VRChatに作品を不正アップロードされたので削除させた話

noteサムネ

追記(2021/4/17)
DMCA申請の手続きが記事執筆時とは変わりました。
メールで申請する代わりに、Google Formを使って比較的申請できるようになりました。詳しくはこちらをご覧ください。
追記 (2020/8/15)この記事を書いて7ヶ月後、DMCA申請の手続きが改良されているのに気付いたので追記します。
申請にあたってVRChat社に告げた自分の住所と電話番号が、違反者にバレなくなりました。依然として本名とメールアドレスはバレますが、前よりはやりやすくなったと思います。

要点

・私の作品が、その利用規約に反してVRChatのPublicワールドとして公開されました。
・VRChat社に削除依頼を出したところ、ワールドを削除してくれました。
・削除依頼はDMCAの書式に沿った文面である必要があるので、同じく被害に遭った方はこのnoteを参考に書くとよいと思います。

売り物がPublicと化した

問題の作品はこちら、海辺の別荘です。

こちらは私が販売中のデジタルデータで、VRChatのワールドとして使えるように設定していますが、建物のpublic化はご遠慮いただいています。
売り物なので、無料でアクセスされてしまうと困ります。そのため利用規約を設定し、ワールドのpublic化はNG、アップロードする時はprivateワールドとして設定し、そのインスタンスはFriend(+)またはInvite(+)で立てることとしています。(ただし、一部の小物アイテムのみであればpublicワールドに利用してOKとしています。)

海辺の別荘は嬉しいことに好評をいただいたのですが、しばらく後、こんな報告をいただきました。

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海辺の別荘がpublicに上がっていました。しかもアクセス数は1,000を超え、そこそこの人気になってしまっているようです。

VRChatに削除依頼を出す

さて、別荘のpublic化を取り消させるにはどうしたら良いでしょうか。
本人に直接連絡して説得するのが最も穏便な方法だとは思ったのですが、連絡先が分かりません。VRChatでテキストメッセージを送る機能はないし、Twitterアカウントも見つかりませんでした。
そこでVRChat社に削除依頼を出すことにしました。
copyright■vrchat.com (■をアットマークにする) にメールを出せば良いと聞いて、日本語で削除依頼を出したところ、2日後に英語で次のような返信が来ました。

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・連絡はすべて英語で行う必要があります。
・DMCA(デジタルミレニアム著作権法)の申請として有効な形式で書いてください。書いたらこのメールに返信してください。具体的には、これそれ(後述)を書いてください。

DMCAは米国の法律で、これに基づくと、著作権を持つ人が「これは著作権侵害です」と通知すれば、アップロードした人から反論がない限り、企業はこれを削除するべき、となっているようです。そして通知の相手はVRChat社なので、私が所定の形式で通知を書いて、それをVRChatにメールで送ればよい、ということでしょう。

さっそく言われたとおりのことを英語で書いて返信しました。なお申請の全文は後述します。

削除させたいワールドの画像

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申請の結果、ワールド削除

待つこと3日、VRChatから返事が来ました。問題のpublicワールドは……消えました! 404 Not Found!  著作権法パンチ成功です!

削除されたワールドの画像

消えたワールド

VRChatからの返事をまとめると、「DMCAの申請にしたがってワールドを削除しました。違反を繰り返したアカウントは抹消されます。削除された側には反論の機会があり、反論があった場合には通知します。」とのことです。
今のところ相手のアカウントは削除されていないようですが、このメールを読んだなら、きっともうpublic化することはないでしょう。願わくば。

DMCA申請の高すぎる代償

メールを見てびっくりしたのですが、こちらの個人情報が違反者に筒抜けです。VRChatからのメールはCCで私と違反者の両方に送信されています。その中には、申請に必要だと言われて書いた私の本名、電話番号(追記:今は送られない)、住所(追記:今は送られない)、メールアドレスがバッチリ送信されてしまっています。何という……!

追記:
2020/8/14 にDMCA申請を送ったところ、VRChat社からのメールでは電話番号と住所は伏せられていました。手続きが改良されたのだと思います。ただし本名とメールアドレスは相手にバレます。

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なにかの間違いではないかと思って問い合わせましたが、「DMCAの手続きに沿ったことで、必要なものです」と言われました。あちゃー。
この対策について、以下で考えてみます。

課題と対策:削除依頼の代行サービス

利用規約違反には毅然と対処し、DMCA申請を提出しますとみんなで宣言したいところですが、しかしその宣言は同時に、申請のために私は個人情報を晒しますという弱点の宣言でもあります。残念ながら、胸を張っては言えません。
これの解決法は、本人ではなく代理人が申請することです。すると代わりに公開されるのは代理人の情報、例えば法律事務所の住所などになります。そうすると個人情報は守られます。では誰が代理人になってくれるのでしょうか。
調べたところ、DLSiteが削除要請代行サービスをしているようです。DLSiteで販売している作品であれば無料で代行してくれて、こちらの個人情報が相手に渡ることもないそうです。
詳しくは下のサイトに書いてあります。

こういったサービスがある販売サイトに乗り換えるというのも選択肢の1つになるでしょう。しかしDLSiteは漫画の不正アップロードに対しては対策の実績がありますが、VR空間上のものに対しては実績があるのでしょうか。ちょっと疑問ですし、本当にやってくれるかどうかは実際に行動してみないと分かりません。こういう点でしっかり対応してくれる販売サイトが今後出てくることを願います。

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今後に出るECサイトといえば、バーチャルマーケットでおなじみのVR法人HIKKYさんがバーチャルマーケットβを開発中とのことですが、その中にはVRChatに対する削除要請を代行してくれるサービスはあるのでしょうか。あるといいなあ。そしたら個人情報を出さずにすみますし、競合より手数料が高くても納得できるので。

課題と対策:不正を発見する

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次の課題は、不正にアップロードされたものを発見することです。見つけなければ対処はできません。今回はTwitterで「newワールドにあなたの作品が上がってました」と報告をいただいたので対処できましたが、報告がなければ不正アップロードがあったことに気づかず、削除申請もなく、このnoteを書くこともなかったでしょう。不正なものをどうやって見つけるか、それをどうやって対処につなげるかが課題だと思います。

課題と対策:利用規約の整備

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次に不安に思った点は、利用規約の整備です。今回の「海辺の別荘」には日本語と英語両方の説明書を付けていて、英語に翻訳した利用規約も書いたので、「これは利用規約違反です」と自信を持って言えました。しかし制作者の全員が利用規約の英語訳を書くわけではないし、もし英語の規約を書かなかったら、海外の方からは「規約なんか知らない」と言われそうです。日本語の規約だけでもDMCA申請は通りそうな予感はしますが、購入者に対する「public化はダメです」という念押しとしては弱い気がします。今後のより良い利用規約のあり方として、UVライセンスに頑張ってほしいなと思います。これは動く城のフィオさんたちが今作っている最中で、アバター文化における販売物に適用できるライセンス、それも多言語の展開を想定されたものだそうです。詳しくは下のサイトにあります。

これがあれば海外の方にも安心して売れますし、規約の解釈ですれ違うことも減るかなと思います。

UVライセンスや削除依頼の代行サービスなど、人々の作品がフェアに扱われるように仕組みが整備されることを祈っています。

DMCA申請の全文。何を書けばよいか。

これを読んでいる方でDMCA申請をしたい方の参考になるように、VRChat社とのやり取りを翻訳して掲載します。

① VRChatに日本語で削除依頼のメールを送りました。
② 2日後、VRChatから返事が来ました。以下にその日本語訳を載せます。
DMCA申請のために何が必要なのか、ということが説明されています。

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(私の名前)様
ご報告ありがとうございます。VRChatは著作権所有者の権利を真剣に考えており、デジタルミレニアル著作権法(DMCA)の「テイクダウン・ノーティス」に則った有効な申請によりVRChatのコンテンツに対し著作権侵害の申し立てがあれば、利用規約に基づいてそれに対応します。私達はあなたの申し立てを受けて、ぜひとも協力したいと考えております。しかしながら、DMCAのテイクダウン・ノーティス申請は所定の書式で、特定の詳細が書かれている必要があります。先日あなたから頂いたメールを審査したところ、要件を満たしていない箇所があるようです。手続きを進めるために、ご都合の良い時に、次の内容を含む文書でこのメールに返信してください。
1. 該当する著作権の所有者またはその代理人の電子または物理的署名
2. あなたが著作権を侵害されたと主張するコンテンツを確認できるもの
3. あなたの連絡先情報(例えば住所、電話番号、そしてメールアドレス)
4. 次の文を書いてください。“[I] have a good faith belief that use of the material in the manner complained of is not authorized by the copyright owner, its agent, or the law.”
(この素材を上記のように利用することは、その著作者、その代理人、または法律によって許可されていないと、私は確信しています。)
5. 次のことを宣言してください: あなたの報告は正確であり、 偽証罪の適用に関する事項を確認のうえ、あなたには、排他的権利を持つ者の代表者としての権限があること。
(原文:A statement that the information in your notice is accurate, and under penalty of perjury, that you are “authorized to act on behalf of the owner of an exclusive right.”  )

以上の要求は United States Copyright Act のセクション512(c)によるものです。以上のことをすべて記載した通知を受け取り次第、私達はあなたが要求する手続きを進めます。

連絡はすべて英語で行う必要があります。


VRChatチームより

英語原文を確認したい方のために、メールをコピペして次のサイトに載せておきます。

③ 私からVRChatへDMCAの申請を送る
ここが肝心ですね。文書の全文に、日本語訳を書き足して説明します。形式は普通のメールのテキストで大丈夫です。pdf化する必要はないですし、直筆の署名などを添付する必要はありません。

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Dear VRChat Team
(VRChat 担当者様)
I send you DMCA takedown notice in this e-mail.
(このメールでDMCAのテイクダウン・ノーティス申請を送ります。)

1. Signature of the applicable copyright owner
(1. 該当の著作権者の署名)

Name: (ここに日本語の本名を書きます。この行は不要だったかも。)
Name in English: (英語で本名を書きます。)
Company Name: (販売サイト名を書きましたが、不要だったかも。)


2-1. Identification of the copyrighted work that I believe is infringed by content on VRChat
(2-1. VRChatによって著作権侵害されたと主張するコンテンツ)

A public world in following URL in VRChat is infringing my copyright.
(以下のURLにあるpublicワールドが私の著作権を侵害しています。)
(ここに不正なワールドのURLを貼る)
Please delete that public world.
(このpublicワールドを消してください。)


2-2. Evidence that I have its copyright
(2-2. 私が著作者であることの証明)

The digital product is for sale, and should not be public in virtual world, and should not be available for free.
Based on its Terms of Use, using it as a private world in VRChat is allowed, however, using it as a public world is prohibited.
(このデジタル製品は売り物で、VR空間上でpublicになってはならず、無料でアクセスできるようになってはなりません。
利用規約に基づき、VRChatのprivateワールドとしての利用は許可されますが、publicワールドとしての利用は禁止です。)

You can find my regular productr in following link:
(私の正規の製品を次のリンクから確認できます:)
URL: (ここに製品の販売サイトのURLを書きます)
Product Name: (製品名を書きます)
Product Type: Digital copy of 3D models

3. Contact Information
(3. 連絡先)
Address: Japan, (ここに住所を書きます)
Phone Number: (ここに電話番号を書きます)
e-mail address: (ここにメールアドレスを書きます)
(訳注: ここに書いた本名とメールアドレスは違反者に送信されます。住所と電話番号は違反者には伏せられます。)
訳注、追記(2020/3/7):住所もしっかり書かないと申請が通らなかったと、このnoteを試した方から連絡を頂きました。)

4. Declaration
(4. 宣言)
I have a good faith belief that use of the material in the manner complained of is not authorized by the copyright owner, its agent, or the law.
(この素材を上記のように利用することは、その著作者、その代理人、または法律によって許可されていないと、私は確信しています。)

5. Declaration
(5. 宣言)
The information in my notice is accurate, and under penalty of perjury, that I am authorized to act on behalf of the owner of an exclusive right.
(私の報告は正確であり、 偽証罪の適用に関する事項を確認のうえ、私には、排他的権利を持つ者の代表者としての権限があります。)


④ 3日後、該当のワールドを削除したとVRChatから連絡がありました。
これで解決です。

さいごに

このnoteを書くにあたっては、VRChat社とのやり取りを翻訳するために英和辞書を何度も引き、またDMCAに関する調査に多大な時間を費やしました。よければ投げ銭するか、私が作ったVRChat想定アイテムをお1つお買い上げいただけると嬉しいです。VRChatなどで使えるテディベア、リボン、または海辺の別荘などをお買い上げになるか、または投げ銭するには下のサイトからお願いします。

私の作品は、publicにならなければ、アバター、ワールド、動画制作、商用利用でも、どしどし使っていただいて大丈夫ですし、publicワールドでの利用を許可しているアセットもあります。よろしくお願いします。

#不正アップロード #不法アップロード #著作権 #DMCA #デジタルミレニアム著作権法 #VRChat #VRC

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