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主役になりたかった金薔薇の話/箕浦康太について

⭕〈王者〉菊田円🆚箕浦康太〈挑戦者〉❌

2023年8月20日大田区総合体育館で行われたドリームゲート戦は、4月の後楽園以来2度目となる菊田VS箕浦の対決となった。
2人は前回から半年足らずの時間で更に進化した試合内容を見せ、最終的には菊田が2度目の防衛に成功した。

箕浦のドリームゲート挑戦はこれで3度目だ。
デビューしてから暫くの間控え目で地味だった箕浦はコロナ禍での増量とスキルアップが功を奏し、団体からの信頼を勝ち得る。
21年に初出場したKOGでは準優勝という結果を残し、同年に引退した吉野正人からは彼の代名詞的フィニッシャーであるソル・ナシエンテの継承者に選ばれ、一気に団体内での存在感を増していった。
そして21年の9月8日の後楽園、当時ドリーム王者だったYAMATOから勝利した箕浦は、既にドリーム挑戦者として名乗りを上げていたBen-K望月成晃(現マサアキ)KAIの挑戦者決定3Wayに横入りする形で参戦。勝利を収め挑戦権を勝ち取った。
そして同月20日、今回と同じ大田区総合体育館で箕浦はYAMATOを相手にドリームゲートに初挑戦。
団体は、おとなしかった彼が一皮剥けて成長した事を煽りVで大いに客席に印象付けた。
結果、箕浦は吉野から授かったソル・ナシエンテを駆使し善戦したが、王座には手が届かなかった。

その翌年22年7月7日後楽園での箕浦の挑戦表明は団体のプロモーションの割を食わされた感があった。
というのも、土井成樹の呼びかけにより結成されたユニットGOLD CLASSのリーダーとして、当時所属していたユニットMASQUERADEから引き抜かれた箕浦は、恐らくヒールのような振る舞いを期待されていたからだ。
DRAGONGATE(以下ドラゲー)においてヒールターンは出世コースであり、自己解放が苦手な箕浦がもう一皮剥けるのに有効な手段と言える。

そしてこの日、当時ドリーム王者だったKAIと近藤修司のドリーム戦の最中、箕浦は自分の分身であるミノリータに会場の電気を消させて試合に乱入しノーコンテストにするという暴挙に打って出て、客席を混乱と怒りの渦に陥れた。
当然のように箕浦は客のヒートを買い、SNSで責められる事態となった。
このプロモーションに関しては、GOLD CLASSが当初の箕浦、土井成樹、石田凱士、ミノリータの体制だったならばZ-Bratsとは別のヒール寄りのユニットとしての展開もあったとは思うが、石田と土井の離脱でユニットの色が変わった為に箕浦はヒール寄りのキャラを諦めざるをえず、彼の覚悟を持った大立ち回りが結果的に宙に浮いた状態になってしまったのは少々気の毒だった。
それはさておき、試合をぶち壊してまで強引に横入りをした箕浦は同月の神戸大会で、近藤、吉岡勇紀と共に神戸ワールド2日間のドリーム挑戦権を賭けた3wayマッチに挑んだ。
近藤が脱落し、吉野から授かったソル・ナシエンテをも駆使して勝ち残った箕浦は、ワールドの2日目での挑戦を希望。吉岡は1日目となった。

7月30日、吉岡がKAIからドリームを奪取。31日、満を持しての箕浦の挑戦だったが最後にリングに立っていたのは彼のライバルの吉岡だった。
スポットライトの中、共に戦ってきたセコンドのドラゴン・ダイヤに語りかけながらマイクをする吉岡は紛れもないその日の主役だった。
一方、手段を選ばずにここまで来たにも関わらずまたもドリームを逃した箕浦は眩いライトの横の薄暗い帰り道で膝から崩れ落ちていた。
箕浦にとってこの1年間は自分に何が足りないかを自問する1年だったのかもしれない。

翌年23年の4月5日の後楽園。
愛知県ビッグマッチでのシュン・スカイウォーカーが持つドリームのベルトの挑戦権を賭けて箕浦と菊田が挑戦者決定戦を行う事になった。
Ben-KB✕Bハルクという新しいメンバーを迎えたGOLD CLASSで“金薔薇の貴公子”という二つ名で新たな地位を手に入れていた箕浦は「この形式(横入り)での俺の勝率は100%」と、己の過去をネタにしながら、またも横入りで挑戦者として名乗りを上げていた。
シングルでは初対決となる2人の挑戦者決定戦は若い選手同士ならではの勢いに溢れ、白熱した攻防で客席を大いに沸かせたが、最後はローリングラリアットで菊田が勝利した。
その後シュンが“SSWクエスト”なる無理難題でタイトルマッチの日まで菊田をいじめ抜いたが、5月5日愛知県体育館で菊田はシュンを破り最年少王者に輝いた。
この愛知県体育館のドリーム戦は、21年にシュンとドリーム戦を行うも肩の負傷によりたった4分で退場し、更に怪我による長期欠場でどん底まで落ちた菊田が己の呪いを払拭する為の物語だった。
箕浦の方もトライアングルゲート戦で勝利を収めて戴冠していたが、結果的には菊田が主役の物語の山場の登場人物の1人となってしまった。

そして今年の7月、箕浦はドラゲーのシングル最強を決めるトーナメント戦であるKOGに出場。
8月3日の後楽園で行われた決勝戦でBIGBOSS清水を破り優勝を果たした。
2年連続準優勝だった彼の3度目の正直での初優勝だった。
箕浦は当然、菊田の持つドリームゲートへの挑戦を表明。対決は8月20日の大田区総合体育館で行われる事となった。
2人はそれぞれ「この夏の主役、DRAGONGATEの主役はこの俺だ!」と主張した。
前年より巨大化したトロフィーを抱え、優勝を喜ぶ箕浦にとっては、初めて実績を携えて正々堂々とした挑戦表明が叶った瞬間だった。
数度の前哨戦を終え、8月20日の大田区総合体育館のメインイベントで箕浦と菊田は4月の後楽園以来2度目の激突となった。
同門であり、今年初めまでドリーム王者だった吉岡との防衛戦を終えて自信と余裕を増した菊田はチャンピオンにしては珍しく満面の笑顔で明るく堂々と入場した。
一方の箕浦はさらなるビルドアップと髪型のイメージチェンジで精悍な顔立ちとなり、前回から半年も経たないうちに2人は大きな進化を遂げていた。
前回のシングルからファイトスタイルを少し変えていたのは箕浦だった。
箕浦は元々技数が多い選手だが、去年まで挑戦者決定戦等要所で使っていた吉野から授かったソル・ナシエンテは封印し、Golden Roseという新たなフィニッシャーを手に入れ、更に元々のフィニッシャーであるグラウンド技・エングラナヘの布石ともなるフェイスロックを有効活用し、見せ場を作りながら菊田を攻め上げる。
菊田はいつもの技を駆使しながら、フィジカルで箕浦を圧倒する。
今回の試合が4月の挑戦者決定戦と大きく違ったのは、手の内を知った2人が技の読み合いで見応えのある試合を展開しただけでなく、事前に宣言していた通りに「主役は俺だ」を試合内で体現していた事だ。
菊田は必殺技であるヒップアタックを出すタイミングといい、やられてから立ち上がる迄に客席に手に汗を握らせる間のとり方といい、キャリアの浅い選手とは思えない千両役者ぶりだが、意外だったのは箕浦だ。
箕浦は普段のタッグマッチでもファイトスタイルやキャラで目立つ同門のBen-K、ミノリータ、B✕Bハルクに比べると自分の役割をおとなしくこなしがちな印象で、リーダーの割には捕まり役をやる事も多く、リングで一番目立ちたいという欲望が薄いように思えた。そもそもの性格が反映されていたのかもしれないが、この日の箕浦は違った。
明らかに千両役者の菊田より目立とう、上に行こう、主役になりたいという強い想いが彼の背中を押しているようだった。
それは、2年前の同じ場所で己の殻を少し破って成長し、仲間の離脱と団体の思惑に翻弄された控え目な青年が初めて爆発させた欲望の発露だったのかもしれない。
箕浦は出血しながら食い下がったが、またも菊田のローリングラリアットに沈んだ。

菊田は試合後のマイクで「チャンピオンになって分かった事はDRAGONGATEを好きな気持ち」だと笑顔で語り、離脱が続いてうっすらとした不安が常に付き纏っているドラゲーファンの不安を払拭する自信に満ち溢れたマイクを披露し観客を魅了した。
箕浦は去年の神戸ワールドに続き、主役を横目で見ながらスポットライトの横の薄暗い道を帰って行った。
去り際に、対戦相手への感謝とドラゲー愛を語る菊田を睨みつけていた箕浦の表情は未だに忘れる事ができない。

今回のメインイベントは団体最高峰のベルトを賭けた試合というだけでなく事前に彼らが言った通りに“主役の座”を奪い合う試合だった。
主役になる為にはドリームのベルトが必要だが、今リングに立ってるこの瞬間も自分が主役でありたいと望む2人の我のぶつかり合いでもあった。
4月から半年も待たずに行われた同じ対戦カードで別のテーマの戦いを見せた若い2人には舌を巻くばかりだ。

そして、またも主役の座を逃した箕浦。
望月道場にたどたどしいマイクで加入し、シュンに誘われるがままMASQUERADEの一員となり、土井に引き抜かれてGOLD CLASSに入った彼は今、自分の言葉と表現を手に入れて更に大きく成長しつつある。
3度目の敗北を経験した今、箕浦が主役の物語への布石は少しずつ積み重なっている。
彼がドリームを戴冠して真の主役としてリングの真ん中に立つ日はそう遠くないだろうと信じている。
来るべき日、箕浦が持つのは金の薔薇なのか、他者から授かった太陽なのか、それとも別の何かなのか……その日がくるまで見守りたいと思う。

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