舘野泉先生をお迎えした「楽しい音楽会」
10月27日(日)、門下生による「楽しい音楽会」30回目を開催しました。
小さなマンションの一室でスタートした音楽教室を随分と続けてきたのだなぁと思うと同時に、今回はピアノ曲を出版して指導してきた私の人生の集大成ではないかと思うほどの記念の会となりました。
えっ、舘野先生が賛助出演してくださる!?
というのも、本番の1ヶ月くらい前に舘野泉先生とメールのやり取りの際に、今年の2月からスタートした大人ピアノクラスの方たちも出演する「楽しい音楽会」を開催すると近況報告をしたところ、思いがけず先生から賛助出演のお申し出をいただいたのです。
あまりのことに心臓が飛び出しそうなくらいびっくりして、夫のところまで全速力で階段を駆け上がりました。夢のようでした。
11月2日と4日に88歳のバースデーコンサートを控え、新曲初演のリハーサルでお忙しい合間にその日だけスケジュールが空いていらして、なんという幸運!
スタッフも出演者も驚き、準備も練習もレッスンも、皆でいつもに増して真剣に取り組みました。
子どもから大人まで、曲の難易度にかかわらずベストを尽くし、皆、自分に恥じない演奏ができたことは大きな喜びです。
第一部 誰もが輝くような演奏!
第一部に出演した子どもたちも大人クラスの皆さんも本番の演奏が素晴らしく、ステージ上で自分の音をよく聴いて集中できているのがわかりました。
緊張はしてもあがってしまうというのではなく、いい意味での緊張感、つまり集中している状態で、誰もがリハーサルよりも素晴らしい演奏になりました。
子どもたちが本番に強いのはいつものことですが、初舞台の大人クラスの皆さんもこんなに落ち着いて音楽的な演奏ができるなんて!
この日のための練習や体調管理はもちろん、曲に合わせて衣装を考えたり、4手や6手連弾のパートナーとの練習に心を砕いたりされた皆さん。
毎日の生活の中に音楽がある幸せをしみじみと感じてこの日を迎えたことが感じられ、心洗われるようなひと時となりました。
下記は、大人ピアノクラスに参加している夫と、『ピアノランド+ だいすき くまモン』のタイトル曲「だいすき くまモン」を連弾している一コマ。
ゲスト、ソプラノ福島由記さんを迎えて
第一部の歌のゲストはソプラノの福島由記さん。
ピアノランドから「おつきさまのふね」「森の夕暮れ」、そして樹原孝之介作曲オペラ「笛姫」より「天上の歌」をお願いしたところ、発声法が違うので出番を分けたいということに。
そういうことなら、子どもたちと大人クラスのそれぞれの後に歌っていただくと丁度いい構成になる!と、衣装も雰囲気もガラリと変えての登場となりました。
驚いたのは、普通ソプラノの方は子どもの歌など移調して歌われることが多いのですが、福島さんは
「作曲家が作られた調で歌わせていただきます。調を選ぶのにも意味があるはずで、移調すると曲のイメージが変わってしまうので」
と、原曲のキーで歌われたのです。
確かに、作曲家が決めた調、子どもたちが演奏している高さで聴いてこそ、声楽家に歌っていただくことでどこがどう違うのかがわかりやすくなります。
ピアノランドの曲を歌う福島さんの澄み切った声に包まれて、親子でうっとりとステージを見上げる様子に、伴奏しながら幸せを感じました。
そして、大人ピアノクラスクラスに続いて福島さんの2回目のステージは、オペラ「笛姫」のアリア「天上の歌」。
美しいというだけではなく、圧倒的な声量と心を鷲掴みにする表現力に、会場の皆さんは釘付けになりました。
子ども達は人間の身体からこんな声が出るのだ!という驚きに包まれ、「天上の歌」の、争いは無意味だというメッセージがずんずんと胸に迫ってくるのでした。驚いたのは、ステージ上で譜めくりするスタッフまでもが感動で目を真っ赤にしていたことです。
第二部 マスターコース卒業の皆さん
第一部だけでも感動的な演奏会となったのですが、さらに第二部が続きます。
ピアノランドマスターコースやコード塾などの卒業生の皆さんが、自身の作品や、樹原涼子の歌やピアノ曲、クラシック曲を次々に演奏、お一人おひとりの個性や考え方がしっかりと伝わる熱演です。
音楽と共に生き、これからも音楽と共に歩いていこうという皆さんの心意気がビシビシと伝わってくる、いい音楽会になったなぁと感慨深く聴きました。
レッスンでは和声の推移やフレーズの解釈、それを実現するためのテクニックをアドバイスしてきましたが、本番ではそれらが全て一つになり、まるで自分自身の心からの言葉のように音楽を紡ぐことができている。
これは、本当に素晴らしいことです。
かすり傷があったとしても少しの後悔もなく演奏できていたであろう皆さんの様子を見て、これは自分の限界より少し先まで頑張ったことへの音楽の神様からのご褒美かな、と思いました。
きっと、舘野先生がおいでくださるという喜びと緊張感からここまで頑張れたに違いありません。
舘野泉先生をお迎えして
そして最後に舘野泉先生が登場されました。
舞台中央まで車椅子で移動される間、会場は熱い拍手に包まれました。
脳出血から右半身麻痺になられてから左手だけでピアノを演奏していらした舘野先生。テレビの音楽番組やドキュメンタリー、雑誌でお見かけすることはあっても、実際に舘野先生の演奏会に足を運んだことのない一般の方々にとって、一体これから何が始まるのかと息を呑むような瞬間だったのではと思います。
先生に「今日は何を演奏してくださるのですか?」とお尋ねすると
「いや、まだ決まってない」
ここで一気に大爆笑!
「何を弾こうかなぁ」
と、ステージにお持ちになった沢山の楽譜を見ながら、皆さんの前で1曲ずつ選んで弾いてくださるという、なんともワクワクする進行となりました。
そして、その場で選んでくださったのは……。
1 エイベレの星 シサスク作曲
2 タピオラ幻景 作品92 第3曲 水のパヴァーヌ 吉松隆作曲
3 沈黙 光永浩一郎作曲
1曲目ではホールが満点の星に包まれたように別世界になり、2曲目は私も大好きな吉松隆さんの響きに満たされ、3曲目では遠藤周作さんの「沈黙」の感動から作曲された「沈黙」で苦難の道のりの向こうに救いの光が見えたかのようでした。
「もう、時間?」
「はい、先生が演奏されると異次元に行ったようで、あっという間に時間が経ってしまいます」
「時空が歪んだ?」
「はい」
またしても会場が笑いに包まれます。
「時間はないけれど、もう1曲お願いしてもいいですか?」
「ではこれで、スパッと終わりましょう!スパッと終われる曲で」
と選ばれたのは先生お気に入りの光永さんの「サムライ」。
4 サムライ 光永浩一郎作曲
舘野先生の手にかかるとピアノがまるで生き物のようで、これまでに聴いたことのない響きに包まれ、本当に時空を超えた世界にいるようです。
なんて力強い、温かい、そして深い響きなのでしょう。
皆、魂を揺さぶられる体験をして、会場は不思議な高揚感に包まれました。
演奏後は、会場の皆さんからの質問にいくつかお答えいただき、思わず涙ぐみそうになったり先生のユーモアに笑ったりと、それはもう、2度とは再現できない尊い時間となりました。
(これは長くなるので、またの機会に書きます)
音楽の後は、いつも和やかな語らいの時間を
打ち上げには、舘野先生、福島由記さん、ご自身も演奏してくださった亀田正俊さん、夫と5人で先生お気に入りのお店へ。
亀田さんは、音楽之友社で舘野先生が編纂される左手の楽譜シリーズや私の楽譜を長いこと担当されてきて、この日は車椅子を押したり譜めくりをしてくださったりと大変お世話になりました。
そんなわけで、久しぶりに舘野先生を囲んで楽しく美味しい時間を過ごしました。
9月にインドやネパールで演奏されたときのお話には本当に驚きました。
とてもここには書ききれないのですが、舘野先生は毎日歴史を刻まれているのだなと思いました。
私の「楽しい音楽会」は防犯上の理由で毎年出演者の招待客だけが入場できるのですが、今回に限り、ピアノランドメイト(ピアノの先生方のサークル)から希望者を招待して一緒に楽しむことができました。
今年出演された皆さんは、舘野先生と同じ舞台で同じピアノを弾くという、本当に得難い体験をされたと思います。
今回、これまで主催した「楽しい音楽会」の中でも格別に心に残る演奏会となったのは、ひとえに舘野先生が賛助出演してくださったおかげです。
この感動をいつまでも忘れず、日々精進していこうと心に誓いました。
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