「本当に起業できるのか?」のしかかる重圧を吹っ飛ばした一通のメール
この先の人生に「起業」という活路を見出しながらも、「本当にシオノギを辞めていいのか?」と悩み続けた僕ですが、ある一通のショートメールをきっかけに起業を決断!
…と、前回は起業を決意するまでをサラリとまとめましたが、現実にはそんな簡単に気持ちを切り替えられたワケはなく。
「起業して成功するんだ」と本気の覚悟が決まるまでには、想像を絶する【心の葛藤】がありました(それはもう吐きそうなくらい悶々・鬱々としていました)。
とはいえ、これは僕が「起業」というキーワードに出会って約9か月後に訪れた変化。
それまではひたすら、希望とワクワクに満ち溢れていました。
起業家の【生きざま】に魂が震え、その姿が僕を奮い立たせた
起業に強く興味を持った僕がまずしたのは、読書。
「ソフトバンク」の孫正義さん、「ワタミ」の渡邉美樹さん、「ライブドア」のホリエモンこと堀江貴文さんなど、あらゆる起業家の本を読みふけりました。
読後は毎度、こう感じたものです。
「めちゃくちゃかっこいい!」
起業家が語るストーリーって、感情を、魂を揺さぶるものが多いんですよね。
「波乱万丈」の言葉がぴったりで、まさに「激動」。
自分で事業を一から立ち上げるも、株主から痛烈に批判されたり、社員がどんどん辞めていったり、買収話や倒産の危機にさらされたり…。
生きる気力を失うレベルの困難が次々と立ちはだかるんですが、どんなに絶望的と思える状況でも立ち上がり、「世の中を変えてやるんだ」っていう熱い想いを胸に闘い続ける。
その姿が僕の目には、ものすごくかっこよく映ったのです。
もちろん起業すれば「自分がやりたいことをやれる」「お金も稼げるかもしれない」、そんな将来にも魅力を感じました。
でも究極に僕が惹きつけられたのは、彼らの【生きざま】。
「こんな生き方がしたい」
心からそう思いました。
こうして本を読むたび「起業する人生」に魅了されていった僕ですが、いつしか別の理由から、読書にのめり込むように。
それは「起業を後押ししてくれる人が誰もいない環境だった」から。
父はサラリーマンだったし、高校や大学の友人も企業に就職した人がほとんど。
身近に起業をしている人は皆無だったため、僕の起業を止めようとする人はいても、応援してくれる人は一人として想像できなかったのです。
そんな僕を鼓舞し、やる気にさせてくれたのが、本の中で出会った起業家の先輩方でした。
読んだ本は100冊以上。
読書漬けの日々は、忘れていたこんな気持ちも思い出させてくれました。
・「自分の名を歴史に刻みたい」と考えていた小学生時代
・「人はいつ死ぬか分からないのだから、自分のやりたいことは今すぐやるべき」と思い知らされた父の脳梗塞(命が危ないとまで言われました※今は回復して元気です)
「名刺や肩書きに満足してくすぶっていていいのか?」
「俺の人生は一度きり…起業しないでどうする?」
起業家の先輩方の生きざま、そして自分の内なる情熱・人生観が、起業への一歩を踏み出そうとする僕を奮い立たせてくれました。
ところがこの直後、僕を襲ったのは、混沌とした不安の渦。
冒頭で打ち明けた、それはもう吐きそうな日々が訪れたのです。
コラム:僕が最も影響を受けた一冊
『ABEMA(アベマ)』『Ameba(アメーバ)』などを手掛けるサイバーエージェントの創設者・藤田さんの半世紀を綴った手記。この本は「思い付いたときにすぐ読みたい」と5冊ほど購入していて、自宅や会社、クルマの中など、いろんなところに置いています。
僕がこの本に強く惹かれたのは、藤田社長が自分と似たような境遇で育った末に起業し、がむしゃらに働いて会社を大きくしていく姿に「熱さ」と「親近感」を感じたから。
サラリーマンの父の元で育ち、スキルも技術もない中で起業。社員は地道に1人から声をかけ、2人、3人になり、朝から晩まで泥臭く働くことで会社がどんどん拡大していきます。
「俺も起業して、朝から晩まで死ぬほど働いてやる」と、心の奥底に眠っていた「情熱」に火が付くきっかけとなった一冊です。
いざ自分事として考えたとき、重くのしかかってきた「起業」のリアル
起業家の本を読み漁っていた僕の胸中にあったのは、「起業してこんな風に生きていきたい」という「憧れ」であり、単なる夢物語でしかありませんでした。
しかし「自分事」として、「起業のためにはまず会社に『辞める』って言わないとな…」と考えたとき、とてつもない「不安」が身に迫ってきたのです。
これぞ「吐きそうな日々」のはじまり。
2009年9月頃のことでした。
その頃の僕といえば、「一緒に起業しないか」と誘ってくれた旧友から、「ゆくゆくは情報発信をするんだから、起業前にマスコミ業界(広告代理店など)を経験してみてもいいんじゃないか」と提案され、転職活動だけは始めていました。
そんな状況でもなお
『あぁ、辞めるって言わなきゃ。でも言うの嫌だな。どうしよう…。てか、俺なんかに起業できるのか?でも起業したいから転職活動してるんだ。辞めるって言うしかない…』
と、心は見事に堂々巡り。
シャワーを浴びながら自問自答し、気付けば「どんだけ長い間シャワー浴びてたんだ」と我に返ることが日常茶飯事でした。
不安や迷いを拭いきれないまま、無情にも時は流れ…
迎えた2010年1月。
何も解決せず、転職先も見つからないままでしたが、吐き出すように上司へ、2010年3月末での退職を願い出ました。
上司は猛反対。
毎日のように飲みに誘われ、「宮下には期待している」「辞めるなんてもったいない」と引き止められ、最終的には支店長にまで説得される事態に。
でも、僕の意志が変わることはありませんでした。
そんな日々が2週間ほど続いた、ある日のこと。
上司から「ちょっとええか」と仕事中に呼ばれ、神戸支店の真ん中の会議室へ。
そこで思いがけない言葉をいただいたのです(今でも昨日のことのように思い出せます)。
「宮下に『辞める』と聞かされてから、シオノギだけの人生が本当に『自分の人生』だったのか?ずっと振り返っていた。そこで気付いたんだ。自分にもやりたいことがあったなって。だから宮下がやりたいことを止めるんじゃなく、応援したい気持ちになった。『そういう人生もある』って後押ししたいと思ったんだよな。だから宮下、頑張れよ」
翌月2月には先輩や後輩、同期にも僕の退職が伝えられました。
僕が担当していた業務を引き継ぐことになった先輩には、申し訳なさから「ごめんなさい」と謝ったところ、「何言ってんだよ」に続けてこれまた予期せぬ一言が。
「宮下が次の場所で頑張ることが、俺たちへの一番の恩返しだから」
もう心から「なんていい人たちばかりなんだ」と思わずにはいられませんでした。
こうして無事、シオノギの退職が確定。
ただ、肝心の転職先は2月になっても決まらず。
依然として就職氷河期で、僕が希望していた広告代理店業界は募集すらほとんどありませんでした。
そして両親にだけはまだ、起業のために退職することを伝えられずにいました。
起業に向けて行動しながらも、ずっと気がかりだった両親の思い
実はこれまでに一度だけ、両親に「起業したいと思っている」と打ち明けたことがありました。
二人の反応は、
「えっ⁉どうして⁉」(母)
「……そうか」(父)
と母は驚き、父は言葉を消失。
明らかに落ち込んだ様子でした。
無理もありません。
まだ大学生だった頃、シオノギ内定を伝えたときに誰よりも喜んでくれた二人です。
僕だって両親の期待は裏切りたくないし、ここまで見守り育ててくれたことへの感謝があります。
「自分の」人生ではあるけれど、「自分だけの」人生ではない。
こう感じていたので、親の心を思うと「起業することに決めた」とはなかなか言い出せませんでした。
そんな中、3月になってようやく名古屋の出版社への転職が内定。
「もう先延ばしにはできない」と、当時、親孝行がてらよく計画していた旅行に両親を誘いました。
神戸を案内しながら、起業するために3月末でシオノギを辞めること、4月からは転職先で起業を視野に入れて頑張ろうと思っていることを告白。
父も母も「うん…。そうか…」と返答に戸惑い、落胆した気持ちを隠し切れないようでした。
その姿がどうしても気になり、両親を見送った日の夜、
「ごめんね」
と父宛にメールを送信。
返信は、翌朝6時頃に届きました。
そこに記されていたメッセージは、僕にとって予期せぬもので。
しかし、これまでの迷いや不安、悩みのすべてを一掃してしまうほどに力強いものでした。
画面に映し出された「たった一言」が、僕の意識をガラリと変える起爆剤に
朝起きてすぐ、不意打ちに見た父からのメール。
読むやいなや、両親はもちろん、上司、先輩や後輩など、お世話になったいろんな人たちの顔が思い浮かび、一人ベッドの上で涙が溢れました。
というのも、これまで「起業のために転職する」と確固として言い続けてきた僕ですが、内心は
「俺には特別なスキルも能力もない。何もできないのに、本当に転職して、起業なんかして大丈夫か…?」
と、ずっと張りつめていたから。強がっている部分が少なからずあったんです。
そこへ、厳格で無口な父の、この一言…。
サラリーマンとして家族を支えてきた人だったので、そんな起業家でも自営業者でもない父が起業に理解を示してくれたこと、こうして言葉でエールを送ってくれたことが強力な後押しに感じられ、張りつめていた心の糸がピンと切れました。
「やるしかない。やるんだ。絶対、成功させるんだ」
迷ったり不安になったりするのではなく、「成功のために何ができるか?」だけを常に考えるべきだと【本気の覚悟】ができた瞬間でした。
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たぎる情熱を胸にシオノギを退職し、桜舞う4月、転職。
ただ僕が転職した出版社、蓋を開ければ非常に刺激的かつ魅力的で…。
転職先で何を感じ、どんな経験をしたのか。
さらには旧友と無事、起業することはできたのか。
「九死に一生」までも体験することとなった、下積み時代へ続きます。