物〜純粋に抽象的な存在
物が存在する場合、それは私達にとって純粋に抽象的なもののはずである。知覚は実在を何らかの形で反映しているはずだが(例えば光学や生理学等によって説明されるであろうような形で)、しかしそれでもそれらの像は、やはり一種の印象、仮像に過ぎない。だから、実在を具体的なイメージ・感覚(視覚像、触覚、嗅覚、…)として映すのは人間の知覚能力なのであり、実在自身は、私達にとって本来的に抽象的な存在と考えるべきだろう。
次の、私達のここでの議論に直接関係するケースにおいて、このことは極めて現実的な問題になる。
電子顕微鏡で写した原子の映像を見た時に、原子は決してあのような色をしているわけではないし、また当然、形態ですら、あのような丸い粒子として存在しているわけではない。それはただ、試料による電子の撹乱の結果を示した或る表現、として読み取られるべきものである。