バカの北陸観光
バカと松尾芭蕉
6月某日の北陸に行く数日前のことである.私は実家に帰省し,月曜を迎え,学校に行き,火曜から出発という日程であった,しかし,月曜の私は学校に行かなかった.なぜなのか.
いや,逆に考えようと思う.私は旅行寸前だからこそ,学校を休んだのだ.旅行直前というのはそういうものなのだ.
俳人としても旅人としても知られている松尾芭蕉でさえ,旅に出る前は取るもの手につかないのだ.どこにでもいる普通の学生である私がこの不可思議な欲求に立ち向かえるわけがないのだ.
バカと長距離移動
体は資本と言う.そのため,僕は徒歩で通学することで健康を時間で買っているのだが,僕の実家の帰省は長距離バスで片道3時間半だ.これを一泊二日で行う.このあと,中1日で飛行機乗り継ぎ北陸観光である.これが二泊三日.さらに極めつけはそこから中1日で片道2時間半を一泊二日で俺の腰痛コンボは完成する.しまった腰痛コンボか!!!!
バカと小さいサイズのペットボトル
小さいサイズのペットボトル,一合くらいのやつ.まごうこと無き悪じゃない?小さい癖に値段はしっかり取るし,今時石油由来のプラスチックの無駄遣いじゃないですか?どうせ,旅人にポイ捨てされる行方しかないですよ!
と思っていましたよ.皆さん,これ知ってました!?飲み切りサイズなんですよ!空港とかで開栓済みの飲み物って鞄から出して検査受けないといけないじゃないですか!これを!避けれる!
いや別に鞄から出すだけなんですよね.
バカとムカムカ
前述の通り,私は北陸に向かう時点で疲れが溜まっていた.疲れが溜まっている状態は少し気が立っている.些細なことに腹が立つ.正直駅の中の人間の流れ一つとってもイライラする.〇すぞ馬鹿ども 半分冗談である.普段は少ししか思わない.
しかし,そんなことも気になるくらい,今回の旅行中は気が立っていた.この情報がこの記事では重要となる.
バカと存在しないもの
旅に出ると,独りの時間が増える.独りの時間が増えると,自分を見つめる時間が増える.ただ,駅の椅子にぼうっと座り,通りかかる人の流れを見ながら,私は何かを考える.自分探しの旅,なんて表現もある.
嘘である.
人間が正しく自分を客観できることは無い.自らの意識の中で試行(思考)する時点でそれは主観である.自分自身の経験や感情が混じってしまい,客観とは言えない.
できるのは俯瞰である.できる限り我を廃し.利益などの別の観点のみで物事を見据えることはできる.ただ,俯瞰した後は墜落する他無い.
どうあれ,我々の中に鏡は無い.
バカと知多 feat.ポケカお兄さんたち
人間の科学とはすばらしいもので,私の住居から東京は羽田空港まで3時間かからずに到着することができた(空港で食べたラーメンはハーフサイズにしたことを後悔している).しかし,イライラしている(既出).このやるせない気持ちに決着をつけるべく,私は羽田空港内で飲酒した.
何やらおしゃれなカフェに入った.私はチーズホットドッグと知多を注文し.料理の完成を待った.その後,料理が届くころに,隣の席に2人の男が座る.このようなとき,私は一見何も意に介していない様子をしているが,隣の会話に聞き耳を立てる.
これは家族ぐるみの悪癖である.というのも,彼らは4人が4人とも自分の感性を第一に考えて生きているせいで,共通の話題というのが存在しない.そのため,飲食店での話題は近隣の席の客の素性を会話内容から予想することである.ちなみにこれをした結果,小学校時代の担任を発見したことがある.
さて隣の客,はじめは仕事の話をしていたが,突然ポケカの話が始まった.ポケカの客層ってこんな広いんだ.私より年上っぽいし仕事盛りくらいの年齢に見えるけど.変なの.
変なのレベルで言うと私も負けてない.平日の昼間に空港内のカフェで知多飲んでる奴,なんだ?しかもガキ.
ガキが飲んでもうまいのが知多.飲みやすいことこの上ない.薄いわけではないのにスルスルと体内に流れ込んでくる.水よりも人の体に近い酒.知多.
バカとぶり大根
私は夕食をとるべく,小松の町をさまよっていた.
「あ!めずらしい自販機!ジャムが売ってる!」
旅先は自販機一つでも盛り上がるものである.この気持ちを帰ってからも持ち続けられたら,今よりももっと楽しい生き方ができるだろうか.
「あ!アーチ橋!小さめでかわいい~~~!実家の近くにはでかいアーチ橋かでかい斜張橋しかないから新鮮だな!」
駅の周りをちょうど一周するころ,一軒の居酒屋が目に入った.特に夕食の場所を決めてもいなかった私は,吸い込まれるように足を踏み入れた.
店内がどれほど奥に広いかはわからなかった.というのも,私は入口すぐのカウンター席に通された.カウンターのちょうど反対側にスーツ姿の男性がひとり,晩酌をしている.通りかかった店員に,貝刺し,寿司,それから日本酒を注文し,料理が来るのを待つ.待っている間に店内を見回してみた.入口すぐ,私が座っているカウンターの背中側には障子で仕切られたお座敷がある.廊下の向こうにも同様のお座敷席があるようで,楽し気な声が聞こえる.机や椅子はすべて木製で建物も木造でしかも,木の柱が見えるデザインになっている.かなり雰囲気の良い店だった.
お通しのもずく酢で日本酒を飲んでいると,貝刺しと寿司が運ばれてきた.漁師町の生まれの私も納得するような味だった.貝刺しは特に絶品だった.もう一度頼もうかと考えた程だ.辛口でキレのある日本酒とも良くあった.日本酒のおかげで寿司がいっそう甘く感じた.
さて,と私は今一度,品書きを開く.実は目を付けていた料理があるのだ.ただ,1200円という値段から,注文するかは一考していたのだが,ちょうど締めの一品なんて書かれている.今の私にはぴったりなわけだ.私は1200円の高級料理を注文し,ただひたすらに待つことにした.正直,期待なんてしていなかった.1200円と言いつつも一見どこにでもある普通の”それ”を渡されて,「まあ,家で作るよりは美味いかな」なんて,その程度.「これで1200円か.貝刺しをもう一つ頼めば良かったな」なんて.肩を落として帰るんだなと思うと,貝刺しと日本酒が終わりに近づくにつれて食べるペースは落ちていき,旅先だとは思えない気の落ちようの中,”それ”は来た.
「おい,おいおいおいおいおいおいおいおいおい.だから,おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい.その面はなんだ.どうしてそんな目で僕を見ているんだ.君ィ,正気か?」
ああ,そういうことか.私は合点がいった.納得した.理解した.カウンターにはもともと私とスーツの男が一人,他の客はお座敷.つまり一人で来ている客は私とスーツの男のみ,スーツの男はもう退店したが,ぶり大根なんて頼んでいない.ぶり大根は石川の名物でもあり,この店では特に看板料理として売り出されていて,かつ,1200円という強気の価格設定で締めにおすすめとまで,銘打っている.この店を選ぶ理由がぶり大根でもおかしくないが,しかし,あのスーツの男は注文しなかった.何故か.
「でかいんだ」
とんでもなく.
店員からは,どう見えているのだろう.寿司と貝刺しを平らげた細身の私が.ぶり大根を注文するのを,骨と身を丁寧に分け,お頭の目玉近くまで食べつくし,つゆまで飲み干していくっていうのは,一体どのように映っているのだろう.
その日は,ホテルまで歩いて帰って,シャワーを浴びて,それから,
気絶した.
バカと金沢おでん
予定していた用事が終わった.時刻はまだ午前.昼前だ.前日に小松の駅前は一通り見て回った.
そうだ.金沢,行こう.
金沢駅,到着.特に問題は無く,帰りの最終便が午後10時頃ということだけ確認し,私は散策を始めた.金沢駅の中にカウンター席を発見.ほうほうおでん屋ね.金沢おでんが名物っていうは知ってたけど,本当に夏でもやってるんだな.これなら,酒を飲んだ帰りに時間があったら寄っていこうかな.
「昼飲みセット,梅酒で」
というのは私の声である.カウンター席しか無いため,私はどんな店なのかを確認した時点で,すでに入店していた.そして先程のお気持ち表明の時点で着席し,メニュー表を眺めていたのだ.帰りに寄っていくつもりが,行きに酔っていくことになるとは,カウンター席,恐るべし.
そもそも私,夏に鍋やってるどころか毎食水炊きしているような狂人なので,夏におでんでも一向にかまわん.寧ろ今までやっていなかった自分を恥じた.おでん,うめぇ~~.
てか梅酒もおいしい.なんでこんなに飲みやすいんだ?いつも飲んでる梅酒よりも飲みやすい.グビグビいける.調べると日本酒で作っているそうな.普段はブランデーベースだから全然違う.朝起きて最初にこの梅酒飲みたい.
聡明な読者諸君はお気づきかと思うが,筆者は2日連続昼から飲酒をしている.また,後述する三日目でも昼から飲酒する.これはイライラしていたからである.イライラしていないのに毎日昼から飲酒するはずがない.これは断言する.この記事の執筆が遅れたのは,夏休みになって,常時酒を服用していたとか,そんなことではないのである.そんなことになっているとしたら,それはイライラしていたからであろう.
バカと金沢散策
ほろ酔いの私はいよいよ金沢の街に繰り出した.駅からまっすぐ出て,あらオシャレな屋根,こっちにもオシャレな屋根,こっちにはオシャレな柱,雰囲気のある路地,歴史ありそうな民家,気づけば私は,観光客なんて一人もいない細い路地にいた.同行人がいたら迷子である.しかし,ここには同行人はいない.いるのはバカ一人である.バカはこんなときに何を思うか.おそらく一択である.
「地図見ずに金沢城まで行けたら面白いな」
勝ち目はある.負けたら携帯で調べればいい.携帯の充電を確認し,バカは歩き出す.目的地は金沢城であり,金沢は城下町である.つまり,標高が高い方が目的地である.私は視界にあった上り坂を進み始めた.分かれ道に差し掛かると,標高が高くなる方を選んだ.そうして進んだ結果.
石垣らしきものを見つけた.確実に私は目的地に近づいている.仮説は今確信に変わった.そして,事実として私の視界に映る.
櫓である.
おわび
前後編にするわ.
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