誰しも、生きる力を持っている
「くるしい、くるしい、こんなんは、生まれてこなんだら、よかったんとちがうか、みんながみんな生まれてこなんだら、何もないねんから、何もないねんから——」
川上未映子の『夏物語』第1部、母とふたりで大阪に暮らし、母への葛藤で長らく声を発しなかった12歳の緑子が、最後、母に向かって絞り出すように言った言葉です。物語の第2部では、違う人物から、たとえわずかでも、ほかの人々の幸せをよそにひどい苦しみを生きざるをえない可能性があると分かっていて、なお人を生むのかという問いも発せられます