海浜サナトリウム#1

青年が喀血したのは、連合軍に入隊して2年後の秋の暮れの日のことだった。

その日は晴れていたが、空気には肌に心地よさを感じさせるひんやりとした冷気を含んでいた。

彼はその日もいつものように早朝6時に起き、洗面台で顔を洗い、配給のライ麦パンと牛乳を食した。同じ時期に入隊した仲間と談笑し、その後軍議に出席するため準備をし始めていた。

元来几帳面な性格の彼は、寄せ集めの軍隊にとって貴重な事務官として重宝されていた。将軍の傍らで、新規入隊者、除隊者、軍議の書記、軍資金の管理など、あらゆる必要な情報を書類にまとめ、将軍や軍師の右腕として働き続けていた。

彼の身体が異常を知らせ始めたのは、2ヶ月ほど前に遡る。

秋口の急な冷え込みをきっかけとして感冒様症状が出現する。彼は、痰の絡んだ咳を引きずったまま日常通り任務を果たしていた。軍医に去痰作用のある薬草を処方してもらい煎じて飲んでいたが一向に治ることがなく、そのうちに夜間の盗汗、日内に変動する発熱が現れてくる。彼は忙しさからそれ以降軍医にかからず、身体の変調をおして膨大な量の書類整理と鍛錬に身を投じていた。

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