56.ぞうとこ

 日々のエセー『まいにちとことこ』
第56回は、「ぞうとこ」について。

 象を初めて見たのは、たぶん初めて動物園に行ったときだったんだろう。最後に見たのは、5年も前。

 「象」と言えば、ぼくの好きな劇作家、別役実の戯曲にもある。その戯曲には、動物の象は出てこない。原爆被害に合った「病人」の男の背中にあるケロイドのメタファーだ。

 代表作「象」の男の独白モノローグには、のちの別役のモチーフが多く現れる。お月様、淋しいおさかな、黒いコーモリ傘、乾いた風……。
 しかし、それらを含む詩的な冒頭と結末は、1965年に改作を上演した際に付け加えられたもので、1962年の初演[『劇場評論』第2号]にはみられないことは、ほとんど知られていない。

 1962年の「象」は、1969年のそれより、もっと哀しい。


[2024.10.6~2024.10.7]