柔らかな朝#5

彼は同じ旋律を懸命に繰り返し弾き続けた。
行進曲は壮大な旋律だったが、小さな家の古いピアノで弾くとどうしても音色が充分に響かず、どこか迫力に欠けた。それでも彼は防衛軍の威厳を表現するために力強く演奏を続けた。いつか彼の繊細な指が折れてしまうのではないかと心配するほどだった。

私は刺繍をし始めた。深緑の刺繍糸で、彼の名のイニシャル「H」を、ブラウスのポケット、スカーフ、非常食袋、楽譜ケース…彼が軍で使用するもの全てに思いを込めて刺繍していく。
長い時間、刺繍をすると、多少私の指にも疲労感を感じる。たくさんの人々のために鍵盤の上を休むひまなく動き続ける彼には到底及ばないけれど、少しでも彼の指が受ける疲労を理解できるのではないかと、私は願う。

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