパル(・ダンサー)になった人もいる。

・カンパニーごとに求めるダンサーのタイプは違うし、同じカンパニーでも年ごと、シーズンごとに変わってくる。拒絶されても落ち込んではいけない。つらくても仲間もいる。resilience(回復力、立ち直る力)が大切だ。

・プロのダンサーとしてやっていくには、self motivation(自らの動機付け)やadaptability(順応性)も大切だ。

・ニュージーランドのNew Zealand School of Danceでは5月末から学校を再開している。ロックダウンと、海外出身の生徒はニュージーランド入国後ホテルなどで2週間の自己隔離を経て、広いスタジオで仲間のダンサーたちとまた一緒に練習できるようになったのは格別の気分。体が動きや踊りを覚えていて、最初はスタジオが広く思えるけど、すぐに感覚が戻るから安心して。

6校の生徒たちがZoomで踊ったソーシャル・ディスタンス・ダンス『A Screen Apart』

英国ロイヤル・バレエ学校の協力の下、Didy Veldmanが振り付け、同校とほかの5校の生徒たちが自宅などで撮影した動画を、the BalletBoyzも参加して組み合わせ編集した作品『A Screen Apart』(「1枚の画面を隔てて」「画面の向こうに」の意)が、最後に「世界初演」として上映された。

自宅の寝室や居間や階段や庭、屋外の草原や路上などで同じ振り付けを踊る生徒たち。テーブルに座った状態から、狭い場所でもできる上半身をメインに使った動きや、手のダンス、足のダンスなど。

複数の録画された画面を並べたり、顔と手と足のそれぞれの動画を縦に配置したり、ダンサーたちの映像を重ねて一緒に踊っているように見せたり(2人のうち1人は、ここにいるかいないかわからない感じで薄く浮かび上がったりする)、飼い犬をフィーチャーしてみたり。

動画ならではの演出を控えめに施している。プロジェクトの主眼は、自宅でロックダウン中の生徒たちに元気を出してもらおうとすることなのだろうが、いずれ、こうした形でも、もっと作品として見られるものが作られていくことになるのか。

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