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孤独と孤独独立独学会と孤独主義|短編小説
「諸君は支配をどう思っている?」
視界の外から声が聞こえた。それは認知の中で発話された声だった。
「私はあいつが生得的に嫌いなのだ。天敵と言ってもいい。とにかくあいつとは全くウマが合わなくてね」
”孤独”が僕に愚痴を言い始めた。
いつから僕たちはそんな仲になったのだろう?
「私と諸君は共存関係なのだよ」
と僕の心を読んで”孤独”は言った。
「支配ですか。僕もあまりその響きが好きではないと思います」
「そうだろう!そうだろう!諸君はこちら側であるからな。やはりあいつが嫌いだろう。やはり諸君は同志であるな」
僕は嫌いとまでは言っていないが、”孤独”の中で僕の言葉は拡大解釈されているようだった。おそらくそれほどまでに支配とやらが嫌いに違いない。
「一つ私にあいつを懲らしめる提案があるのだが、意見を聞かせてくれないか?」
僕は首を横に振ったが、構う様子もなく孤独は話を続けた。
「私は若者の間である運動を広めよう思っているのだ。それを”孤独独立運動”と名付けている。まだ検討段階なので仮称ではあるが、これ以上の名誉的呼称は浮かばないと思っている」
”孤独独立運動”? なんてヘンテコな名前なんだ。
「失敬な!諸君の思考は筒抜けであることを努々忘れるではないぞ。親しき中にも礼儀はあるのだ。まあひとまず聞き給え。この運動の下、まずは孤独独立独学会を結成する。そこで人間から支配思想を撤廃させていき、新たに”孤独主義”を宣言させる。そこでは個人の自由こそが正義となる」
「孤独独立独学会? 独という言葉が多すぎないでしょうか?」
「貴重な意見だ。だが安心し給え。孤独主義では【独】という文字が神の啓示的絶対的な信仰を持つ言葉として認識させるつもりだ。人は【独】という文字を崇めるだろう。故に孤独独立独学会は教会としての神聖さを確立するだろう」
「それは、洗脳に聞こえますね。まるであくどい商法みたいだ」
「それも貴重な意見として捉えておこう。だが諸君覚えておき給え。この世界では全てがビジネスなのだよ」
それに対して僕は何も言わなかった。
「それで支配を追い出した後はどうなるのでしょうか?」
「その後、孤独主義はある種の人間の哲学的支柱となるだろう。そしてその神聖さが集合的認知の下で不偏となったとき、孤独独立独学会は国教となり孤独人民共和国が設立される」
「それは支配と何が違うのでしょうか?」
「根本が違うのだよ。支配には束縛を伴うが、孤独は自由そのものだ。個人の意思こそが最も尊重される関係で民は共和していく」
「そこであなたは神となる」
「神ではない。信仰されるというのが適切な表現である」
僕にはその違いがよく分からなかった。
結局それは支配へと立ち戻ってしまうのではないか?
どのみち、始まり方と終わり方は全て同じだと思った。
Mr.羊