インドの半グレに麻薬を勧められた話
20代後半、旅に出た私は雨季の
バラナシにいた。
牛の糞とハエと客引き、
ガンジス川にはパンパンにお腹が膨らんだ
犬の亡骸が浮き輪のように流れていた。
日本とは違う死生観に戸惑いながらも
インド人の聖地である川を数時間眺めていた。
川の向こう側は「不浄の地」とされており、
栄えているこちら側とは違い何もなく
砂浜が広がっている。
そこには迫害を受けている人や、
カースト外の人々が住むと言われており、
治安も悪いらしい。
現地に到着する前に色々調べて
知ってはいたものの、いざ目の前にすると
なんとも言えない感情に苛まれた。
カオスで溢れるこの国は
広く、浅く、深く感じた。
ただそこに強くあるのは生と死であった。
川の付近を散歩していると
明らかに怪しい若者に声を掛けられた。
「チャイナ?コリア?ジャパニーズ?」
インドでは客引きが多いので無視をする。
(ちなみにインドの客引きは他の国と比較するとかなり強引、私も無視した結果どなりながら腕を掴まれて喧嘩になったこともある。)
しかもこいつは明らかに反社的な何かだ。。
「宮迫です!」
どこでこんなことを学ぶのか、
私の反応があったのが分かったのか日本語で話続ける。
このインド人、
日本語ができるというレベルではなかった。
かなり上手い。
「なに?」と私が聞くと
「夕日が綺麗なとこ案内するよ、無料で」
そこから何か請求されることは十分にあったが、暇を持て余していたこともあり数回本当に無料かどうかを確認した上で彼についていくことにした。
路地を歩き商店の隙間を抜け階段を上がると見晴らしの良い所に辿り着いた。
確かに景色が一望でき、涼しかった。
タバコ燻らせながら少し話を聞いた。
・生きる為にいろんな国の言語を覚えたこと
・この生活が気に入ってること
・悪いことも、まぁやっている。
・自身が満たされていること
靴を履いていない彼は確かに幸せそうであった。
「君は素晴らしいよ。どうすればそうなれるんだい?」と聞くと。
「これがあるからさ」
と、彼はタバコのようなものを取り出した。
「お前もやるか?ハシシ」
(ハシシとは麻薬である。)
やはりどの国に行っても貧困層は麻薬に溢れていることに悲しみを感じた。
「今日はやめとくよ。」角を立てないよう断るとそれ以上誘っては来なかった。
それから10分ほど2人で真っ赤な夕日を眺めていた。
「そろそろ行こうかな色々ありがとう。」
振り向いたとき彼はいなかった。
その代わりに猿が座っていた。
愛すべき国だインドは、と笑いながら
私は夕日の写真を一枚撮った。