
妻と歩んだ日26〜絶望から始まる東京旅行〜
2022年6月
ついに東京旅行の日。
朝、車椅子のまま乗れるタクシーで空港まで。
空港に着いたら、持ち込み品が色々あるため別カウンターへ。
嵐が好きな妻は、いつもJAL一択。
解散したけど、それは譲れないらしい…
グランドスタッフやCAの人達にも色々気を遣ってもらって、順調に座席へ。
離陸…
妻も怖がる事なく落ち着いてる…
東京まで1時間…
機体も安定して、30分位たった頃…
トイレに行きたい。と。
もう一人では出来ないから、いつもの様に一緒にトイレへ…
トイレが終わってパンツをはかせてる途中、妻がパニックに…
異常に怖がる…
CAさんも心配になってトイレの外で声を掛ける…
何とかズボンを履かせて席へ…
怖がる妻の手を握り声を掛ける…
怖く無いよ。飛行機は安全だよ。
もう少しで着くよ。と。
でも、ずっと怖がったまま…
何が1番怖いの?
そう聞いた瞬間…
あなたが怖い。
あなたは誰?
知らない人が隣にいるのは怖い。
と。手を振り払われた…
はっきりとした拒絶。
一瞬頭が真っ白になる…
急に動悸がして、息が苦しい…
自分の中で何かが崩れていく気持ち悪い感じ…
考える事を放棄したみたいな感覚が終わり、やっと頭がその事実を理解してきた…
妻が自分の事を忘れた…
もう、自分の名前を呼んでもらえない…
自分の事を好きだと言ってくれない…
1番最初の子どもが死産だった時、これ以上辛い事は起きないと思ってた…
それを軽く超えてくる絶望感…
体の血が一気に引く気持ち悪い感覚…
口も急に乾いて、気持ち悪い…
体から何かが抜けていく…
息が苦しい…
呼吸の仕方も忘れたみたいな…
忘れられたことに怒りすら出てこない…
ただただ虚無感が身体の中に広がっていく…
…ダメ。ここで折れたら絶対ダメだ。
無理矢理自分に言い聞かす。
舌を強めに噛んで、痛みで気持ちを持ち直す…
一度深呼吸…
時間にしたら数秒程度…
体感はすごく長い時間を過ごし…
前の座席に座っているお義母さんに声を掛ける。
妻が自分を忘れてしまったから、席を替わって欲しい。と。
あぁ、自分の声が震えてるな…
覚悟はしていた…
いつかそうなると。
覚悟はしていたはずなのに、なんでこんなに辛いのか…
隣には楽しそうに座っている上の子。膝の上には3歳になったばかりの下の子が、急に起こされて眠そうにしている。
後ろをそっと振り返る…
良かった、落ち着いたみたい…
CAさんも気に掛けてくれている…
…辛いな。
それでも落ち着いて良かったと思ってしまうあたり、惚れた弱みなんだろうな…
どんなに辛くてもら途中で降りられない。
だから、新幹線を勧めていたのかな…
子ども達に気取られないように、平然を保ちながら飛行機は羽田に。
空港を出るまで全然記憶がない…