フランスの美術館で出会った、3人のミューズたち
アートを通じて、人生の師に出会ったことはありますか?
私はあります。この世にもう存在しないことが惜しいくらいの、カッコ良すぎる女性たち。このnoteでは、私がフランスの美術館で出会った、大切な3人のミューズたちについて紹介します。
1. Niki de Saint Phalle(ニキ・ド・サンファル)
永遠のミューズ・ニキとの出会いは2015年夏、南仏ニースの近代美術館(MAMAC)でした。
カラフルな色合い、大胆な彫刻、自由な表現の裏にどことなく愛の渇望が垣間見える作品。私はすぐにニキの虜になりました。
ニキはフランス出身のアーティスト。学校でアートを習ったのではなく、精神病棟にいた時にセラピーとして書き始めたのがアートの世界に足を踏み入れたきっかけでした。
射撃絵画のほか、将来のパートナーとなるスイス出身の彫刻家・ジャンティンゲリーとの出会いから彫刻作品も手がけるようになります。カラフルな女性像「ナナ」のほか、彫刻庭園のタロットガーデンなどが代表作品です。
ニースでの出会いからすぐの2015年9月、東京の国立新美術館で「ニキ・ド・サンファル展」が開催されており、私はニキとの再会を果たしました。翌年夏、ニキのタロットガーデンを目掛けてイタリア・トスカーナにも行きました。
フランスに移住した後も、ニキの作品に会いにスイス・バーゼルやチューリッヒに行っています。
ニキは私に現代アートの世界を教えてくれた人であり、アートへの愛、自由さを教えてくれた人。ニキに出会ったから、私は今ここにいるんだと心から思えるくらい、大切な存在です。
2. Helena Rubinstein(ヘレナ・ルビンスタイン)
2人目のミューズは、ヘレナ・ルビンスタイン。ヘレナとは2019年夏、ユダヤ芸術歴史博物館(Musée d'art et d'histoire du judaïsme)で出会いました。
ヘレナは彼女の名の通り、世界的な美容ブランドをつくりあげた方です。マスカラが有名ですよね。
ポーランドの裕福でない家庭出身、8人娘の長女であるヘレナ。女手一つで当時市場のなかった化粧品エステ市場をつくりあげ、ビジネスウーマン・投資家としても才覚がありました。
自身もアートコレクター、パトロンであり、数多くの作品を所有していました。ピカソ、ダリ、フリーダ・カーロなどと交流し、新人だったクリスチャン・ディオールやイヴ・サン=ローランなどファッション業界の異能たちのパトロンとして、アーティストを支援していました。(下記の写真は、イヴ・サン=ローランがヘレナのためにつくった特注のスーツ)
約100年前に自ら市場を切り拓き、女性たちに「化粧の楽しみと美しくなることへの自信」という価値を提供したヘレナ。
髪を後ろに束ねるスタイルで、何歳になっても美しく凛とした姿と佇まい。事業も成功したヘレナの姿を見て、「こんなカッコイイ女性になりたい」と強く思いました。
3. Charlotte Perriand(シャルロット・ペリアン)
3人目のミューズは、フランス人建築家・デザイナーのシャルロット・ペリアン。彼女とは2020年冬、Fondation Louis Vuitton(ルイヴィトン財団美術館)で出会いました。
世界的建築家・コルビジェのもとで弟子として学び、日本にも政府に招聘されて一時期住んでいました。日本のインダストリアルデザイナー、柳宗理氏などと親しい関係にありました。
日本で学んだ畳や木製を組み合わせて、椅子やテーブルなど当時斬新なインテリアデザインをつくりあげた方です。80〜90年経っても色褪せない彼女のインテリアデザインの魅力は、人間に対する深い洞察から生まれてきたのでしょう。
日本のほかにブラジルなどにも滞在し、独自の感性で素材を組み合わせ斬新なデザインを生み出していきます。フェルナン・レジェ(Fernand Léger)などのアーティストとも親交が深かった方です。
晩年はユネスコの茶の間をつくる(完成時はシャルロット90歳!)など、日本の経験にインスピレーションされた作品が特徴的です。
当時男性中心だった建築業界の中で頭角を示しただけでなく、異なる文化を取り入れて自分のスタイルを築き、亡くなる直前まで情熱的に創造し続けたシャルロット。なんてカッコイイ女性なんだろう、と彼女の作品から感銘を受けました。
3人のミューズから学んだこと
3人の共通点は、自由でありながら仕事熱心で、アートを愛し、新しい道を切り開いた開拓者な点です。
ニキやシャルロットは約20年前、ヘレナに至っては約60年前にこの世を去っています。現世にいなくても、展示会のおかげで私は彼女たちと出会うことができました。彼女たちがこの世に残した作品を通じて、時空を越えて彼女たちとつながれた気がしました。
当時、女性が結果を残すのはどれだけ珍しく大変だったことでしょう。彼女たちは、名誉欲のためでなく、ひたすら好きなことに情熱を持って邁進した結果、多くの人たちの支持を得ました。そんな姿に感動し、私も少しでも彼女たちみたいに生きたいな、と思うのです。
彼女たちから学んだことはたくさんあります。
ニキからはアートを愛することと自由に生きることの大切さ、パートナーとともに作品をつくりあげていく美しさ。
ヘレナからは新たな市場をかぎ分ける嗅覚やパトロンとしての姿勢、歳を重ねても女性であることを楽しみ常に美しくあることの大切さ。
シャルロットからは日本とフランス両方の文化をミックスさせて作品に活かすこと、橋渡しの大切さ。
ニキ、ヘレナ、シャルロット—3人は、永遠にミューズとして私の心に生き続けるでしょう。
美術館やギャラリーは、ミューズに出会える場所でもあるのです。ぜひ、あなたも人生の師を見つける気持ちで、気軽に足を運んでほしいです。
(Photo: Lisa Fujino)