ワイヤードの記事にモヤる部分があったので補足しておく

Wired.jpで「パンデミックで激変する書籍販売ビジネスと、独立系書店の生き残りをかけた闘い」という翻訳記事が紹介されたのはいいんですが、情報を補足した方がいいような。

まずは、アマゾンに対抗すべく準備されてきたオンライン書店Bookshopのタイミングについて。これはアメリカのインディー書店を束ねてきたABA(全米書店協会)との提携があって成長している。どこぞのポッと出のプログラマーがアマゾンに対抗するべく私財を投じて成功した、という部類のエエ話ではない。

ABAが協力したからこそ、これまでEブックの販売にあまり積極的ではなかったインディー書店でも手軽にEブックの売り上げが出せるのと、地元の書店の利益にもなるという仕組みをアピールしたこともあって、大手メディアが取り上げてくれたわけだ。その辺はワイヤードがリンクしている自分ところの記事には書いてあるけど。

次に引っかかるのがこれ。「米国では現在、旅行や外国語、ビジネスに関する本の売り上げは不調である(旅行ガイドの出版には最悪の時期だろう)。」の一文。説得力があるが、実は、旅行ガイドの出版については、これがコロナ禍が原因ではないことが明白だ。

アメリカにおける旅行ガイドの売り上げ推移(Statista)

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このグラフを見るとわかるように、アメリカでは旅行ガイドの売り上げは2006〜2007年がピークで、2億2500万ドルほどの売り上げだったのが、2015年には1億2000万ドル弱と、10年で半分に落ちているのがわかる。コロナと全然関係ない。

アメリカで「るるぶガイド」や「地球の歩き方」に対応する旅行ガイド大手2社はFodor’sフォードアズとFrommer'sフロマーズ。フォードアズは2016年にインターネット・ブランドというネット会社に売却されたし、フロマーズの方は70年代から大手出版社のサイモン&シュスターや、ワイリーに買収されたり、一時期はグーグルがオーナーだったりしたこともあるけれど、グーグルが「やっぱ要らね」となった後は創業者の子孫の手に戻っているようだ。

いずれもネームバリューはあるけれど、紙のガイド本としてではなく、オンライン旅行情報サイトや、旅行関連情報のブランド名として残っている。だから、今回のコロナ禍による外出禁止令のせいでいきなり不調となっているのではない。

旅行ガイドが廃れてきた背景には、海外旅行情報は鮮度が命なのでTripAdvisorなどネット上の最新情報が利用されるようになったこととか、まずニューヨークなら自由の女神、といった最大公約集的な旅行より、個人の興味関心を中心に、ありきたりの観光コースとは違う、自分だけの旅行をしたい人が増えたことなどがあるだろう。アメリカ人もインスタ映えする写真を撮るためだったら、富士山とか浅草寺といったありきたりの場所ではなく、京都の竹林とか、早朝の宗安寺とか、ニッチな場所に出かけていくわけだ。この辺のところ、日本のインバウンド観光誘致が対応できてなくて笑ってたけど、コロナ禍で入国者数そのものがあぼーんしたよね。

そしてコロナ後の世界では、人があまりいない穴場的な旅行先や、ソーシャルディスタンシングなどのコロナ予防策をきっちりやっている観光スポットかどうかという情報が求められるようになるだろうから、今まで通り旅行ガイドを刷っても売れないだろうなというのは誰にでもわかる。

ワイヤードの記事の最後にあるインディペンデント書店についての部分に異論はない。コロナ後の世界での新たな取り組みに関してはこれからも伝えていく。まずはオンライン著者イベントあたりか。

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