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希望を叶えていくための共同意思決定

診察で精神科医に何を質問するか
リカバリーを目指した精神科医療と共同意思決定

これまで記事の中で当院で採用している治療概念やスタイルについて話してきましたが、今回は共同意思決定(SDM)について、その他の治療関係について踏まえたうえでご紹介したいと思います。

従来型の医療:パターナリスティック(父権主義的)について

従来型の医療では、主治医がすべて治療方針を決める、という医師主導の意思決定スタイルで、基本的には治療者の意見が100%採用されます。本人の利益のために、本人に変わって意思決定を行い、意思決定における治療者の責任度は高くなります。

治療者が決めて患者が従う

例えば症状が強く出ていて、緊急的な対応が必要な時など、医者主導の治療が必要な時も確かにありますが、日々の診察がこれだと「薬を貰っているだけだな」「先生に理解してもらえてないな」と思われるかもしれません。
またリカバリーを目指すうえで、このスタイルだと難しいことは以前の記事で説明いたしました。(リカバリーを目指した精神科医療と共同意思決定

インフォームド・コンセントについて

インフォームド・コンセントは、説明を受けて納得したうえでの合意、という意味です。自己決定権の尊重(同意能力が認められる限り、そして他者や社会に危害を及ぼさない限り、自分に関する決定は自らが下す)という考えのもと、治療者が情報を伝えて、本人が決定するスタイルです。

インフォームド・コンセントは、複数の治療選択肢のメリット・デメリットを紹介したうえで本人の意見を全面的に採用するスタイルなので、意思決定における本人の責任度は高く、決定の主は本人にあると考えます。

説明を受けて納得したうえでの合意する

従来型医療よりも良いように思えますが、他科を受診した際に、検査結果を聞いて、治療の選択肢が提示され、効果やリスクの説明があり、どうされますか?と聞かれて、「え・・・どう決めたら良いんだろう」と不安になった経験はありませんか?インフォームド・コンセントはともすると、「あなたの治療ですからあなたが決めましょう」という展開になりえます。

医者主導からパートナーシップへ:SDMについて

近年では新たに、クライエントの想いや希望を大切にして、その実現に向けて、クライエントと医療者が一緒に必要な情報を共有し、共に治療方針を決める共同意思決定(SDM)が重視されています。当院ではこの考え方を採用しています。

情報を伝えて本人が決定するインフォームド・コンセントから、SDMでは治療者とクライエントが互いの意見を積極的に述べるという双方向のコミュニケーションに基づいて治療を進めていきます。治療者も自らの思いを語り、クライエントが自らの希望を語ることで、コミュニケーションはより厚みを帯び、同じ方向を向いて一緒に取り組んでいくことができます。

共同意思決定

従来型の医療では、医者主導なので服薬しているかどうかについて、服薬コンプライアンスという言葉が使われました。服薬コンプライアンスが悪いといえば、医者の指示に従わないということです。しかしSDMのようなスタイルでは、服薬の必要性や作用、副作用の説明があり本人が理解したうえに自ら進んで治療するという意味で「服薬アドヒアランス」という言葉が使われるようになっています。

SDMにおける意思決定の責任はどこにあるのか

従来型医療では治療者の責任度が高く、インフォームド・コンセントでは本人の責任度が高いと書きましたが、SDMではどうだと思われますか?
双方が意見を述べて決めていくのだから、半々ではないか、と思われるかもしれませんが、そうではありません。

まずは治療はなんのためにあるか考える必要があります。
治療は皆さんの希望を実現するため、希望の実現を阻害している問題の解決のためにあるものです。

そして「どうありたいか」「どう生きていきたいのか」という欲求、希望は皆さんの中にあります。医者やコメディカルスタッフが決められるものではありません。したがって自分の希望は何かを考える責任がクライエントの皆さんにはあります。

そして治療者は、皆さんが望むあり方、生き方を実現化していくためには何を治療・リハビリ必要があるのか等を考える責任、それを説明する責任、それについて話し合う責任を持ちます。それに対して皆さんが「あ、そっか」と思えて、一緒に取り組んでいくことがパートナーシップと言えるでしょう。

もちろん「自分がどうしたいかわからない」と希望が見えない、持てない方も多くいらっしゃいます。その場合には、希望を探すお手伝いからしていくのが治療者の責任でしょう。

私達はこのように考えて、日々クライエントの皆様に「どうしていきたいか」と問いかけています。また、希望を耕していくためのデイケアプログラムやカウンセリングなど治療の選択肢を広げています。

さいごに

共同意思決定(SDM)では、治療者とクライエントがそれぞれの立場でそれぞれに責任を持ち、パートナーシップを組んで、一緒に考えて取り組んでいきます。このように書くと、パターナリスティックな医療は悪く思えるかもしれませんが、クライエントの立場からすると自分自身を見つめ、自分のことや自分の将来について考えなくても治療が進むという意味で楽でもあります。

エーリヒ・フロムは『自由からの逃走』の中で、自由は必ずしも解放感や幸福をもたらすものではなく、むしろ責任や不安を伴うため、人は自由から逃げようとするのだと書きました。自由と責任はセットなのでしょう。

今回の記事を書いていて私自身思ったことは、私達がクライエントに「あなたはどうしていきたい?」と問い続けることは、あなたは自由だと伝えると同時に、それについて考える責任を負ってもらうということでもあるように思います。私も無責任に問いかけるのではなく、専門職としての責任を持って問いかけていきたいと思います。

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