コペルニクス 第36章
ペトロが到着したとき、私は目立たないようにしていた。あいつは私の世界全てをイライラさせる。技術なんて当然のように存在するものであってほしいし、その状態を保ちたい。あいつみたいに技術について考えるのは疲れるだけだ。実際、彼と話すと頭痛がする。
コルシカにはあと1ヶ月いる予定だった。その後はパリに戻るつもりだ。アトランタ、ジョージア州に新しい美術館を設計していたので、アメリカに戻ることになる。とにかく、あと1ヶ月耐えればよかった。そして、その間、サラフが一緒に過ごせる仲間になってくれたらと思っていた。彼女はどの角度から見ても素晴らしかった。彫刻みたいに、どの側面から見ても完璧だった。それがサラフだった。悪い角度なんて一つもなかった。
しかし、ペトロにはもう一つ問題があった。サラフが明らかに彼を気に入っていたのだ。ペトロが来るまではサラフとうまくやっていたのに、彼が現れると状況が変わった。痩せた首の長いオタクで、脳みそ全開で生きているタイプだ。しかも、ペトロが特に頭が良いかどうかも疑わしい。第一に、彼は自分で制御できないものを作った。それ自体が危険信号だ。そして第二に、彼は自分が作ったものをどう扱えばいいのかもわかっていない。サラフはそれだけで彼を拒絶すべきだったのに、彼女はむしろその無責任さに惹かれているようだった。まあ、彼女がそんなドラマをオタクの体に包んだものが欲しいなら、私たちが一緒にならなくて良かったかもしれない。
孤独、それも特に肉体的な孤独は最悪だ。
私はお腹が空いていた。遅い時間になってもロベルタからは何も連絡がなかった。月曜の夜はいつもこんな感じで、のんびりしている。キッチンに行って何かを見つけることにした。サムもいなかった。ちょっと変だ。彼からのメモがあって、警備所にサンドイッチを届けに行ったと書いてあった。周りを見回し、冷蔵庫を漁って自室に戻って食べることにした。正直、誰かと一緒に過ごす気分ではなかった。
準備を始めると、背後のリビングルームで物音がした。
「サム、私はキッチンにいるよ。残り物をいただいている。」
返事はなかった。銃の引き金の音が聞こえた時、顔を上げた。鋼鉄の銃口が私の頭に向けられていた。私は固まった。ただし、ヘリウムで満たされたかのように、両手だけが本能的に上がった。
「そいつじゃない。」
男の声が横から聞こえたが、銃口が向けられたままでは顔を動かしたくなかった。
「確かか?」
銃を持っている男が私をよく見た。
「名前は?」
「...ノア」とかろうじて声を出した。
心臓が激しく鼓動していた。二人の男がいて、どちらも銃を持っているのがわかった。
「ノア、よく聞いてくれ。できるか?」
私は軽くうなずいた。
「よし、今やっていることをやめて、ペトロ・ソコルの部屋まで案内しろ。わかったな?」
再びうなずいた。
「たぶん彼は部屋にいると思う。」私は答えた。
「何があったんだ?」
「それはお前の知ったことじゃない。今のお前の役目は、ペトロの部屋に案内することだけだ。理解したな?」
またうなずいた。
「さっさとしろ!」
銃を持った男に背を向け、歩き始めた。ペトロがスパイに狙われることは予想していたが、まさか彼らがコルシカまで来るとは夢にも思わなかった。ゆっくり歩き、突然の動きは一切しないように心掛けた。階段に着いたところで、私は指を差して「彼の部屋はあそこだ。」と言った。
「先に行け。」と男は言い、銃口を私の背中の方に向けた。
少し下に向いていたので、それがせめてもの救いだと思った。
こういう状況が起こると、今まで体験したことはなかったが、よく言われる通り、時間が歪む。うまく説明できないが、時間がまるで宇宙的なブレンダーにかけられたような感じだ。
例えば、階段を上るのに10分もかかったように感じた。もしかしたら、沈黙がそう感じさせたのかもしれない。あるいは、サラフが部屋から出てこないことを祈り続けていたからかもしれない。銃を持った連中は真剣そのものだ。
私は廊下を歩き、ペトロの部屋の前で止まり、それを指差して「ここが彼の部屋だ。」とささやいた。
痩せた男が私の背後に近づき、私をドアから引き離した。
「そこに座ってろ。何も言うな、そして急な動きはするな。分かったか?」
私はうなずいた。
「はい、分かりました。」
もう一人の男がゆっくりとドアを開け、最初はそれが鍵がかかっているかどうかを確かめるかのように慎重だった。ドアノブが回ると、勢いよくドアを開け、中に飛び込んだ。しかし、部屋は空っぽだった。彼は1分もかからず部屋を見回したが、そこには隠れる場所がなく、二人の男は互いに肩をすくめた。指揮をとっているように見える男が私に近づき、数フィート離れた場所でにらみつけた。
「他にどこにいるんだ?」
「…パティオ…かも?」
「自信なさそうだな。」
「この建物は広いです。敷地内のどこにでもいるかもしれません。」
「お前は何者だ?」
「私は建築家です。」
「ここをか?」彼は銃で円を描くように振った。
「そうです。」
「ここは何なんだ?」
「ここは住居です。」と私は答え、少し頭を傾けた。
「そして、あちらは美術館です。」
「美術館?」彼は一瞬考え込むような表情をした。
「アートのための…?」
「はい。」私はうなずいた。
なぜそんな質問をするのか不思議に思いながら。
「あなたは誰ですか?」
「お前の知ったことじゃない。パティオに案内しろ。」
痩せた男が廊下の方を見た。
「サラフの部屋を確認したい。ドアが開いているみたいだ。」
私は胸が暗い深淵に落ちていくような感覚を覚えた。
「サラフを知っているのか?」
「もう一度言うが、お前の知ったことじゃない。質問されない限り黙っていろ。それ以上は言わんぞ。」
その最後の言葉が私の注意を引いた。私は指示に従うことに集中した。この男たちの周りでは、気をつける必要がある。もし彼らが私に情報を伝えたいなら、銃を向けているはずがない。
痩せた男は廊下を急いで行き、戻ってきた。
「部屋は空っぽだ。彼女はいない。」
「ってことは、彼らは彼女を見つけたな。警戒態勢に入っているだろう。」
彼は私に向かって低い声で言った。
「年上の女性の部屋はどこだ?」
「ロベルタ?」
「茶色い髪で、このくらいの背丈、魅力的な…」私はうなずいた。
「それがロベルタです。」
「彼女の部屋に案内しろ。」
「ペトロは彼女の部屋にはいないはずですが…」
「何を言ったか覚えているか?」彼は銃口を私の右頬のすぐそばに持ってきた。
私は慎重に行動することが得意ではなかった。もしできるなら、口を閉じておきたかった。私はいつもいじめっ子とは相性が悪く、これらの男たちはスパイ組織の証明書を持っているかもしれないが、やはりいじめっ子だ。しかし、彼が怖いわけではなかった。もちろん、銃で撃たれたくはないが、彼自体には恐怖心を抱かなかった。もし銃がなければ、一発で彼を地面に叩きつける自信があった。
私たちは廊下を進み、最も奥のドアに向かった。それは上へ続く狭い階段につながっていた。階段を上がっていくと、声が聞こえた。肩に手が置かれるのを感じた。
「彼か?」
私は耳を澄ましてさらによく聞いた。うなずいた。ペトロとマーティンが言い争っていた。そして、もう一人、聞き覚えのない男の声が聞こえた。再び自信がなくなった。
「たぶんそうです。」
その時、階段の上の寝室のドアが開く音が聞こえた。次に聞こえたのはマーティンの声だった。
「すぐにここを出るべきだ。」
「荷物を取ったら出るよ。」
鍵の音が聞こえた。
「ありがとう、マーティン。空港で預けるよ。ロベルタ、お大事に。じゃあね。」
それがペトロだった。今、確信した。
後ろの男が私を叩いて「ペトロか?」と口の動きだけで問いかけた。彼の顔全体が疑問符だった。
私はしぶしぶうなずいた。
「彼は無理だ、マーティン。ここはすぐに人でいっぱいになる。危険すぎる。」
マーティンとロベルタの短い別れの言葉が聞こえ、ドアが閉まった。ペトロは階段を下り、彼の捕獲者たちに向かって進んでいた。そこで、ある計画が私に閃いた。それは非常に危険な考えだったが、現実には2つの銃が自分に向けられているにもかかわらず、建物を知っているという利点があった。この階段の狭い空間では、私は筋肉質で、闘う機械…少なくとも、その瞬間はそう感じた。このスパイたちは私をすり減らしていた。
最初の動きは、背後にいた男の膝を蹴り、振り向いて彼を仲間の上に押し倒すことだった。聞こえた骨の折れる音と直後のうめき声は、私に満足感を与えた。ドミノのように倒れるのがうまくいったが、その光景を見る前に、音だけで十分だった。私は階段を駆け上がり、ペトロの腕を掴んで、文字通りマーティンとロベルタの寝室に押し込んだ。
私はドアをロックして叫んだ。
「マーティン、ロックダウンだ!」
マーティンはすぐに私の意図を理解した。彼はナイトスタンドのボタンを押し、金属板がアルコーブの右側から現れ、通常のドアの前に滑り込んだ。同じように、外の窓の前にも金属シートが降りてきた。彼がもう一つボタンを押すと、壁に小さな開口部が魔法のように現れた。それは美術館と住居の両方の設計図に秘密の脱出ルートを組み込むことが設計上必須だった。それに230,000ドルの建設費がかかったが、今この瞬間、私は心のどこかで感謝の祈りをささげたようだった。
次に聞こえた音が私をびくっとさせた。銃声が響いたが、消音されていても、それは私を恐怖に陥れた。数秒後、もう一発の銃声が響いた。振り返ると、ペトロ、アンドリュー、マーティンがドアの方を向き、全員が恐怖に顔をこわばらせていた。ロベルタはベッドに横たわっており、私たちと狂気じみたスパイたちの間に立つ灰色の金属のドアにじっと目を向けていた。
「大丈夫だ、しっかりしてる。」と私は言った。
「私たちは安全だ。」
「それで、どうするつもりだ?」とマーティンが尋ねた。
私は両手を広げて言った。
「これが…これ以上のことは考えていなかった。」
「だから言ったんだよ、マーティ。地元の警察を呼ぶべきだ。」アンドリューが言った。
「警察に任せよう。彼らが解決する。」
「奴らはペトロを狙っているんだ。」と私は言って、マーティンを見た。
「サラフはどこだ?」
「彼らが連れて行った。」とロベルタが答えた。
「くそっ!」私は小声で呟いた。
「地元の警察なんて会ったことがあるが、無能な酔っぱらいだ。今頃、酔っ払ってるに違いない。」
ペトロが壁の開口部を指さして言った。
「それはどこに繋がってるんだ?」
「どこにでも繋がっているよ。」とマーティンは答えた。
「外に出られるのか?」
マーティンはうなずいた。
「裏庭のパティオに出られるし、この場所と美術館を繋ぐトンネルもある。」
「そこをうまく案内できるのは誰だ?」とペトロが尋ねた。
マーティンは私を指差した。
「ノアと私だ。」
ペトロは私を見つめた。
「ノア、僕を美術館まで案内できるか?そこからは自分でなんとかする。」
私はうなずいた。ペトロが去るという考えは、いろんな意味で良いアイデアに思えた。そして、彼をここから連れ出すことができるなら、それは私にとっても大きなメリットだ。
「じゃあ、行こう。」とペトロが言い、壁の隙間に向かって歩き出した。
「警察に連絡するなら、10分待ってからにしろよ。」
ペトロは隙間を抜け、私は「気をつけて」とか「無事でな」といった声を背に受けながら続いた。
私はスイッチを入れ、天井に沿ってLEDの光が通路を照らした。ペトロに身振りで「俺が先導する。」と伝えた。次の瞬間、壁の狭い開口部が油圧音とともに閉じるのが聞こえた。その音は、私にとって神聖な響きとして刻まれていた。
私はペトロに振り向いて言った。
「近くにいろ。この中は迷路だ。迷いやすいんだ。そして、静かにしろよ。あいつらが聞いていれば、音で追跡されるかもしれない。分かったか?」
私は彼にうなずいて理解を確認した。彼は、少し不安げではあったが、うなずき返した。