アルコールによる奇行は宇宙人化への欲求
「中井ちゃんてさ。放っておけないタイプだよね。」
わかる、わかると美人パート主婦軍団が頷く。
「野菜切んの、ほんとへたくそだった。でもなんか、やってあげたくなっちゃう。駄目なんだけど。」と長澤まさみ×0.5がすてきな声で言う。わたしは六杯めのウイスキーを煽りながら、
「そうですか。なんかすいません。自転車もへたくそなんですよ。」と言った。
「でもそれでも許されるんだから、人徳人徳ぅ。」と童顔の極みがかわいらしい歯を出して横から挟んでくる。それを聞きながら、あれ? わたしなんかこの空気に溶け込んでるくさくない? あれ? なんかマトモっぽくない?と思いながらまたウイスキーを注文する。
昨日は、バイト先の飲み会だった。わたしは引っ越し梱包だけじゃなく、野菜とお洒落な調味料を売ってるなんだかようわからんお洒落な店でも働いている。飲み会の場所はなんとヴィレッジ・ヴァンガード・ダイナー。そんなんあることも知らなかったのだがそれは置いといて……とにかく、とにかくだ。ここで言いたいのは、バイト先の人たちは、どこから呼び込んできたんだよってぐらいの美人軍団で、性格も優しくて、まだ若いのに主婦で、気取ってなくて、まあ要するに……
女の中の限りなく上位
にいる人たちなのだ。
酔っぱらって、春だからってユニクロのブラトップ一枚で風が吹き付ける中、夜桜を見に行ったら雨で全部散っていてしばらく家からめっちゃ遠い公園で途方に暮れたり、マンションのドアを手が腫れるまで殴り続けたり、全然知らないフランス人の写真のモデルをやったり、しない人たちなのだ。
だから、こんな自然に溶け込んでるのがありえない感じなのだ。
それでも。
ああ。酔いがいい具合で回ってきた。
もう酔ったらなんでもいい、だって楽しいじゃんね、仲良くしてくれるにこしたことはないよね、と、アボガドしか野菜を知らねーのかよ、みたいな料理ばっか並んでる皿を箸でつつきながら、わたしは笑顔を浮かべる。
「あ〜、ゆうきちゃんがニヤケてる。それ、何笑い?」
「奇人笑いです。」
「え〜なにそれわけわかんない〜!」
みたいな感じで、時間は極めて牧歌的に流れていった。そう、あのスイッチが入るまでは……
帰り道で皆と別れた後、わたしは身体の奥底から、全力で、
ああ〜!
もっとわけわかんなくなりてぇ〜〜〜!!!!
と絶叫していた。あのパート主婦たちとわかり合えたという普通なら喜ぶべき感じで終わったのに、酔っているせいで思考がぐしゃぐしゃになる。なんつーか全てをぶち壊したい破壊神がどこからかひょっこり現れてきて、ニヤケ顔でわたしを手招きしているのだ。わけわからん思いが次々と溢れ出してきて、
記憶をなくしてぇぇぇ〜〜〜!!!
愛をくれぇぇぇぇ〜〜〜!!!!
飲み直してぇぇぇ〜〜〜!!!!
愛をくれぇぇぇぇ〜〜〜!!!!
みたいなことになる。意味不明だけど。
多分。多分だけど。翌日のシラフ状態のわたしが推測するに、わたしはあの人たちのことを好きになったんだと思う。だから、もっともっとわけわかんなくなって、複雑になって、構ってほしかったんじゃないだろうか。だけど、そんなこと、酔ってるときに考えられるわけもない。だから、なんか理論抜きの実践みたいに、それはまるで暴発する銃みたいに不気味な行動だけが世界に起こされることになるのだ。
朝目覚めた時、わたしは絶句した。
自分が顔にパックを貼付けてラーメンマンみたくなっている写真がご丁寧に印刷されて(多分コンビニ)壁一面にマスキングテープで貼られていたのだった。
なんと孤独な絵面だろうか。
「もっとわけわかんなくなってあの人たちに愛されたい」という思いが奇行となって、誰に届けられるわけでもなくわたしの部屋でひっそりと爆発していたのだった。しばらく凍結した時間がわたしに重くのしかかってくる。
「ん。見なかったことにしよ」
わたしは仕事の準備をした。
そして、そのまま出かけた。
そして今、喫茶店でこれを書いている。
家にかえりたくない。
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