LINEみらい財団主催「GIGAスクール時代における新しい情報モラル教育のポイント~組織的な推進のポイント、教員・保護者の現状調査データ、活用型情報モラル教材のご紹介~」オンライン説明会レポート【前編】
一般財団法人LINEみらい財団(以下、LINEみらい財団)では、GIGAスクール構想の中でより重要となっている「情報モラル」と「情報活用」の知識・思考力の育成や向上を図るために開発した、活用型情報モラル教材「GIGAワークブック」の、自治体様・学校様に向けた説明会を2023年6月16日に開催しました。
説明会の様子はアーカイブ動画でご覧いただけます。
また、レポート記事(前編、後編)をLINEみらい財団のnoteに掲載しておりますので、ご覧ください。
レポート記事【前編】では静岡大学准教授 塩田真吾氏による「GIGAスクール時代における新しい情報モラル教育のポイント」についてお話いただいた内容を紹介します。
▼アーカイブ動画はこちらからご覧になれます。
■GIGAスクール時代における新しい情報モラル教育のポイント
(静岡大学教育学部 准教授 塩田真吾氏)
1.GIGAスクール構想で「端末」は1人1台へ
そろえただけでは意味がなく、どう使いこなすかが大切
GIGAスクールが始まって、より大切になってくる情報モラル教育について、どのように進めていけばいいのか、そのポイントをお話させていただきます。
児童・生徒1人1台のGIGAスクール端末(以下「端末」)がそろって、すでに活用している自治体・学校が多いと思います。端末をそろえるだけでは意味がなくて、子どもがどう使いこなすか、そのために子どもたちの情報活用能力をどう育てていくのかが、大切なポイントになります。
情報活用能力のイメージがわかないという話も聞きますので、簡単な図を書いてみました。
大きく3つの分野に分かれています。
まずは基本的な操作スキル(赤色)。これはキーボードの入力や検索など、基礎的な端末の操作ができるかどうかということです。
次に探求スキル(緑色)。例えば端末を使って必要な情報を収集できるか、手に入れた情報を整理・分析できるか、そしてそれを表現できるかです。ここには統計的なものやプログラミング的思考なども入ってきます。
そして、これからお話する情報モラル(青色)。健康のことや、セキュリティ、著作権、コミュニケーションなどに関する知識や能力です。
情報活用能力は、端末の操作や探求的なスキルなどを含めた情報を上手に活用する力と、リスクに対応する力の両面が必要で、どちらも育てていかなくてはいけません。このリスクに対応する力が、情報モラルに入ってくるものになります。
しかし、これら3つのうち、基本的な操作スキルは端末を使えば使うほど伸びていきますが、探求スキルと情報モラルは意図して育てないと伸びていきません。ですから、やはりこれからは、子どもたちの情報モラルも含めた情報活用能力をどう育てていくのかがとても大切になります。
2.情報モラル教育は、活用型情報モラル教育へ
端末の活用場面では、情報モラルもセットで学ぶ
新しい学習指導要領(総則)の解説で、改めて情報モラルについて確認すると、「情報モラルとは、情報社会で適正な活動を行うための基になる考え方と態度」であるという文がよく知られていますが、それ以外にも「他者への影響を考え」ましょうとか、「人権、知的財産権など自他の権利を尊重」しましょうとか、「情報の収集、判断、処理、発信など情報を活用する各場面での情報モラルについて学習させることが重要である」ということも書かれています。
さらには、「将来の新たな機器やサービス、あるいは危険の出現にも適切に対応できるようにすることが重要」とあります。これには、最近話題のチャットGPTの問題をどう考えるかみたいなことも含まれてくるでしょう。
また、「情報モラルに関する指導は、道徳科や特別活動のみで実施するものではなく、各教科等との連携や、さらに生徒指導との連携も図りながら実施することが重要である」ともいっています。
これまで情報モラル教育は、どちらかというと場当たり的なトラブル対応で終始してしまうことが多かったのではないでしょうか。もちろんそれも大切ですが、これからは情報モラル単体で考えるのではなく、情報を上手に使う力とリスクに対応する力の2つを合わせた情報活用能力をどう育てていくのかがポイントになってくると思います。
ただ、情報モラル教育の課題として挙げられるのは、やはりどの時間でやるのか、その時間をどう捻出するのかということです。これまで、道徳や学活、総合等の時間で45分とか50分かけてやってきた情報モラル教育の時間をもっと増やせるかというと、なかなか難しいと思います。
GIGAワークブックを開発するにあたっては、そこをかなり意識しました。我々が提案させていただいているのは、端末を使ういろんな教科の場面場面で、上手な活用と情報モラルをセットでやりましょうということです。例えば、端末を使って検索する場面では、上手な検索の仕方と情報の信頼性についてセットで教えてあげるとか、何かを作る場面では上手な作り方と共に著作権についても教えてあげるとかです。そういうものを場面ごとに短くやっていく。我々はこれを「活用型情報モラル教育」と呼んでいます。45分間がっつりやる情報モラル教育と、場面ごとに短くやる情報モラル教育、両方でやっていきましょうというのが、これからのスタンダードになっていくのではないかと思います。
3.情報活用型教材「GIGAワークブック」の紹介
端末の活用場面ごとに短いワーク形式のコンテンツを用意
以上に述べたことを具体的にどう指導していくかまとめたものが、GIGAワークブックです。
主に小学校1~3年生向けの「ビギナー」、主に小学校4~6年生向けの「スタンダード」、そして主に中学生・高校生向けの「アドバンスド」の3種類があり、特長は以下の3つです。
① 情報活用能力全体を身に付けていくために情報モラルを単独で学ぶのではなく、情報活用とセットで学べる。
② 45分や50分の授業だけではなく、10分、15分といった短い時間でも情報モラルを教えられる。また、ワーク形式になっており、子どもたちどうしで考えながら、話し合いながら進めていける。
③ ICTの活用場面で使える、活用型情報モラル教材である。
もう少し具体的に言うと、15分用の短いワークでは、ICTの活用場面を、調べる、交流する、写真を撮るなど8つに分けました。その8つの場面に対して、それぞれ活用スキル、情報モラル、セキュリティ・トラブル対応の3つのコンテンツを用意しています。8場面で3コンテンツずつですから24コンテンツあるということです。
例えば、端末を使って「考える」場面での「活用スキル」。これ(下図)は小学校高学年向けのものですが、「情報を上手に整理しよう」と題し、情報活用能力として情報を整理する力を学べるワーク教材を用意しています。
また、「写真を撮る」場面の「情報モラル」の小学校低学年向けの例(下図)では、どうやって写真を撮るか、そのとき気をつけなければいけないことは何なのかということをワーク形式で学べるような教材になっています。
同じく「写真を撮る」場面の「トラブル対応」では、勝手に写真を撮られたら相手にどのように伝えたらいいかな、ということを考えさせるようなワーク教材もあります。
そして、「家で使う」場面の「情報モラル」の小学校高学年向けの例(下図)。これから長期休み(夏休み)もあり、端末を家に持ち帰って使うことが多くなります。家で使うときは、学習の目的で使いなさいと指導すると思いますが、どこまでを学習の目的といえるのか、「クラブ活動の練習のために、端末でバドミントンの動画を見た」など具体的な例を4つ示し、それぞれ学習の目的といえるのかいえないのか、子どもたちが考えて議論できるような教材になっています。こうした議論があると、ルール作りなどもやりやすくなります。
このようにICTを使う8つの場面ごとにワークが用意されており、情報活用能力を身に付けられるようになっています。
繰り返しになりますが、これからの情報モラル教育のポイントは、場当たり的なトラブル対応で終わるのではなくて、活用スキルと情報モラルを合わせた情報活用能力を育てていくことです。先生方には、ぜひここを意識して指導していただけるとよいかと思います。
※「GIGAスクール時代における新しい情報モラル教育のポイント~組織的な推進のポイント、教員・保護者の現状調査データ、活用型情報モラル教材のご紹介~」オンライン説明会レポート【後編】はこちら(リンク)
講師プロフィール
静岡大学教育学部 准教授 塩田 真吾(しおた しんご)
早稲田大学大学院博士課程修了、博士(学術)。千葉大学特任研究員、静岡大学教育学部助教、講師を経て、2015年より現職。専門は、教育工学、情報教育。第4期静岡大学若手重点研究者に選定。2021年より文部科学省ICT活用教育アドバイザーを務める。