【LAiR’s Artist】今井晴登
Profile
多摩美術大学環境デザイン学科在学中
Instagram @_imai_424
作品紹介
バスタ新宿から金沢行きの
夜行バスに揺られる道中
ほんの一瞬
でも確かに見た夢と
同じ場所に来ている
ひがし茶屋街を抜けた先
卯辰山の中腹に薄紅色の鳥居がある
開発の進んだ街の中心部から置き去りにされたまま
苔や錆の隙間から玉風に吹かれた頬を赤らめて
街が観光客で賑わうようになったのは
新幹線が通るようになってからだと
香林坊にあるおでん屋の店主の
どちらとも取れない横顔がよぎる
山頂に向かって続く階段と
葉の落ちた木々の枝枝が
薄曇りの空に浮かび上がる中
入る人を拒むように敷き詰められた苔の上を
アスファルトですり減った靴底で踏み締める
腰に手を当て一歩一歩
何かの気配から逃げたい右足
手招く何かに導かれる左足
長い長い階段のせいだけではない
無意識に呼吸が深くなるこの感じ
午前最後の日差しが
眼前に広がる竹林に陰影を付ける
竹って海だ
思わず息を呑むほど
竹林は深く底が無い
息を吸って吐くたびに
深海に引き摺り込まれるような感覚に
恐る恐る身を委ねる
バスタ新宿から金沢行きの
夜行バスに揺られる道中
ほんの一瞬
でも確かに見た夢と
同じ景色がそこにはあった
それは
降り注ぐ光を目指して
一糸纏わぬ赤子が
一本の竹を登る夢
幼い赤子の小さな身体で
竹をよじ登ることができたのは
浮力のお陰だったのだと納得した
赤子が上へ上へと登るにつれ
自分の存在が竹林の海に沈んでいく
焼けるような胸の痛みに息を吐き出した
危うく溺れるところだったようだ
竹林の一部になったようなあの時間
私は竹と一緒に光合成をしていたのだろう
金沢駅からバスタ新宿行きの
夜行バスに揺られる道中
まぶたの裏で
竹林が風に揺れた
LINNASアーティストインレジデンス企画【LAiR】について
LINNASは「街の中のちいさな複合施設」として、その地域の中の人、外の人、様々な人が行き交うHUBにしていきたいと考えております。そのためにアーティストの方々が訪れる機会を創り、多様性を生み出していきたいと考えています。
また、ホテルとしてのコンセプトは「ヒュッゲ」を掲げています。ヒュッゲとはデンマーク語で「居心地の良い空間・時間」を意味する言葉です。宿泊されるゲストには、そんな豊かさを感じるひと時を提供します。そしてこの感情を、日常にも持ち帰っていただけたらと思います。
豊かな日常を分解していくと様々な要素があるかと思いますが、LINNASが提供したい「豊かな日常」の一つに「アートのある日常」があります。
家で過ごす時間が長くなった今、家の中にアートがあることで気持ちが明るくなったり、癒されたりするのではないでしょうか。
LINNASではアーティストインレジデンスで滞在してくださったアーティストの作品をお部屋や共用部に飾っていくことで、宿泊する人たちに「アートのある日常を試着」していただきたいと考えています。